エモ [etc]
私がテレビを全く見ないことは、私の周りの人間の間では周知であるけれども、それほど親しい訳ではない人々の間では、むろんそんな事は知らない訳で、当然の事ながら、この事実を知ると、大いに驚かれたり、爆笑されたりする訳です。未だに。
「それは人生の楽しみの大半を放棄してゐる事だよ!」
などといふセリフは聞き飽きました。ほんとにみなさん、テレビを見ない私に対してこの様にいふので、世の中の人たちはほとんどが人生の楽しみをテレビから得てゐるのか・・・、とゾッとする事しきりです。かういった人たちは、音楽を聴いたり、映画を観たり、小説を読んだり、歌舞伎を観たり、美術を鑑賞したり、ワインを堪能したり、下らない事を研究したり、知られざる真実を探求したり・・・などといふ人生の楽しみを全く知らないで一生を終えていくのでせうね。
ま、それはそれ、人生は様々なんで、私は全く構はないんですけどー。
先日はさういった人から、新たな、些か意表をつく質問を受けました。
「そんな、テレビを見ないんだったら、笑ひたい時はどうするの?」
・・え? 私は一瞬、絶句してしまひました。質問の意味がよくわからん・・・。
そんな、笑ひといふのは、何か面白い事や意外な事に出会った時に自然と起こるもので、笑ひたい時に何かをして笑ふ、といふものではないんではないか?それともこれは、気分が落ち込んでる時とかに、その気分をあげたい、といふ意味だらうか。いや、それと“笑ひたい時に何かをして笑ふ”といふのは、やはり性質が違ふ様な・・・。
ここで、私はハッと気がつきました。これは、もしかして、いはゆる「エモ」と同じ事なのではないか!
「エモ」とはネット用語で、実は私はネットもあまりみないので間違ってたらゴメンナサイだけれど、「萌え」と同種の言葉である(はず)。つまり、「萌え」が、メガネや猫耳などのアイテムに、文脈を無視して「萌える」のと同様に、「エモ」は、難病や生き別れなどのアイテム(?)に、文脈を無視して「泣く」事である。さういへば、「なんか久しぶりに泣きたいんだよね〜」みたいな事、言ってる言ってる!
といふ事は、この「笑ひたい時に何かをして笑ふ」といふのも、同じ種類のものなのでせう。う〜む、これは、全く世界が違ふ。質問の意味が分からない訳だ。
これらの人々は、まるで機械の様に、なにかボタン(「猫耳」とか「難病」とか)を押されると、泣いたり笑ったり萌えたりするのでせう。・・・って、恐い! まるでホラーだ。に、人間の精神はどこに!!!・・・と、アナクロな事を叫びたくなります。
人間精神の不在。──なんて、確かに一寸恥ずかしいですが、やはり不気味である事には変はりありません。なにより問題なのは、彼らが「感動」を知らない事でせう。
などと言ふと、「感動くらゐ知ってる!」と言ひ返されるかもしれません。実際、彼らはやたらと「感動」「感動」と言ひますし。でも、ハッキリ言ひますが、それは「感動」ではない! ババーン!! 精神のない人間は「感動」する事はできません。真に「感動」した事のない人間は、「感動」がどの様なものか分からないので、単なる「感情の酔ひ」を、「感動」と取り違へてゐるだけなのです。多分。
これは、あれだな、あいつも悪いな。近来稀に見る売国政治家。絶対に、200%感動してないのに、ひたすら「感動した!」と叫んでゐた人。あれに洗脳されてしまったのかな、みなさん。テレビを通じて。
「テレビばかり見てると馬鹿になる」とは山本直樹氏のマンガタイトルですが、少なくとも、テレビばかり見てると「感動」を知らずに一生を終えていく事になるので、それはやはり、些かもったいない。なにせ「感動」こそ人生の楽しみの粋ですから。
私にも「エモ」的な部分はあります。恥ずかしながら告白すると、人が何かのために自分自身を犠牲にする──といふシチュエーションがあると、自動的に涙が吹き出すのは「さらば宇宙戦艦ヤマト」の頃から変はってゐません(テヘッ)。が、私は一応、少しは「感動」といふものを知ってゐますので、自分がただ単に、機械的に泣いてゐるだけ、といふのは分かるのです。だから、何か映画をみて(小説を読んで)ボロボロ泣きながら、心の中では「こんな下劣なお涙頂戴で私を騙せると思ふのか、この戯けが!」などと罵倒してゐる事が、結構あります。
だって、まー、そらさうでせう?
にしても、テレビって、恐ろしいですねェ。
Comments
投稿者 可能涼介 : 2009年08月11日 03:27
小川顕太郎様
テレビを見ないで書いた私の本、超難産でしたが、9月10日にやっと出ます。
ご自宅に送付します。
可能拝
投稿者 店主 : 2009年08月12日 04:24
可能涼介さま
これはこれは、御丁寧にありがたうございます。
・・・いやー、待ったな。でも、無事に出版できて良かった良かった。この不景気に。
とりあへず、おめでたうー。
楽しみにしてゐます。
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