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2012年06月11日(Mon)

11.25 自決の日 映画

先日、テアトル梅田にて「11.25 自決の日  三島由紀夫と若者たち」若松孝二監督を観ました。
私は近年の若松作品を観てないので、久しぶりに観たそれは「へー、こんな感じになってるんやー」といふものでした。デジタルで撮影されてゐて、お金も時間もかけてないので、妙な軽さ・薄っぺらさがある。しかし、不敵な意志の底流は感じられる、といふ。考へてみれば、ピンクの時代から、若松作品はその様なものだったといへるかもしれません。映画といふメディアを使って闘ひを敢行する、そのためには瑣末な“美的”な事には拘らない。が、それでもじんわり滲み出て来る叙情がある、と。この場合、昔と今を分ける最大のポイントは映像でせう。デジタル撮影は、やっぱ薄っぺらい。仕方ない事かもしれませんが。とはいへ、打ち寄せる波の映像や、荒野を歩く女性の映像など、しっかり若松印は刻印されてゐましたし、なんといってもこのテーマ。すっかり引き込まれて、2時間弱の作品に没頭いたしました。

1970年11月25日。日本を代表する作家のひとりである三島由紀夫が、自らの主宰する「盾の会」の隊員4名と共に市ヶ谷の自衛隊東部総監室に立て籠り、演説をした後に隊員のひとり森田必勝と共に割腹して果てた、といふ事件は、戦後日本を劃する重大事であると私も思ひますが、これを正面からテーマにした映画は、日本では初めてではないでせうか(国外ではポール・シュレイダーの「MISHIMA」があります)。
若松監督は、ポール・シュレイダーのそれとは違って、坦々と事実を追いかける様に映像を重ねていきます。とはいへ、その主役は必ずしも三島由紀夫ではありません。ここがこの作品の最大のポイントだと思ふのですが、若松監督はこの“三島事件”を、右も左も同じ様に革命への予兆に身を震はせ、熱く激してゐたあの時代、あの時代の若者たちを主役として描いてゐるのです。
むろん、あの事件の見方は色々とあります。しかし、ほとんどの見方は三島由紀夫を中心としたものでせう。それをむしろ三島を従にして、若者を主として描いたのは、若松監督の慧眼であらうし、また彼の政治観がよく出てゐて非常に良かったと思ひます(たとへそれが私の解釈と違ふものであったとしても)。

が、非常に良かったと思ふだけに、残念な事もあるのです。それは森田・遠藤2名による北方領土への渡航事件の描き方です。
映画ではまづ、ソ連による北方領土占拠の不法を訴へる森田・遠藤2名が映ります。次に、漁船を盗まうとしてゐる両名。そこに漁師がやってきて「お前らなにしてるんだ!」と両名を詰問します。それに対して森田が「北方領土に渡りたい。だからこの船を貸してくれ」と答へるのですが、それを聞いた漁師が呆れた様子で「お前らそんな事したらソ連兵に抑留されるぞ。抑留されたら何年も帰ってこれないぞ」と言ひ、それを聞いた二人は「ええ〜」といった顔をして項垂れてしまふ・・・・・・となってゐるのですが、これでは二人はただのバカにしかみえません。
実際の事件は少し違ひます。むろん両名は、そんな事をしたらソ連兵に抑留される、あるひは撃ち殺される、といふ事は重々承知してゐました。そして、むしろそれこそを狙ってこの計画は立てられたのです。
つまり、早稲田の学生がソ連兵に撃ち殺されでもしたら、国際的に問題になります。その事によって世間の目が北方領土問題に向き、また、純真な若者の敢て死を賭したやり方に衝撃を受けた人々の間から反ソ運動が巻き起こる・・・といふ事を狙って行はれたのです。実際は、警察に捕まって計画は挫折するのですが。
なぜこの事件が重要かといふと、後の三島事件の前哨をなす性質を持つものだからです。敢て死んでみせる事によって、自らの政治的主張を世間に強く訴へる、と。少なくとも、若松監督はさう考へたからこそ、この事件を描いたと思ふのです。つまり、あの三島事件は三島由紀夫ただ一人の個人的事情から起こったのではなく、若者たちの革命への闘争の過程で現出したものであった、といふ構図を鮮明にするために描かれたと思ふのです。さらに踏み込んで言ふなら、あの事件は森田必勝が構図を書き、三島がそれに乗った事件であった、といふ解釈をそれとなく提示してゐると思はれるのです。これは世間一般に流布してゐる三島事件の解釈とは異なるものでせう。
しかし、あの描き方ではそれが十分に伝はらないのではないでせうか。それが惜しい!あー、惜しい!・・・と思ったので、思はずこんな事を書いてしまひました。
あの当時の事情をよく知らない若い人たちの理解の一助になれば、と思ひます。

それにしても、若松監督はまたしてもこの映画を安い値段(一般1300円、高校生以下は500円!)で公開してゐます。若い人にこそこの映画を観てほしい、との願ひからです。それと、映画の観客を育てねば!といふ思ひからと。偉いなぁ。どんどん歌舞伎のチケット代をあげてきてゐる松竹とは大違ひだな。
次回作の「千年の愉楽」もメッチャ楽しみです!

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