1月27日〜2月2日 [etc]
100円の本
私は若い頃から古本屋さんを廻ったりするのが好きだったけれど、別に珍本・稀覯本を求めてゐる訳ではなく、単に安く本が買へるから、といふ理由なのであった。これはレコードとかでも同じで、別にレアなレコードを求めてゐる訳ではない。だから、一時期血迷ってノーザンソウルの世界に足を踏み入れた時は地獄をみました。めっちゃハーコーなマニアの世界やったし・・・。で、早々とそっから撤退。やっぱ自分にはマニアの世界は性に合はんわー、といふのが結論でした。
考へてみれば、私が古本屋や中古レコード屋を廻る楽しみの最大のものは、一冊100円とか一枚300円とかのブツが無造作に放り込まれた店頭の餌箱を漁る事だったりする訳で・・・。いやー、我ながらセコい。確かにセコいんだけれど、ちょっと言ひ訳すると、別に「安く買へた!」といふ事が喜びの全てではない。基本私は、自分の好きな作家やアーティストの作品は定価で買ふ事にしてゐます。だって中古で買ってもそのアーティストたちにお金が行かないやん。だから私が100円とかで本やレコードを買ふ楽しみは、主にその事によってなんだか訳の分からないブツとか、自分がそこまでよく知らない・興味がそれほどはない、でも気になるかも・・・といった作家やアーティストのブツを買ふ事にあるのです。
これ、さっき気がついたんだけれど、いま私がマツヤマさんやヤマネくん(やウノピやオーソン)とやってゐる映画の「強制起訴シリーズ」と似てるね。自分が観るつもりのない映画を強制的に観る、と。なんか、自分の趣味に安住したくない、といふ想ひがあるのかもしれません。そら、マニアの世界とは性に合はんわー。
ルネサンスの女たち
で、最近買った100円の本に「ルネサンスの女たち」塩野七生著(中公文庫)があります。塩野七生は、エッセイを何本か読んだ事があるくらゐで、そこまで興味のある作家さんではありません。が、現代における大物のひとり、気になる存在ではあった訳です。そこで100円でゲット。即、読んでみました。
うん。内容も、面白さも、予想してゐた通り、といへばその通りなんですけど、やっぱ面白いです。100円分の満足は十分にある。
この作品、ルネサンス時代の女性四人を取り上げて、それぞれの評伝を書いてあるのですが、個人的に面白かったのがルクレチア・ボルジア。いや、私のルクレチア・ボルジアに対するイメージって、澁澤経由なんで・・・淫婦、近親相姦、毒殺!ってなもんなんですが、これと全然違ふ。むしろ受け身で優しくて、時代の波に翻弄された女性、として描かれてゐます。兄チェザーレとの近親相姦なんてトンデモナイ!澁澤が、近親相姦故に起こったと説明する事件も、全て当時の政治状況などの怜悧な分析によって説明されます。多分、塩野七生の方が正しいんだらうなぁ・・・。
事件の解釈のみならず、事実にも齟齬がある。チェザーレが自分の兄弟であるガンディア公を殺した、といふ事件があるのですが、澁澤はこの被害者をチェザーレの兄のガンディア公ジョバンニ、としてゐるのに対し、塩野七生は弟のガンディア公ホアンとしてゐる。兄なのか、弟なのか。これも、塩野七生の方が正しい様な・・・。
さらにいふなら、澁澤は「チェザーレ・ボルジア」としてゐるのに、塩野七生は「チェーザレ・ボルジア」としてゐる。これも塩野七生の方が・・・!
いや、でも澁澤だって、実はルクレチアが淫婦だったといふのは伝説の可能性が高い、とちゃんと書いてゐます。書いてゐるんだけど、しれっとそっちのイメージでルクレチアの像を描き出す。確信犯なんだけど、やっぱ私はそんな澁澤の方が好きだわー。
塩野七生の他の本も読んでみようといふ気になりました。
あの花
アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」を観ました。
あ、これから書く文章はネタバレしてるので、観る予定のある人は読まない方がいいかも。別にネタバレしてどーこーといふ話でもないんですが、まぁ、知らない方が見た時に面白さがちょっとだけ増すかなぁ、と。
このアニメ、結構面白かったです。とても良くできたアニメだと思ふ。まぁ、所謂泣けるアニメといふ事になるのか、観てゐる者の情動をうまく揺すぶる様にできてゐて、これがなかなかの手練。むろん、手練で情動を動かしていく訳で、その「泣ける」は感動とは別物。別に、感動する様な話でもないし。その点は「まどマギ」なんかとは違ふ。だから、通常の私なら、技巧だけで情動を動かすものに対しては、涙を流しながらも内心「ケッ」と拒否るんですが、このアニメにはそんな気は起こらなかった。何故なのか。
ひとつは、この作品がアニメである、といふ事に起因すると思はれます(が、その内実はよく分からない)。あとは、そもそもこの作品の主題が、技巧で情動を動かすこと、にあるからではないでせうか。
主人公の“じんたん”は、子供の頃は頭も運動神経も良く、統率力もあって仲良しグループ(超平和バスターズ)のリーダーとして輝いてゐました。が、早過ぎる母親の病死によって心を閉ざしてしまひ、続いて起こったグループ内のアイドル的存在“めんま”の事故死、それに起因する仲間たちの離散によって、さらに壊れ、高校生になっても学校も行かず、引きこもりの生活をしてゐます。そんな“じんたん”を救ふべく(?)、“めんま”が幽霊となって戻ってくるのです。実は“めんま”は、自分の死を予感した“じんたん”の母親から、心を閉ざしつつある“じんたん”の心を開いてくれる様に頼まれてゐたのです。辛く悲しいはずなのに、歯を食ひしばって泣かない“じんたん”(故に心が閉じつつある=自由な感情表現ができない)を、「必ず泣かす!」と“めんま”は“じんたん”の母親に約束します。その約束を果たすために、この世に戻ってきた“めんま”。だからこの作品の主題は、「心を閉ざして自由な感情表現ができなくなった人間を、技巧的に泣かすことによってカタルシスを起こし、自由な感情表現を取り戻させ、社会に復帰させる」といふものなのです。
むろん“めんま”の手練手管は上手くいかなくて、そんなのと関係ない所で“じんたん”は泣くことになるのですが、その点も含めて作品自体が手練手管で視聴者を泣かす。最後なんか、あんまり気恥ずかしい展開で、普通だったらムリ!な感じなんですが、なぜか素直に泣けてしまふ、といふ。主題との通底性故でせう。よくできてます。
個人的には、“じんたん”の「地底人」Tシャツがツボでしたー。
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