THE BLUEPRINT 3 [音楽]
現代ではあらゆるものが飽和して、全てが終はりかけてゐるのではないか。などと思ふ事があります。私が言ってゐるのは文化の事だけれど、どこをみても既視感、既視感に溢れ、全てが縮小再生産の様に思へたりします。が、全てが終はりかけてゐるとは、全てが新しく始まりかけてゐる、とみる事もできる訳で、終はりと始まりは渾然一体として分ち難い、とも最近つくづく思ふのでありました。
例へば、先日述べた映画「グッド・バッド・ウィアード」と「ドゥームズデイ」。この様に過去の名作を基にして、それに色々な過去の作品からの引用を織り交ぜて出来上がった作品が連発される事を、映画といふ文化の終はり、と見る人もゐるでせう。昨今の、あまりに多いリメイクブームと照らし合はせると、思はず「なるほど、さうかも」と、納得しさうになります。(同日のシネコンでは、「サブウェイ123激突!」とか「HACHI」とかリメイク映画も結構やってをりました)
しかし、これをサンプリングを技法としたヒップホップ的な映画、と看做せば、これは新しい映画文化の始まり、とみる事もできるはずです。実際、ヒップホップだって、誕生当初はブラックミュージックといふ文化の終はり、とみる人も多かったんだし。
ここで話を音楽の方にシフトすると、そのヒップホップミュージック。ここ数年、もうヒップホップは終はった(終はりかけてゐる)、といふ議論が喧しいです。私も、もうヒップホップは終はったかも・・・、と思ふ事がしばしば。
が、これとて、さうさう簡単なものではありません。
そこで登場するのが、JAY-Z(ジガ)のニューアルバム、「THE BLUEPRINT 3」。私は、これは非常に重要なアルバムである、と考へてゐます。
何よりこのアルバムの音楽としての質の高さ。それはヒップホップ云々ではなく、正に「グッドミュージック」として全ての人々に開かれたものです。
そしてこのアルバムが全米チャート1位を獲得した事によって、自身11回目のアルバム1位。といふ事で、プレスリーを破ってソロアーティストとしては史上最高、トップに立ってしまったといふこと。つまり、正にポップスの王道、そこのキングになった、といふ事になるでせう。
ジガは、インタビューで、このアルバムは「終はりの始まり」を意識して作った、と、非常に重要な発言をしてゐます。これはどういふ事なのでせうか。
この事はつまり、自分たちは今、終はりのただ中にゐるかもしれないけれど、その中に始まりを見いだす、といふ事です。アンダーグラウンドでアバンギャルドなヒップホップの終はりの中に、グッドミュージックとしてのヒップホップの始まりをみる。また、世界帝国としてはもう没落していく一方であらうアメリカといふ国の終はりの中に、オバマといふ史上初の黒人大統領を戴いた新しいアメリカの始まりをみる、といふこと。そのためのBLUEPRINT=青写真なんだ、といふ事です。
終はりの中に始まりを見いだす、といふのは真の叡智のひとつでせう。特に現在の様な世界恐慌の嵐が吹き荒れてゐる時代には必要とされる叡智。そして、物事を肯定する音楽の力。それをこのタイミングで形にしたこのアルバムは、やはり今年最重要のアルバムだと思ひます。
Jay-Z's "D.O.A (Death of Auto-Tune)" Video!話題になった例のやつ。オートチューンの終はりに新しいヒップホップの始まりをみる。
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