恐怖の存在 [読書・文学]
マイケル・クライトン著『恐怖の存在』上・下(早川書房)を読みました。
この小説にはELF(環境解放戦線)といふ過激派団体が出て来ます。こいつらが、人類に地球温暖化の危機を強引に訴へるべく様々な環境テロを仕掛けようとする。ハリケーンを起こしたり、津波を起こしたり。それをみな「地球温暖化のせゐだ!」と宣伝しようといふ訳です。それを、主人公たちが防がうとして、両者の間に激しい戦ひが行はれる…といつた内容です。
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ま、正直言つてお話自体はあまり大したものではありません。CGをタップリ使つたハリウッド超大作向け、といつた所でせうか。が、それ以外の部分がなかなかに面白い。上述のストーリーからも分かる通り、この本では“実際は地球は温暖化してゐない”といふ立場に立つてゐます。だから、“実際は地球は温暖化してゐない”といふ証拠が山と提示されるのです。そして、それらの証拠はフィクションではなく、実際のものです。注が各章ごとに附され、それらの証拠の元となるデータや参考文献、論文が示され、インターネット上のアドレスが示され、読者が自分でそれらの証拠を確かめる事ができる様になつてゐます。
また昨今の環境保護運動のダークサイド面を、分かりやすく戯画的に徹底的に描いてゐます。環境保護運動に熱をあげるセレブたちの醜態とか。それらからは、もうストーリーの面白さなんかどうでもいいからとにかくこの酷い現状に目を開いてくれ! と言はんばかりの啓蒙精神が溢れ出し、それがなかなかに面白いのです。
世の中のフツーな人にありがちなのですが、環境保護=善、それに疑問を呈するもの=悪、といふ図式を信じてゐて、いくら自分の信念に反する証拠を突きつけられても(たとへば地球は温暖化してゐない、といふ証拠)、「これは環境を汚染してでも金儲けをしたい企業がやらせた嘘ッぱちの研究だ!」と言つて、耳を貸さない場合が多いものです。しかし、今や環境保護運動も一大産業なのです。それで喰つてゐる、どころか大儲けして豪勢な暮らしをしてゐる人たちがたくさん居ます。さういつた人たちは何が何でも地球環境の危機を煽り、様々なところから金を絞りとり続けなければなりません。そのためには、ウソの研究ぐらゐ平気でやらせ、発表しますし、場合によつては、この小説の様に環境テロを起こしたりもするでせう。
そもそもこの小説に出て来るELF(環境解放戦線)といふ環境テロ団体には、モデルが居るのです。それはELF(地球解放戦線)といふ過激派です。彼らは実際に放火などのテロを繰り返してゐます。そして、そんな彼らにお金を流してゐるのが様々な環境保護団体…といふ訳です。もちろん、そんな過激派と関係ない真面目(?)な環境保護団体も多くありますが、環境保護運動自体が今や産業化、利権化してゐる、といふ事実は頭にとめておいた方がよいでせう。彼らが無闇矢鱈と「地球温暖化!」を叫ぶのです。
ちなみにIPCCといふ団体がありますね。地球温暖化問題では権威の様に振る舞つてゐて、“地球温暖化派”の人たちが依拠してゐる団体です。大抵の新聞も、科学雑誌「Newton」とかも、京都議定書さへも、この団体の出す報告をもとに議論をすすめてゐます。この団体の事を、クライトンはこの小説の中で「官僚機構と官僚機構の息がかかった科学者たちの作る巨大なグループ」と解説してゐます。ははは。実際、その通りだと思ひますよ。前から思つてゐたのですが、IPCCは全く信用なりません。中立を装つた政治団体でせうね、あれは。
地球温暖化問題に関心のある方は御一読を。勉強(?)になります。もし「上・下2巻は長過ぎる…」といふ方が居れば、下巻の最後にある「作者からのメッセージ」「付録1 政治の道具にされた科学が危険なのはなぜか」だけでも読めばよいと思ひます。あつい、ですよ。
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