メアリー&マックス [映画]
「メアリー&マックス」アダム・エリオット監督を梅田シネ・リーブルにて観ました。
これはクレイ・アニメーションの映画です。クレイ・アニメとは、まぁ、泥を使って人形を造り、それを使って撮るストップモーションアニメなのですが、一般的には「ウォレスとグルミット」や「ピングー」なんかが有名でせう。が、この映画はそれら可愛らしくて健全なものとは一線を画してゐます。
この映画はアダム・エリオットにとって初の長編となるみたいですが、彼がそれまでに撮った短編や中編で、扱はれるのは脳性麻痺やトゥレット症候群など、なにかしらの障害を持った人たち。しかも、実際に身の回りにゐる人々をモデルにしてゐる様で、彼は自分の映画の事を“クレヨグラフィーズ”と呼んでゐます。これは彼の造語で、“クレイアニメで綴るバイオグラフィー”との事。実をいふと、彼自身、ゲイであり病理震顛を患ってゐて、故にか、マイノリティで世の中で生きて行く事に困難を覚えてゐる人たちに深くシンパシーを感じてゐる様なのです。で、さういった人たちの存在、人生を、リアルに真摯に描きたい、と。
彼にとって、クレイアニメとは、自らのファンタジー世界をこの世に造り上げるものではなく、この世の中をより真摯に捉へる試みなのでせう。
この「メアリー&マックス」では、おでこにウンチ色の痣があって、苛められっ子で、友だちの居ない孤独な少女メアリーと、44歳でアスペルガー症候群のユダヤ人マックスとの、20年に渡る交遊が描かれます。
アスペルガー症候群とは、近年日本でも有名になってきましたが、発達障害の一種です。超簡単にいふと、他人の気持ちが分からない、といふ社会性の障害。自閉症の一種でもあるのか、な。つーか、最近ではどうやら“自閉症スペクトラム”といふ考へ方が主流になってゐる様で、つまり一般人から強度の自閉症まで、なだらかなスペクトラムを成してゐて、はっきりした境目なんかない、と。で、その中間あたりのどこかに、アスペルガー症候群と言はれる人々が当てはまる、との事の様です。
なるほど、アスペルガーやトゥレット症候群に真摯に取り組んでゐる彼の映画世界では、人々がスペクトラムを成してゐます。みななだらかに繋がってゐて、しかとした境目はありません。メアリーもマックスも、彼・彼女を疎外する一般人も、みな本質的に同じ。みな同じ泥人形、とでもいふか(当たり前か)。それでも、スペクトラムのどこに位置するかでやはり違ひはある訳で、でもやっぱ本質は繋がってゐるといふ事は、その位置を移動できるといふ事。実際、メアリーはその位置を移動し、その事によってマックスとの間に事件が持ち上がる訳で・・・。
ニューヨークの街並は、あのダイアン・アーバスの写真を基にして作った!といふ事で、なかなか拘りを感じさせます。お話にも甘さがなく、ブラックユーモアに満ちてゐて、いい感じ。是非、他の作品も観てみたい、と思ひました。
ただ、難点をいふと、あまりにクレイ・アニメがスムーズで、あんまりクレイアニメらしくないのでは、と感じたこと。もしかしたら、今やこれぐらゐ当たり前で、これがスタンダードなのかもしれませんが・・・。やっぱ、もっと、グチャッと潰れたりしてほしいんだよね。グニューと伸びるとか。うーむ。
なにか、私は根本的にずれてゐるのかもしれません。
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