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2007年04月30日(Mon)

BLOOD DIAMOND 映画

 MOVIXにて『ブラッド・ダイヤモンド』エドワード・ズウィック監督(2006年アメリカ映画)を観ました。

 舞台はアフリカのシエラレオネ共和国。1961年にイギリスから独立した国ですが、長い間植民地支配されてゐた国にありがちな様に、政府が腐敗と乱脈を極め、世界最貧国と認定された様な所です。そんな政府に対抗して、RUF(革命統一戦線)といふ組織が結成されます。

 と、かう聞けば何だかRUFは素晴らしい様ですが、実際にやつてゐる事は村々を襲ひ、反抗する者・役に立たない者は虐殺し、あるいは腕を切り落とし、少年たちは洗脳して革命戦士に鍛へあげ、役に立つ者は奴隷としてダイヤを採掘させる事。さう、この国はダイヤが豊富に出るのです。そのダイヤを売つた金で武器を購入し、政府と闘ふ、といふ訳です。こんな中、CDF(市民防衛隊)といふ市民の自衛組織も作られ、政府内でもクーデターが相次ぎ、三つ巴、四つ巴の内戦状態が続いて、国内はさらにボロボロになつていくのでした。

 この悲惨さを食ひものにして暗躍するのが、欧米による国際資本。非合法にRUFからダイヤを密輸し、代はりに武器を売りつけ、もちろん敵対する政府にも武器を売りつけて内戦を煽り、甘い汁を吸ひ続ける、といふ訳です。ついでに買ひ占めたダイヤを貯蔵し、値段を吊り上げたりもします。

 ここにデカプリオ演じるアーチャーと、ジェニファー・コネリー演じるマディーの美しくも切ない恋愛が絡む…と、聞けば、名作『ナイロビの蜂』を思ひ出す人も多いでせう。その通り、これは『ナイロビの蜂』と同系統の映画。水準も同じくらゐ高い、“暴き系”の映画なのであつたー!

ナイロビの蜂
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 さて、私は今これを“暴き系”の映画と言ひましたが、それはどういふ事か。むろん、一般的に知られざる“社会的な悪”をエンターテインメントにのせて世界に発信する、といふのがその基本でせうし、この映画の場合は“世界資本に食ひものにされるアフリカ”“ダイヤ業界の血塗られた裏面”といふのがそれに当るでせう。人々はエンターテインメントに酔ひながらも、しつかりと(?)これらの事実を認識するのです。

 しかし、私の言ふ“暴き系”とはそれだけではありません。明示的なだけではなく、暗示的にも様々な事柄を暴いてゐるのが、“暴き系”なのです。それを、いくつか考へてみませう。

 まづ“ユダヤ人 VS 黒人”といふ軸が考へられるでせう。この映画には、明示的にはユダヤ人は出て来ません。が、ダイヤと言へばユダヤ人でせう。そして、ユダヤ人と黒人の対立は、黒人の奴隷貿易の頃からの根深いものがあります。それを、鋭く喚起させ様としてゐるのではないか?(ちなみにここでいふ“ユダヤ人”とは人種のことではなく、ユダヤ国際資本のことです)

 次に、この映画は実はアメリカを描いたものではないか、といふ事です。何故なら、RUFとアメリカの黒人ギャングの姿が凄くダブるからです。実際、RUFの連中はヒップホップをガンガンにかけながら村や街を襲撃します。また少年兵を洗脳・鍛へあげるのに、ハリウッドの暴力映画やヒップホップのPVなど、いかした暴力映像・音楽を使つてゐます。そして叩き込む信条が、「自らに誇りを持て!」「決して舐められるな! 相手に舐めさせるな! 舐める奴は殺せ! 殺せ! 殺せ!」「白人から国を取り戻せ!」「非情な心を持て!」などです。これらはアメリカの黒人ギャングのメンタリティに酷似してゐます。長い間奴隷として扱はれ、差別され、搾取され続けてきたがため、どちらもこの様なメンタリティになるとも言へるでせう。が、その事を利用して、アメリカ社会を描いてゐるのではないか?

ボーイズン・ザ・フッド
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 たとへば『ボーイズン’ザ・フッド』の様な映画を観れば出てくるのですが、ゲットーには必ず賢人がゐます。そして賢人は「ゲットーに銃やドラッグが蔓延するのは白人の陰謀だ。白人がそれらをゲットーに流し、我々の世界を荒廃させ、支配下に置き続けてゐるんだ(だから白人の陰謀に騙されてはいけない)」と、ゲットーの住民に告げます。ヒップホップの歌詞も似た様な事をラップしてゐるのですが、これらに対して、白人は「それは被害妄想ぢやないか。いくらなんでもわざと銃やドラッグを流したりしないよ。そんなの陰謀論だ」と答へたりするのですが、それならこの映画を観よ! 正に白人ども(国際資本)が黒人たちのもとに武器(銃)を流し、陰で上手い汁を吸つてゐるではないか!

 またイラク戦争をアメリカが始めた時に、ヒップホップの連中は「国外の戦争より国内の戦争をなんとかしろ!」と抗議の声をあげたのですが、アメリカは正に今も人種間戦争の真ッ最中なのではないのか。海外になかなか流れない情報ですが、実は現実のアメリカ(のアングラ部)は、正にこの映画に描かれた様なさまではないのか?

 この映画では「TIA」といふ言葉が出て来ます。これは「This Is Africa」の略で「これがアフリカだ(これがアフリカの現況、ざまだ)」といふ事なのですが、これには「This Is America」の意味も含まれてゐるのではないか。「TIA」「TIA」とみんな言ふのですが、これは「この映画はアメリカのことだよ〜ん」と暗に言つてゐるのではないだらうか。

 ……と、妄想系裏読みも楽しいこの映画。猛烈にオススメです。

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