宵ゑびす [etc]
ゑびす神社といへば西宮が有名ですが、京都にもあります。商売繁盛の神様なので、我々の様な商売人は是非行かなくては! …とはいふものの、私は行つた事がなかつたのでした。それが、引ッ越しをしてからといふもの、毎日の様にゑびす神社の前を通る様になつたのです。
で、本日は宵ゑびす。神社の前の道はズラリと屋台が出て、境内もゴッタ返してゐます。ていふか、身動きがとれない! もとから狭い境内が、満員電車の様です。痴漢冤罪が起きなければいいが…、などとバカな事を考へてしまひましたが、痴漢より掏摸に気をつけた方がいいですね。
実をいふと「宵ゑびす」は昨日からだつたので、私は昨日も来たのです。その時はまだ空いてゐて、境内では餅つきをやつてゐました。私はそれを横目で見ながら、参拝。本殿の横に廻ると…、あッた!
「戎さんは聾やから、本殿の羽目板を叩いて商売繁盛を念押して頼まんとあかんという、云い伝えがある」(『花のれん』山崎豊子)
これは今宮戎の話だけれど、この小説を昔に読んで以来、私はこの“羽目板叩き”に憧れてゐたんですねー。で、もしやここにも…と思つてみたら、あつたのです。叩く所が。本殿の横に、賽銭を入れる所と羽目板があり、その上部は格子になつてゐて、奥を覗くとゑびすさんが居られる。私は賽銭を入れ、ゑびすさんの方をチラと窺つてから、小説にあつた様に、
「戎さん、お参り致しましたぜ、忘れんといておくれやっしゃ」
と、心の中で呟きながら羽目板をドンドン叩きました。
私が夢中でドンドンやつてゐると、隣に小さな男の子がやつて来て、同じく夢中でドンドンやり始めます。その隣にはその男の子のお母さん。男の子が、ドンドンやりながら「ねー、なんでドンドン叩くのー?」とお母さんに尋ねると、お母さんは「さぁー、なんでやろねー」。いや、それはね、戎さんが聾やから…(以下略)と、私は猛烈に教へてあげたかつたのですが、グッと堪へました。変な人と思はれ、怖がられるでせうからね。
しかし、やはり教へておくべきであつたか、と、今は少々後悔してをります。神様の事はちやんと子どもに教へないとあきまへんよー。
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