アメリカン・ギャングスター ［映画, 音楽］
実をいふと昨日、『玉村方久斗展』を観た後に、MOVIXにて『アメリカン・ギャングスター』（リドリー・スコット監督）を観に行つたのです。この映画は、実在したフランク・ルーカスといふ黒人のギャング（麻薬王）を描いた作品で、フランク・ルーカスを演じるのはデンゼル・ワシントン。T.IやRZA、コモンなどのラッパーが多数出演してゐたり、ソウルの名曲をバンバン使つてゐたりと、ブラックミュージックファンには何かと話題の作品。故に私も昨年から「アメリカンギャンスタ、アメリカンギャンスタ！」と騒いでゐた訳で、えー、だから、この映画について何もコメントせずに通りすぎる事は……許されないでせうね。はぁ。
むむむー、では、正直に言ひますと、個人的には、この映画は、ハッキリ言つて…ダメでしたー！！！
題材といひ、物語といひ、出演者といひ、どれもこれも面白さうなのですが、全く魂に響くものがない。終始微妙な違和感に捕はれ続けの2時間37分。なんでこんなに面白くないんだらう、と首を捻つてゐると、トモコがいひました。
「結局これ、『ブラック・レイン』なんぢやない。要するにエキゾチシズム。リドリー・スコットッて、エキゾチシズムの監督だつたのね」
なるほど！ 『ブレード・ランナー』の様に未来社会を描いた作品なら、そのエキゾチシズムはプラスに働いたけれど、現代社会の日本人や黒人を描いた作品では、マイナスとして現れてしまふ、と。エキゾチシズムは、白人の異人種・異文化に対する差別意識ですからねー。
全くその通りで、黒人の文化・美意識・哲学、などがチットも分かつてゐない様に思へるのです。出て来る黒人たちが、デンゼルを筆頭にチットもカッコ良くないし、ソウルミュージックの使ひ方もモサい。黒人文化の内面にまで踏み込む事なく、自らの安易な偏見を押しつけてゐるだけに見へます。リドリー・スコットは黒人ぢやないから仕方が無い、といふ事ではありませんよ。同じ様に、黒人ぢやないタランティーノは、よく分かつてゐます。例へば、ボビー・ウーマックの『ACROSS 110th STREET』といふ曲の使ひ方。『ジャッキー・ブラウン』では身震ひする程カッコ良かつたですが、この映画では酷い！ なんぢやそれ、といふダサさです。いや、ホント、観てみて下さいよ、酷いですから。
リドリー・スコットには是非、スパイク・リーやジョン・シングルトンの映画を、それぞれ100回づつくらゐ観てから映画にとりかかつて欲しかつた。
United Artists (2001/08/07)
売り上げランキング: 200403
さらに、脚本も酷くて…とか書いてゐると暗い気持ちになつてくるので、あまり書きたくないんですが、まー、「黒人の受けた差別、それに対抗するブラザーフッド、それを描けばいいんだろー」とばかりの意識だけ見えて、全くそれが描けてゐないのです。どういふ事かといひますと、セリフでは「差別された」「オレたちはひとつだ」みたいなのがありますが、その事がチットも描かれてゐない！ セリフにはそんなのなくてもいいんです（わざとらしいし）。映像でそれを描くのが映画の仕事でせう。それが、ねェ。ラッパーを出したり、R&Bシンガー（アンソニー・ハミルトン）に歌はせたりすれば、それで“黒さ”が描けると思ふのは大間違ひです。安易で、かへつて差別意識丸出しだ、と私なんかは思ふのですが。
これ以上批判がましい事を書くのもなんですから、そろそろ止めたいのですが、最後にひとつだけ。
JAY-Zが、この映画に触発された、とか言つてアルバム『アメリカン・ギャングスター』を発表しましたね。まぁ、彼にしてみれば、これでひと商売できる！ ってな感じなのでせうが（実際、なかなかいいアルバムでしたが）、そんな事ばかりしてると、マテリアリズムにしてやられる、と思ふのです。ただでさへ、今のヒップホップ界はマテリアリズムに侵されて危機に瀕してゐるんですから（ヒップホップイズデッド！）。
なーんか、初の黒人大統領がうまれるかも！ といふオバマ旋風でみなさん盛り上がつてゐる様ですが、あれもどーかと思ひますよ。ああいふ権力者間の争ひにあんまり巻き込まれると、ソウルを喪失します。危ない、危ない。
（さういつた意味で、オバマのキャンペーンソング『YES, WE CAN』を作つたウィル・アイ・アムやコモンなんかは、バカだなー、と思ひます。ここは「ブッシュこそ真のギャングスター」と言つたナズの動きに注目です！）
Comments
コメントしてください