残菊物語 [映画, 歌舞伎]
DVDで『残菊物語』を観ました。
先日も述べた様に、二代目尾上菊之助を描いた溝口健二の傑作映画。最後に船乗り込みのシーンがあるとて、せつかく私も船乗り込みに参加したのだから、その興奮も醒めやらぬうちに観ておかう、といふ訳です。
いやー、面白かつた! 別にどうッて事のないお話なのですが、それが何故ここまで面白いのか? と、首を傾げてしまふ程の面白さです。
ま、それはともかく。ありました、船乗り込み。予想してゐた事ではありますが、現在のものと全く違ひます。まづ、夜に行はれてゐます。提灯を連ねて、すごーくいい雰囲気です。芸者さんたちのキレイどころもズラリと居りますし、岸辺の人々も鈴なり。そして、なんと言つても役者さんたちがみんな、裃を着用してをります。浴衣なんてカジュアルなもんではございません。で、船の舳先に立つて、両手を拡げ、深々と挨拶。それを延々と繰り返してをりました。わー、なんとも華やかでいい感じだなー。
歌舞伎ファン的には、昔の歌舞伎小屋が観られるのが楽しい。なにより嬉しかつたのは、花道に荷物がゴチャゴチャと置いてあること。昔の観客は花道に荷物を置いてゐて、役者が出るチャリン! といふ音が聞こえたら、みんな慌てて荷物を下ろしてゐた、といふのは本で読んでゐました。確かに、花道に荷物が置いてある!
また、二代目菊之助は五代目菊五郎の養子だつたのですが、この五代目の実子といふ設定の赤ん坊も出てきます。おお、これが後の六代目菊五郎、歌舞伎界に君臨し、ジャン・コクトーも唸らせたといふあの…と、まァ、これは映画なので単なる役なのですが、なんとなく感慨深く観てしまひました。
歌舞伎界といふのは封建的なところです。身分の上下がキチッとある。名門の御曹司は、多少下手でもいい役をやれますし、家柄が下だと、いくら上手くても、端役しかできません。むろん、名門の跡取りがあまりに下手だと、実力のある者を養子にとる、といふ事もあるのですが、それでもやはり、身分の上下はキチンとあります。現代からみると、こんなのは不合理に思へて、劇のために良くないのではないか、と思はれるかもしれませんが、必ずしもさうではない。さういつた不合理を全て包み込んだが故の“コク”みたいなものが、藝には大切だつたりするのです。それを象徴するかの様な台詞がありました。
「いくら修練を積んだつて、地方廻りの小さな劇団に居たらどうしようもない。菊之助といふ大きな名前を背負つて、歌舞伎座といふ大きな舞台に立たないと、真の藝の上達なんてないよ(←正確ではありません。大意です)」
う〜む、7月大歌舞伎、早く観に行きたいです。
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