氷菓/その他 [etc]
7月18日~7月26日
氷菓
TVアニメ『氷菓』全22話を観了しました。
これは米澤穂信の小説が原作の京アニ作品。原作は“日常の謎”モノのミステリーで、まぁ、日常のちょっとした謎や不思議な事を、徹底的に論理的に解明していく・・・といったものなので、地味といへば地味な話なのですが、これを京アニは見事に映像化。かういった会話が主体でアクションが少ない話を映像化したものでは、シャフト制作の『物語シリーズ』が有名ですが、前衛的でトンガッタ映像でそれを表現するシャフトと違ひ、京アニは息を呑む様な美しい映像とスピリチュアルな表現でそれを描きます。地味ながらも重要な作品だ、と感じましたので、ちょっと書いてみたいと思ひます。
『たまこまーけっと』『Free!』など、さりげなく魔術的な作品を作るのが得意な京アニですが、この『氷菓』もかなりさりげなく魔術的です。それは端的に映像表現にも現れてゐて、現実と非現実が混じり合った様な幻想的で美しい映像表現が多用されるのですが、それだけではありません。作品自体が、とても魔術的なものを表してゐるのです。
主人公の一人、千反田える。彼女はとても魔術的な存在です。一見、単なる田舎の豪農の天然系お嬢様(且つ美少女)にしか見えないですが、彼女はただ者ではない。彼女が霊能力を持ってゐるのは確かです。まづ、その抜群の記憶力。知ってゐる人は知ってゐると思ひますが、ずば抜けた記憶力とは霊能力の一種です。密教でも「求聞持法」といふ記憶力を高める秘法があり、空海がそれを修めたのは有名。聖徳太子も一度聞いた事は忘れなかったと云ひます。
次に抜群の嗅覚。えるが、他の人には全くわからない匂ひに気がつく描写が何度かありますが、抜群の嗅覚もむろん霊能力の一種。異常に勘の鋭い人の事を、「嗅覚が鋭い」と言ったりしますが、異世界やスピリチュアルなものは、匂ひとしてこの世に現れるのです。もちろん、普通の人はそんなものに気がつきません。それに気がつく人の事を「嗅覚が鋭い」といふのです。
そして何より、「わたし気になります!」といふ、異常な好奇心。これこそ彼女の持つ最大の霊能力です。そもそも彼女の好奇心は、素敵な男の子のあれこれ、とか、有名人のゴシップのあれこれ、とかいったものには向かひません。日常のどってことない事に、普通の人なら見過ごすかやり過ごす事に向けられます。これは、彼女が世界を正しく魔術的に観てゐるからです。
我々の前に立ち現れるこの世界は、継ぎ接ぎで綻びだらけで、一枚岩ではありません。様々な謎や矛盾に満ちてゐる。しかし、普通の人はそんな事には気がつかず、この世を一枚岩だと誤認して、自分勝手な思ひ込みに安んじて生きてゐます。そして、俗事にかまけてその生を終えていく。
が、えるは、その綻びが、謎が、矛盾が、気になって仕方がない。それがはっきり見えるからです。幻に誤摩化されず、正しくこの世界を見つめる能力、それこそ最大の霊能力なのです。
そしてもう1人の主人公、折木奉太郎。彼は「やらなくていい事はやらない、やらなければならない事は手短かに」を信条とする青年で、この世にコミットするのを忌避する(一見)無気力な人間です。しかし、本人も気がついてゐませんが、彼が興味がないのはこの世の俗事のことで、実はこの世の真実に関はる事柄に関してはさうではない。その事に、えるを通して気がついていきます。彼には、“日常の謎”を解く、といふ力があったのです。
“日常の謎”がこの世の真実への扉だとするなら、彼にはその扉を開く霊能力がある、といふ事になります。実際、日常の謎を次々と解く奉太郎に対して、昔から彼を知る友人は「折木って、こんなに頭良かったっけ?」と疑問を呈します。むろん、彼は俗事には関心がないですから、その問題を解決する事はありません。世の中で頭が良いとされる人は、俗事の解決能力が高い人の事ですから、奉太郎はあまり頭が良いとは思はれてゐないのです。いはゆる阿呆、愚者、といふ奴です。しかし、彼には“日常の謎”を“この世の綻び”を解く力がある。たとへその重要性が、一般人には理解されないものだとしても・・・。
この様に、『氷菓』は地味ながらも魔術的な象徴性に満ちた良作なのですが、表面上は普通の高校生の生活が描かれるだけです。物語の最後も、劇的な展開など何もなく、普通に終わっていきます。が、私はここである事にハタと気がつきました。
もともと千反田えるは積極的な女の子でした。けっこー積極的に奉太郎にアプローチをしかけてくる。とはいへ、それは彼女の天然(ボケ)な性格の故かと思ってゐたのです。が、最終話に至って、それはちょっと違ったのではないか、と。彼女は最初から婿取りを前提に動いてゐたのではないか、と思ったのです。彼女の実家、千反田家は田舎の旧家・名家です。屋敷はバカでかいし、かなり浮世離れした様子。たぶん、昔から伝はる家宝や家伝、秘儀・秘伝を多く持ち、土地を守る国津神の様な役目を担ってゐると思はれます。それが、彼女の持つ霊能力の所以でもあるのでせう。
そんな彼女には婿が必要です。家を守り、継ぎ、伝へていくに相応しい婿が。審神者的資質と能力を持った奉太郎は、それに相応しい人間だったのではないでせうか。
さう考へると、この『氷菓』は、千反田えるが婿候補の人間に出会ひ、彼が本物かどうか確かめ、婿取りへと歩を進める・・・といふ話になります。さう思ふと・・・なかなかに興味深いよねー。
その他
傑作アニメ『Free!』を監督した内海紘子が、京アニ・アニメーションDOから居なくなって、ファンの間では騒然となってゐたものですが、どうやら(アニメ業界での)生存が確認された様です。劇場版『遊戯王』の作画監督に名を連ねてゐるのが確認されたとの事で、これは嬉しいニュース。内海さんには『Free!』を超える傑作を是非とも作ってほしい。
・・・と喜んでゐたら、なんと!『けいおん!』『らき★すた』『たまこまーけっと』の作画を手掛けてゐた堀口悠紀子が京アニを退社!のみならず、アニメ業界からも去ってしまった・・・といふニュースも飛び込んできた!えええー、うっそー。いや、噂の真偽は分からないんだけど、もし本当だとしたら、かなりのショック。『けいおん!』の作画は歴史に残ると思ふけどね。うーむ。
六曜社の修さんが、久々の新作を出された様で・・・。今回はアナログ盤も作ったとの事で、ウノピが「六曜社で修さんから直接買ってきましたー」と嬉しさうに見せてくれた。おお、かっこえージャケット!で、内容はどんな感じ?
「どうやらヴァン・モリソンの『アストラルウィークス』みたい、と評されてゐる様ですよ。」
げげ!それは凄い。私はヴァン・モリソンはそこまで好きではないけれど、『アストラルウィークス』だけは別格だからなぁ。あれは、凄いアルバムだ。
「ボクはヴァン・モリソンの大ファンです。で、修さんも最も好きなアーティストのひとりらしいですよ!嬉しいなー」
はいはい、良かったね。
・・・・・・後日、ウノピからは「実際聴いてみたら、高田渡みたいなアルバムでした」とのコメントを貰ひました。うむ、わかるわー。
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