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2007年06月25日(Mon)

アポカリプト 映画

 TOHOシネマズ二条で『アポカリプト』メル・ギブソン監督を観ました。

 マヤ文明を描いた映画で、キャストは主にメキシコ人やマヤ人の素人を起用、台詞もマヤ語を使つた、といふので話題になつた作品です。そもそもアメリカ人は字幕を嫌ひます。読むのが面倒くさいから。だから、基本的にアメリカでは外国語の映画は吹き替へ、ハリウッドで作る映画は最初から外国人も全て英語を喋ります。また、アメリカ人は有名人の出てゐない映画を敬遠します。映画の内容より俳優の方に興味があるからです。この様なアメリカ人の国で、なんとこの映画は興行成績一位の大ヒット! 字幕で有名人も出てゐないのに、なんで??? と、これもまた話題になつてゐる映画でもあるのです。

 しかし、私はこの映画を観て、これはヒットするんぢやないか? と思ひました。何故なら、これ、『マッドマックス』やん! と、思つたからです。

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 そのアクション、残虐シーン、出演者の格好、全て秀逸な『マッドマックス』シリーズ最高傑作! てな感じの映画なのです。だからアクション映画として凄く面白い。これは、ヒットするでせう。しかし、マヤ文明ッて、こんなに『マッドマックス』みたいな世界だつたの? といふ疑問が沸かないでもありません。あまりに面白すぎます。で、調べてみると、案の定、この映画は一部で非難囂々なのでありました。

 マヤの歴史、風俗、思想、全てがムチャクチャ! ここまでデタラメな映画は観たことがない! さらに、差別的で悪質なプロパガンダ映画だ!!! と、非常な憤慨を呼び起こしてゐる様なのです。

 怒つてゐる人たちの意見を聞けば、なるほど、と頷けます。(以下はネタばれありですよ〜)

これは指摘されれば「さういへば」とポンと膝を打つことですが、まづ時代がをかしい。この映画、最後はスペイン人による来襲で幕を閉じるのですが、そもそもスペイン人がやつて来たとき、マヤ文明はすでに滅んでゐたのです(マヤ人は現代も居られます。マヤ帝国が滅んだ、といふ意味です)。なるほど! さういへば、学校でさう習つた様な。マヤ文明が滅びた原因は謎、とされてゐるんだつたな、うん。

 また、主人公たちは狩猟をして暮らしてゐる裸族なのですが、これは紀元前のこと。この主人公たちが、マヤの首都からやつてきた人狩り部隊に拉致されて、奴隷としてピラミッドの林立する首都に連れて来られるのですが、この様にピラミッドが林立したのは紀元後8〜10世紀頃とされてゐます。つまり、時代がムチャクチャ。日本の時代劇でいふと、花のお江戸から田舎の方に足を伸ばせば縄文人が住んでゐる、といつた感じでせうか。

 さらにマヤ人は、残虐と野蛮を尽くした様に描かれてゐるのですが、これもマヤ文明の最新研究成果によると全くのデタラメ、らしいです。マヤ文明は非常に高度に洗練された文明だつたとのこと。といふか、ここに描かれたマヤ人の残虐非道な振る舞ひ、人狩りをし、男は残虐に嬲り殺し、女は犯しまくり、残りは奴隷として働かせたり、生け贄として殺したりする、などは、どちらかといふと南米に侵略したスペイン人たちがやつた事です。さういつたスペイン人=白人=キリスト教徒の悪行を、被害者である南米人がやつてゐた様に描き、挙げ句の果ては、そんな悪行をしてゐたから滅んだんだ(スペイン人が侵略したからぢやないよ〜)と説明する(ホントに冒頭にさうとられかねない言葉が引用される)。うーむ、これでは人々が怒るのも無理はないですかねー。

 さらに、マヤ族の人たちは現在、メキシコ・ホンジュラス・グアテマラに散らばつて住んでゐる様なのですが、グアテマラにおける内戦では、キリスト教徒の人々に大虐殺された様なのです! …で、知つてゐる人は知つてゐる様に、メル・ギブソンはカソリック原理主義のキリスト教徒。となれば、これは問題になつて当然でせう。

 と、なかなかに問題を多く含んだこの映画ですが、正直言つて、私はあんまりそんな事は気にならなかつたんですね。といふか、誤解を恐れずに言ふと、確かにこの映画はマヤ文明を歪めまくつてゐるかもしれませんが、マヤ人を貶め様とはしてゐない、と思ふのです。だつて、この映画に出て来るマヤ文明、メチャクチャカッコ良いんですもの!

 私の周りで観た人々も、みんな「マヤ文明カッコ良過ぎ!」と言つてゐますし、メル・ギブソンも多分、マヤ文明をカッコ良く描くぜー! と、気合ひをいれて作つたと思ふのです。(むろん、彼なりの美意識で)

 そんな能天気な事を言つてられるのは、お前がマヤ人ぢやないからだ! と、怒られるかもしれません。確かに、それはさうです。でも、例へば『ラストサムライ』といふ、日本の文明や歴史をメチャメチャに歪めた映画がありましたよね。公開当時は一部の右翼の方々が怒つてられましたが、私は全然腹が立ちませんでした。むしろ、大爆笑した方です。それは多分、勘違ひに満ちてゐるとはいへ、彼ら(『ラストサムライ』の製作者)なりに日本の事をカッコ良く描かう! といふ意識が伝はつてきたからだと思ひます。『アポカリプト』も同じではないか、といふのが私の考へです。

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 とはいへ、とはいへですよ。この映画がマヤ文明の実態を歪めまくつてゐるのは事実でせうから、その事を指摘するのは重要だと思ひます。私も、何冊かマヤ文明に関する本でも読んでみるかー、といふ気持ちに強くなりました。こんな風に、マヤ文明に関する理解が拡がつていけばいいかな、と思ひます。

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