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2008年02月07日(Thu)

坂東玉三郎 特別舞踊公演 歌舞伎

 大阪松竹座に『坂東玉三郎 特別舞踊公演』を観に行きました。

 今回の共演者は、尾上菊之助と市川海老蔵。歌舞伎界のキレイどころが揃つてゐて、なんとも華やかな贅沢な感じです。やはり美男美女(?)を観るのは人生の至福でせう。むろん、舞踊に関しても玉三郎は定評のあるところ。で、期待通り、といふか、期待以上の素晴らしい公演でしたー!

 まづは市川海老蔵 & 尾上右近による『連獅子』。これはつい先月、歌舞伎座の最前列で松本幸四郎 & 市川染五郎によるものを観たばかり。まー、その時は徹夜明けで眠くて仕方が無かつたし、同条件で較べる訳にはいきませんが、個人的には今回の方が遥かに面白かつたです。いや、幸四郎と海老蔵、どちらの舞が“優れていたか”といふ話なら、なかなか微妙です。幸四郎の方が優れてゐた様な気もします(夢うつつでの鑑賞でしたが)。が、どちらが“面白かつたか”“楽しめたか”といふ事でいふなら、ダントツに海老蔵の方でした。

 嫌み寸前の海老蔵の大袈裟な思ひ入れ、獅子に変身してからの“気”の放散の仕方。いや、ね、海老蔵は見得を切つたり睨みをきかせたりする時に、「フン!」「ホワ!」「ウンヌー!」などと声を出すんですよ。これはファンの間でも賛否両論ある様ですが、私は全然オッケー。単純にアガるぢやないですか。今回など、獅子になつてからは「ガルルルル…」と低く唸つてゐました。ハハハ、最高だ。

 面白かつた、とはいへ、これは前座みたいなもの。やはり、本命は次の『京鹿子娘二人道成寺』なのです。

 正直言つて、私は舞踊公演を楽しめるかどうか、不安でした。これまでの歌舞伎公演でも、芝居は楽しめても舞踊は寝てゐる、といふ事が多かつたので…。そら、私はダンスが好きですよ。かつてはノーザンダンサーであつた事もある訳だし(…遠い目)。とはいへ、それらはストリートダンスです。ブレイクダンスとか。他に舞踊の公演といふ事でいへば、ベジャール(昨年亡くなられましたね、合掌)とか、ピナ・バウシュには何度か行つた事がありますが、あれらはやはり別物。日本の舞踊といふ事でいへば、能、ですか。まァ、私は親が能をやつてゐる関係で、幼い頃からよくお能には連れていかれてるんですが、どうにも面白いと思つた事がありません。いつもピーヒャラ〜といふお囃子を子守唄に寝てゐた様な気がします。うむ、もしかして、お囃子を聞いたら自然と眠くなる様に条件付けられてしまつたのかもしれないぞ。むむむー。

 それが! 今回は、日本の舞踊ッて、こんなに面白かつたのかー! と思はず手を叩いてしまふほど楽しめてしまつたのです。

 菊之助と玉三郎がとても美しかつた、といふ事もあります。菊之助は凄く可愛い。観てゐて胸がキュンッとなる感じです。対して玉三郎は綺麗。どちらかといふとドキッとする感じでせうか。この二人が並び、顔を寄せ合ふと、もう、それは…うわ! 菊之助の顔が大きい! …ッて、いや、別に役者ですから顔が大きくてもいいのですが、玉三郎の2倍はあつたな…。あ、まー、とにかく、この様なスパイスも差し挟みつつ華麗な舞を堪能したのです。

 さてこの『京鹿子娘二人道成寺』、安珍と清姫のいはゆる『道成寺』の後日譚となつてゐまして、菊之助と玉三郎は白拍子花子、実は清姫の亡霊、といふ役なのです。だから一通り舞ひ終はると、蛇へと変身し暴れ回ります。普通はこの花子=清姫は役者一人でやります。それを二人でやる、といふのが『京鹿子娘二人道成寺』な訳でして、玉三郎一人でも充分に強力なのに、菊之助までつけてしまつて、この二人に対抗できるものはゐるのか、この荒れ狂つた華麗な舞台の収拾をどうつけるのか、さて、さて、さぁ〜て、…といつた所で会場に響き渡る凛々とした声。こ、これは、と思つてゐると、花道から颯爽と海老蔵の登場。歌舞伎十八番『押し戻し』です。

 この『押し戻し』は荒事の典型と言はれてゐまして、大館左馬五郎といふ超人が亡霊を抑へ、舞台の収拾をつける、といふものです。この大館左馬五郎が、もちろん海老蔵。こいつの格好がまた凄いんです。一言でいへば…阿呆丸出し。いや、むろん、褒めてゐるんですよ。とにかく超人ですから、常人の規範を遥かに超えてゐるのです。海老蔵ほどよくこの役が似合ふ人がゐるでせうか。

 尋常ではない気合ひ、竹を手に持つてドスドスと舞台にまで来て、クワー!!! と睨む、「大和屋の兄さんと、音羽屋の菊之助によく似た化け物め〜!」と大音声で一喝して、「オレの親父の得意とした、歌舞伎十八番!」で、カー! カー! カー! フンヌー!!! と、猛烈な気を全身から発します。会場の空気はビリビリと震へ、床や天井がミシミシと悲鳴をあげ、各所から花火がドッカンドッカンあがります。グアッ! と気を発した海老蔵の周りからは放射状に火の手が四方八方に伸びて坊主どもを焼き尽くし、雷が鳴り響き、龍が立ち上り踊り狂ひ、大音響とともに崩れ落ちた舞台の上では、玉三郎と菊之助を乗せた鐘が朗々と泣きながら揺れてゐる…。と、最後の方はかなり私の妄想が入つてゐますが、とにかくそんな感じの素晴らしい舞台。気分がスッカリ浄化され、全世界の人間を愛してやりたくなりました。

 神々しい気分のまま会場を出ると、そこには篠山紀信が。あー、写真集でも出たら買はねばー、と思つたのでした。

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