モールス [映画]
8月の強制起訴映画は「モールス」マット・リーヴス監督です。
時は1983年。雪に閉ざされたニューメキシコの片田舎。12歳の少年オーウェンは、友だちもなく、家庭は崩壊しかけ、学校では執拗な苛めにあひつつ、退屈で息の詰まる田舎での生活を憎みながら暮らしてゐた。ある日、そんなオーウェンの家の隣に、謎めいた美少女が越してくる。なんと彼女は、この寒い雪の中、裸足なのだ!・・・それ以来、街では不可解な殺人事件が起こる様になる。そして、オーウェンの生活にも・・・
★
- ヤマネ
- やー、残念な映画でしたね!
- マツヤマ
- なに?残念、とはどういふ事だよ。オレはこの映画、結構いいと思ふぞ
- ヤマネ
- んー、なんていふか、この映画、もっと面白くなったんぢゃないかなー、と思へるんですよー。ボク、この映画の元版『ぼくのエリ 200歳の少女』は観てないんですけどー、推測するに、元版より劣化してるんぢゃないですか
- 元店主
- 我々は3人とも『ぼくエリ』は観てない訳だけど・・・、ヤマネくんは、どういった所からさう判断したわけ?
- ヤマネ
- えーと、ですね。この映画、オーウェン(コディ・スミット=マクフィー)とアビー(クロエ・グレース=モレッツ)との恋愛映画だと思ふんです、本来。それが、ハリウッドリメイクでホラーやスプラッターの要素をやたらぶち込んだがため、そのバランスを欠いたとでもいひますか、恋愛映画としてはぶれてしまった。元版は、そこらへん、ちゃんとした恋愛映画になってると思ふんですよねー
- マツヤマ
- フッ・・・、ところがな、ヤマネくん、この映画のパンフレットに載ってゐる柳下毅一郎の文章によると、事態は逆なんだよ!
- ヤマネ
- ええ!
- マツヤマ
- 実は『ぼくエリ』の方が、吸血鬼騒動の事をたくさん描いてゐて、設定もエログロ。この映画はさういった部分をばっさり切り捨てて、オーウェンとアビーの二人の関係に焦点を絞った作になってゐる、との事だ。いいか、引用するぞ・・・“スウェーデン版『ぼくのエリ』が不安と不快に満ちたホラー映画だとすれば、アメリカ版の『モールス』は優れた純愛映画なのである”・・・どうだ!
- ヤマネ
- そ、そんな・・・。でも、それにしては、純愛映画として弱いんぢゃありません?
- 元店主
- 確かに。この映画はオーウェンの主観描写が圧倒的で、他の人々なんかほとんど映らないんだけど(両親なんか、全く顔が映らない!)、さういった点でアビーとの関係に絞った映画なんだとは思ふ。けど、それにしては、ちょっと弱いかなぁ・・・
- マツヤマ
- まぁ、『ミスタ−・ノーバディ』での15歳のニモとアンナの話に較べたら、圧倒的に見劣りするのは事実だけどな。
- 元店主
- 私が考へるに、この映画、『モールス』と名乗っておきながら、肝心のモールス信号を使ふシーンがほとんど描かれてないでせう。まぁ、『モールス』は邦題で、現代は『Let Me In』だけど、でも二人がモールス信号で壁越しに会話をする、といふのは重要な要素だと思ふんです。あそこをもっと効果的に描けたら違ったのに、と思ひました。二人の心の交流がねぇ・・・
- マツヤマ
- オレはさぁ、なんやかんやいって、アビーの奴、二股かけてるだらう。あれがどうかと思ったな。トーマスは年を取ったとはいへ、現役の恋人ぢゃないか。それを放っておいて、自分はオーウェンにちょっかいを出す、といふのが、ね。こら、アビー!
- 元店主
- はは。少なくとも、トーマスとの関係はもう少し丁寧に描くべきでしたよね
- ヤマネ
- 演出が下手なんぢゃないですか、この監督。シャマランにやらせれば良かったのに
- 元店主
- いや、シャマランは原作付きは苦手だから・・・。でも、最後は全くアビーが出て来ない(映さない)とか、最大の見せ場であるべきプールでの大殺戮シーンを、これまたオーウェンの主観描写で押し切って、肝心の殺戮場面を描かないとか、さういった禁欲主義は良かったと思ふんですね。必ずしもそれが成功してるとはいへないんですが・・・でも、その心意気は買ひたい。静謐な美意識も感じられるし、これからに期待の監督さんだと思ひます。・・・それはともかく、私は主役の二人が結構良くて、それでとりあへずは映画として満足だったんですが。お二人はどうでしたか?
- ヤマネ
- ボクも主役の二人は凄ーく良かったです!この二人があまりに良かったから、だからこそ映画が残念なんですよー。もっとなんとかしてあげて!
- マツヤマ
- オレも主役の二人には文句ないな。コディ・スミット=マクフィーは若き日のミック・ジャガーみたいだし、クロエ・グレース=モレッツは若き日のクリスティーナ・リッチみたい。ちょっとフリーキーで、儚い美しさ・・・みたいな。ちゃんと200歳の少女に見えるしな。バッチリだよ。今のうちにガンガン映画に出てほしい。子役といふのは、将来どうなるか分からんし
- 元店主
- クロエ・グレース=モレッツがシャワーを浴びて出て来て、タオル一枚を身体に巻いただけの姿で、音楽に合はせて不器用に身体を揺らす所とか、印象に残るシーンでしたね。個人的に、ベストシーンかな
- ヤマネ
- ボクはねー、あのオーウェンたちの住んでゐる建物が良かったです!広場の真ん中にジャングルジムがあったりして。あれ、本当にあるんでせうねー
- 元店主
- うん、どうやら、ニューメキシコとかそんな田舎の方にいっぱいあるみたいよ
- ヤマネ
- あれ、かっこいいなー。誰が作ったんだろ。アメリカって凄いなー
- マツヤマ
- ・・・オレが思ふに、アビーはアメリカの事だと思ふんだ
- ヤマネ
- 出た!マツヤマさんの深読み!
- マツヤマ
- フッ・・・、アメリカ建国したの、いつだか知ってる?
- ヤマネ
- えーと、1776年7月4日でせう。インデペンデンス・デイ!
- マツヤマ
- まぁな、それが建国記念日だよな。でも、それは独立宣言を出した時だらう。その時点では、まだ独立してゐない。アメリカが真に独立を成し遂げたのは?
- 元店主
- 1783年のパリ条約ですか?アメリカの独立がイギリスに承認されたんですよね
- マツヤマ
- その通り!ぢゃあ、1783年に産まれたものが、200歳を迎へるのは・・・
- ヤマネ
- えー、1783+200で、1983年。・・・あ!この映画の設定年だ!
- マツヤマ
- だろ?伊達にこの映画は1983年に設定されてゐる訳ぢゃないんだよ。アビーはアメリカの象徴なんだよ!
- 元店主
- なるほど・・・、確かに映画の冒頭で、ずっと演説するレーガンがテレビに映ってますよね。レーガンの演説が、BGMの様に、ずーと流れてゐる。これは『ぼくエリ』にはないでせうから、やはりハリウッドリメイクにあたって、監督の頭にはアメリカといふ国をこの映画に反映させる、といふ意図があったのかもしれませんね
- マツヤマ
- アメリカは建国以来、常に他人の血を啜って生きてきたバンパイアだといふ訳だ。自らが生存するために、他人の血を必要とする。で、それ以外に、仲間=同盟国を必要とする。二股かけたり、乗り換へたりして、仲間=同盟国を操って、血を集めさすんだよ
- ヤマネ
- といふ事は、レーガンの時代にアメリカが選んだ仲間=同盟国って・・・日本やん!オーウェンは日本の象徴?!
- 元店主
- といふ事は、現在、歳をとったオーウェンは・・・野田?
- ヤマネ
- どわー!えらく不細工になったなぁー、もう。あんなに美少年だったのに!!
- マツヤマ
- 日本国民の大事なお金をアメリカに流し続けた奴だからな。まぁ、他人の血を絞って生きてる奴なんて、顔が荒んでくるんだよ。人間、ああなったら終はりだぜ
- ヤマネ
- それにしてもアビーの奴、悪いですよねー。一見、ほんとにオーウェンの事を愛してゐる様に見えたのに・・・
- マツヤマ
- いや、本当に愛してたのかもしれないよ。でもさ、オーウェンがアビーと共に生きていく事を選択したといふのは、実際どういふ人生を選択したかといふと、これから先、罪のない人々を殺してその人たちの血を抜き取り、アビーに提供し続けるといふ人生さ。そんな人生、いいと思ふか?
- 元店主
- パク・チャヌクの『渇き』では、ソン・ガンホ演じる吸血鬼が、恋人の吸血鬼とともに自死する事を選びますよね。罪のない他人の血を絞り続ける事を拒否して。さういふあり方も、ある訳です
- マツヤマ
- だから、自分はどういった人生を歩むのか。他人を踏みつけにしてでも、生きていくのか。さういったのは拒否して、それならむしろ滅びる事を選ぶのか。さういった事を、この映画は問ふてゐるんだよ
- ヤマネ
- う〜ん、深いですねぇ・・・
- マツヤマ
- まぁな。深読みだからな。
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9月の強制起訴映画は「ライフ ーいのちをつなぐ物語ー」です。BBC製作の動物ドキュメンタリー映画。癒される〜のかな?
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