七月大歌舞伎 [歌舞伎]
行つて参りました、七月大歌舞伎。海老蔵は休演、代役を立てての興行です。くぅ〜。…あ、なんだかかう書いただけで気分が落ち込んできましたが、とりあへず代役がどの様な具合であつたのか、書いてみませう。
まづは、いきなり問題の『鳴神』。らぶりんの鳴神上人ぢやなァ…、と、本日一番気乗りがしてゐなかつたのですが(おかげで遅刻しました!)、なんと意外や、らぶりん、なかなかの好演でありました。私が『鳴神』を初見であつたといふのもあるのですが、芝居自体は結構楽しめたといふ次第。らぶりんの上人も非常に堂に入つてゐて、とても代役とは思へない。まるで前からこの事を予想して練習してゐたかの様な…は! や、やはりあれは……、いや、いかんいかん、どうも私はすぐに陰謀論に傾いてしまふ。
らぶりん、壱太郎、の上方歌舞伎のホープ二人による『橋弁慶』を挟んで、次は『義経千本櫻』の“渡海屋”“大物浦”の段。
私はこの演目を今年の浅草花形歌舞伎で観てゐたので、その時の印象で先日「義経の役は大したことないから海老蔵でなくてもいい」みたいな事を書いてしまひましたが、本日観てみて、義経は台詞こそ少ないけれど結構重要な役である、と思ひ直しました。つまり、義経は海老蔵で観たかつたー! …と。坂東薪車ではやはり弱かつた。存在感が。と、感じてしまひました。ただし、薪車自身は非常な熱演。最後、見事な自害を成した知盛に対して一礼し、花道を去つていく時にハラリと涙を流したりして。実を言ふと、私は今まで薪車は苦手だつたのですが、今回で好感度がグッとアップしました。これからは応援しようッと。
で、これで昼の部はおしまひ。我々は本日は昼の部だけだつたので、これで終はりになるはずだつたのですが、フッフッフ、さうは問屋が卸さない(←あれ、言葉の遣ひ方が変ですね)。なんと、幕見で『女殺油地獄』を観たのであつたー!
『女殺油地獄』といへば、片岡仁左衛門の当り役。でありながら、本人が年齢の関係から“二度と演らない”と封印してゐた作品。それだけ、この役を大事にしてゐるのであらう。私の様に遅れてきた歌舞伎ファンにとつては、あまりに悔しい事情である。観たい。でも観られない。…が、なんと今回はこの様な事故によつて、まさかの仁左衛門による代役。嬉しい! この芝居に関しては、海老蔵ぢやなくても楽しみといふこと(ま、海老蔵のも観たかつたんだけどね〜)。私とトモコは千秋楽の夜の部を押さへてゐるのです。
とはいへ、油断は禁物。ほんと、何があるか分からないですからね。今度は仁左衛門が怪我をしたりして。だから、何が何でも早いとこ観ておかう、と、幕見席をとつたのであつた。
幕見席とは当日券のこと。一幕ごとに買ふ事ができるので、かう言ふのでせう。松竹座では午前10時から全幕の幕見席を発売します。昼の部は11時から。つまり1時間前から発売する訳ですが、我々の様に昼の部の始まりに遅れてくる様な人間に、幕見席が買へる訳がありません。本日はユキエさんが『鳴神』の幕見席をとる、と言つてゐたので、ユキエさんに代はりにとつて貰ふ事にしました。
これが大正解。ユキエさんは1時間前、つまり午前9時に松竹座に着いたのですが、それでもギリギリのセーフ。ユキエさんのすぐ後ろでチケットは売り切れたさうです。その後ろにも、ビックリする様な長蛇の列。これがみんな『女殺油地獄』を買ひに来た人たちですよ。もー、チケット争奪戦。ちなみに本日昼の部を我々と一緒に観たウノピョンは幕見席を買へず、ベソをかいてゐました。30分前に来たのですが、松竹の人に「絶対に無理」と太鼓判を押されたさうです。ハハハ。う〜む、ユキエさんに頼んでよかつた。
幕見席は3階の一番後ろです。昼の部の2列目から較べると、そら遥かに舞台が遠い。さらに、しばらく開いた時間で、ウノピョンと3人で大いに食べ、飲んだので、席に座つた瞬間に寝さうです。昨夜はほとんど寝てないし。と、こんな状態で観ました、『女殺油地獄』。…な、な、な、なんだこれはー!
舞台に出て来た仁左衛門を観て、ビックリしてしまひました。若い! とても60過ぎの人に見へません。舞台から遠い、といふ事もあるのでせうが、ほんと放蕩息子の若造にしかみへません。それだけでなく、とても魅力的。いや、この仁左衛門演じる河内屋与兵衛といふ若者は、とんでもない奴なんですよ。小心者のくせに見栄ッ張り、自分のことしか考へられないジコチューで、親は殴るわ、妹は蹴るわ、放蕩と借金を重ねた末に、最後は自分に親切にしてくれた人を殺して金を盗る、といふ。こんな弁護のしやうがないクズの様な人間を、ここまで魅力的に演じるとは…。ラストの油屋における油塗れでの壮絶な殺しの場面の美しさとともに、私とトモコは茫然となつて松竹座を出ました。なんか、凄いものを観たかもしれない。
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