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2007年09月27日(Thu)

ストンプ・ザ・ヤード 映画

 MOVIXにて『ストンプ・ザ・ヤード』を観ました。

 いはゆるダンスムービーで、クリス・ブラウンとニーヨといふ二人のR&Bアーティストが出演してゐる事でも話題の作品です。

 舞台は南部の黒人大学。そこにある2大クラブ(友愛会)の対立を描きます。彼らはストンプといふダンスの大会で常に優勝とその次を穫るほど、ストンプが得意です。だから全国大会優勝を巡つて、お互ひ熾烈な戦ひが繰り広げられる。そこに男女関係も絡んできて…、といつたお話。

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 つまり、お話自体は『ドラムライン』や『ユー・ガット・サーブド』と同じ、といふか、なんでこの手の話はみんな同じなんだ! と、アメリカの映画産業の大量生産振りには呆れざるを得ない、といふのが正直な所なのですが、ま、それでも随所に面白い所があつて、なかなか楽しめました。

 私が一番興味深いと思つたのは、クラブ(友愛会)の存在です。むろんクラブの存在自体は、『アニマルハウス』の昔から映画で描かれてきましたが、いまひとつその意味合ひがよく分からなかつた。それが最近になつてなんとなく分かつてきました。つまりこれは“いはゆる秘密結社”なんですね。なんかオドロオドロしい入会儀式があつて、クラブ員以外には秘密の符丁があつて、もの凄い固い結束を会員は誇つてゐる。で、大学を出た後もクラブ員同士は強力なネットワークで結ばれてゐて、お互ひ色々と便宜を図りあふ、といふ訳です。最近ではあのブッシュが入つてゐたといふので有名になつたイェール大学の『スカル & ボーンズ』がありますね。あれですよ。要するに強力な“コネクション”であり、彼らが社会を牛耳つてゐるのです。

アニマル・ハウス
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 よく我々日本社会は“コネ社会”であり、対してアメリカは“実力社会”である。だからアメリカの方が進んでゐる、みたいな日本批判を聞かされましたが、こんなの嘘ッぱちだつたといふ事です。アメリカも、立派なコネ社会。アメリカで偉くならうと思つたら、有名大学の有名クラブに入らなければいけない、といふ事です。この映画でも、こんな台詞がありました。

「クラブに入らなければ、たとへ大学を出ても単なる“教育を受けた人間”に過ぎない(要旨)

つまり、クラブに入つてないと大して偉くなれない、といふ事です。

『キューティー・ブロンド』といふ映画がありましたね。あの映画の主人公が、窮地に陥ると、どこからか強力な力を持つた人が出て来て助けてくれたり、普通の人なら知る事のできない情報を得たりするのですが、これは映画的御都合主義ではなく、本当にあり得る事だつた、といふ訳です。なぜなら、彼女は「デルタ・ヌウ」といふクラブ(友愛会)の会長を務めたことのある人間だつたからです! わー、凄いなー。

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 私が興味深く思つたのは、黒人社会においても同じなのか、といふ事です。この映画の中で、クラブの華々しい歴史を誇る歴史館みたいな所が出て来るのですが、そこにはキング牧師やローザ・パークスなど、公民権運動の立役者たちの写真が麗々しく飾つてあります。もしかしたらこれは映画的フィクションなのかもしれませんが、彼らもみんなクラブのメンバーだつた? とか。これはあり得る話ですね。つまり公民権運動は黒人エリート層によつてなされた運動だつた、といふ事です。

 そんなの当たり前ぢやないか、何か強力な運動を起こすには、強力な個人からなる強力な団体の力が必要だ! といふ意見もあるでせう。確かに、それはさうです。が、エリート層と一般大衆の乖離、といふ問題も、また一方であるのも事実です(公民権運動も、それを推進した黒人エリート層はその果実を享受したが、それ以外の黒人たちはさらなる没落を経験した、とか)。黒人社会でも、80年代頃からそんな事が言はれ始め、今では決定的な問題となつてゐる様なのです。

 黒人初の大統領が生まれるか? と話題になつてゐる様ですが、このウラで、今や黒人社会の中でのエリート層と下層の乖離は激しくなつてゐます。それをまた裏付ける事が先日ありましたね。それは“スボンの腰ばき禁止”の条例提出の事です。ヒップホップが生み出したファッションのひとつに、大きなサイズのズボンをずり下げて腰で穿く、といふものがあります。今や黒人間だけでなく、大きく世界的流行となつた感のあるこの“腰ばき”ですが、これを禁ずる、もししてゐたら罰金あるいは禁固刑といふ、とんでもない条例がアメリカで提出されてゐるのです。服の着方を規制するなんて思いッきりファシズムですが、何より問題なのは、この条例を提出したのが黒人の議員だつた、といふ事でせう。

 実をいふと黒人のエリート層は、常にヒップホップを嫌つてきました。下品だ、ブラックピープルの面汚しだ、といふ訳です。ゲットーの子供たちが自らを託すに足ると考へるヒップホップと、同胞の面汚しとしてのヒップホップ。ここにはなかなかに超えがたい深淵があると思ひます。

 さういつた意味で、この映画はダンス映画とはいふものの、黒人エリート層側の映画。その事に全く無自覚・無批判な映画なので、その点では“ダメな映画”ですが、さういつた事を考へさせてくれる、といつた点では“なかなかに有益な映画”である、と思ひました。

 にしても、所詮世の中“コネ”なんですかねー。つ、つらい。

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