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2009年10月31日(Sat)

THE G FILES 音楽

私は“一番”を決めるのが苦手です。
と、いふか、そもそもそんな考へは間違ってゐるんぢゃないか、とさへ思ってゐますので、「一番好きなヒップホップアーティストは誰ですか?」などといふ問ひには困り果ててしまふのです。
さういふ時に、「そんなもん決められる訳ないだらう!」と強く言ひ返す力のない私は、「うう〜ん」と頭を捻って考へ込んでしまふのですが、大抵、「ウォーレンGかな」と答へます。ま、ある意味、さう答へると決めてゐる所もあるのですが、むろん、ウォーレンGが一番好きなアーティストだと思はれても構はない、と考へてゐるからでもあるのです。
そんなウォーレンGの待望の新作「THE G FILES」が出ました。

前作の「In The Mid-Nite Hour」(05年)は、賛否両論の別れたアルバムでした。ウォーレンGのキャリアの頂点をなすアルバム、と評する肯定派と、ウォーレンGらしからぬ失敗作、と評する否定派と。私は断然、肯定派でした。このアルバムでウォーレンGは確実にネクストレベルに移行した、それが分からない連中はウォーレンGの事を何も分かってゐないのだ、と息巻いたものです。まー、ファンとは愚かしいものですね。
で、さういった経緯もあったので、今回のアルバムは正に“ファン待望”であった訳ですが、その評価はいかに。

現在の段階では、私のみた所、概ねみんな肯定的・好意的の様です。私も、前作には及ばないものの、十分に満足できる内容、といった評価です。が、前作の否定派の人たちとは、やはり少々受け取り方が違ふ様にも思へます。
前作の否定派の人たちは、「ウォーレンGが戻ってきた」といった感じで評価してゐる様です。しかし、私に言はせると、今作は明らかに前作の延長線上です。前作で確立した、徒手空拳な音にGな情感を滲ませる、といふスタイルの延長線上にある、とみなしてゐます。ただ、今作は、その上に幾分華やかなウワモノを多く載せて、聴きやすくした、といふ違ひはあるでせう。

この表面的な(?)メロウネス&スムースネスを捉へて、前作否定派の人たちは「ウォーレンGが戻ってきた」と評してゐるのかもしれませんが(それに回顧的なリリックやフロウの引用など)、やはり曲の根本から前々作以前とは違ふと思ふのです。
新しいスタイルの確立は、新しい精神の確立を意味します。それでは、どの様な精神をウォーレンGは前作で確立したのでせうか。

ウォーレンGは、ウエッサイヒップホップの勃興の一翼を担った人です。それまでは主に東海岸のものであったヒップホップに対し、ウエッサイといふ新しいヒップホップ概念を提示し、様々な社会問題を引き起こしながらも一時期は全ヒップホップ界を制し、その後、新たに勃興してきたダーティサウスヒップホップにその王座を譲り渡して、今はそれほどの注目は浴びないながらも、一定のファンに支へられて、それなりのシーンを形成してゐるウエッサイヒップホップ。その軌跡は、彼らがロングビーチのゲットーを抜け出して世界へ、陽の当る所へ、出て行くものでした。
その過程で、彼らは様々なものを手にしたでせう。莫大な富、名声、女、高級な酒と料理とパーティーライフ。クルマ、邸宅。そして勿論、世界中のレコード、一流の演奏・録音機材、スタジオ、人脈。彼らはそれらを使って、さらなる自らのステップアップを、続けていったのです。
その結果、(血は繋がってゐませんが)兄のドレは世界有数のプロデューサーとして生きる伝説と化し(「デトックス」はホントーに出るのか!)、親友のスヌープは、全国区のトップスターとなりました。そんな中、ウォーレンGは他の人たちとは一定の距離を保ち、マイペースを貫き、独特の立ち位置をキープしてきた様に思はれます。それは、彼の資質・性格・思想による所が大きかったでせう。が、それでも、精神に於いては、ウォーレンGも他の連中と似たり寄ったりだったのではないか、と思へるのです。
それが、前作の「In The Mid-Nite Hour」で変はりました。

彼は、もう「I WANT IT ALL」ではなく、「そんなにたくさんのものは要らない」と志向する様になったのではないか。たくさんのものを手に入れ、それらを使ってゲットーから陽の当る場所へ、ではなく、ゲットーこそ自分の場所、そこでやっていくには、そんなにたくさんのものは要らない、と志向する様になったのではないか、と思ふのです。
「In The Mid-Nite Hour」からは、ゲットーの荒野に立ち尽くすウォーレンG が幻視できました。それは、実はヒップホップの原風景でもあるものです。
ヒップホップは、ゲットーの荒野に徒手空拳で立ち尽くす、といふ原風景を持ってゐます。そして、そこを抜け出て陽の当る場所へ、といふベクトルと、そのゲットーの荒野こそマイホームタウン(自分の居るべき場所)、といふベクトルに引き裂かれてきました(実は、ブラックミュージック自体がさうです)。ウォーレンGは、前作で、ベクトルを後者の方に変へたのではないでせうか。一見やってゐる事は似てゐますが、ベクトルの方向が違ふ、といふ事です。
そしてその事は、アメリカ発の世界大恐慌で荒れ・沈んでゐる現在に於いて、大いに意味がある事だと思へるのです。現在の我々に必要なのは、荒野に徒手空拳で立つための音楽でせう。

ウォーレンGが一番好きなヒップホップアーティスト、でも構はないかな、やっぱり。

WARREN G - Crush feat. Ray J

別にウォーレンG自身がゲットーに戻って暮らしてる、といふ訳ではないですよ。言ふまでもない事ですが。

Comments

投稿者 すた : 2009年11月19日 14:40

初めまして。ウォーレンGが好きなのですね。
わたしはI WANT IT ALLのPVが大好きです。
スーツ姿のウォーレンGは無敵のかっこ良さですね!
おんなじことを続けて4回言うリリックも好きです!

投稿者 元店主 : 2009年11月22日 01:36

すたさんコンニチハ!

私も「I WANT IT ALL」のPVは大好きですよ。
と、いふか、あれこそヒップホップのPVの最高峰でせう。
見るたびに、胸が締め付けられる様な感情に襲はれます・・・。

オレは全てが欲しいんや!んや!んや!んや!

・・・なんか「河内のおっさんの唄」っぽいな。

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