霧太郎天狗酒讌 [歌舞伎]
南座に「三月花形歌舞伎 霧太郎天狗酒讌(←最後の字はゴンベンではなく酒偏ね)」を観に行きました。
上方では花形歌舞伎はぜんぜん、といふ話を聞いてゐたので、些か不安だつたのですが、なんとほぼ満席! これは、きたきたー! と、無意味に開幕前から興奮してしまひました。
この盛況は中村橋之助丈の人気によるのかもしれません。実際、周りの客席に耳を傾けてみると、「三田寛子の旦那さん」といふ声がボソボソと聞こえました。やはり、テレビ人気なのでせうか。中村吉右衛門が、「昔は“松本幸四郎の弟”としか言つて貰へず悔しかつたが、最近は鬼平犯科帖のおかげでやつと名前を覚えて貰つた。それなのに最近はまた“松たか子の叔父さん”と言はれる様になつて…」と語つてゐたのを思ひ出し、なんだか切ない気持ちになつてしまひました。テレビ人気、といふ事は、中村勘太郎・七之助兄弟も人気なんだらうなァ。ぢやあ、上方歌舞伎のホープらぶりん(片岡愛之助)は? …といひますと、浅草の時と違つて、イマヒトツ人気の熱度が感じられませんでした。う〜む、本人はなかなか良かつたのですが、役が一寸なぁ、地味過ぎました。
それに引き換へ、何と言つても目立つてゐたのは中村亀鶴丈! 悪役だつたのですが、これが素晴らしかつたです。歌舞伎では、悪役と善役がハッキリと分かれてゐます。悪役は分かりやすく悪相のメイクをしてゐますし、服装も悪どさを強調、喋り方も「そんな分かりやすく悪ッぽい喋り方せんやろ!」とツッコミたくなるほど憎々しげな喋り方をします。喋る口も歪んでゐます。そんな悪役を亀鶴が好演。嵌り過ぎでした。
この狂言は、復活通し狂言、といふ事で、111年振りの上演。上演時間を縮めたり、色々と原作を弄つたりした様で、その所為もあるのか、話は結構シッチャカメッチャカです。なんだかよく分からない、といふのが正直な感想ですが、この狂言はむしろストーリー云々より、その大仕掛け、絢爛な舞台美術、詰め込み過ぎの見所、やり過ぎと違ふか? と思ふほどしつこくキメル見得、などを楽しめば良いのでせう。さういつた意味で私が最も楽しんだのは、宙乗り、でした。
宙乗り。実をいふと、私はあまり宙乗りには期待してゐませんでした。だつて今や映画の世界ではワイヤーアクション全盛の時代。ワイヤーで吊つて、そのワイヤーをCGで消し、空中での自由自在なあり得ない動きを表現する事が当たり前の時代なのです。だから、ま、宙乗りは御愛嬌かなー、などと思つてゐたのですが、なんのなんの。歌舞伎のアンチリアリズムの力は、私の想像を遥かに超えて強力だつたのです。
明らかに紐で吊るされてゐる、といふのがまづ凄いです。そしてその様に不自然に紐で吊るされながら、クワッと変な顔をしたり、手足を振り回して見得をきつたりするのが凄い。それを延々とやるのです。フンムー! と空中で見得を切る霧太郎(橋之助)の後ろで、アレーといふ感じで連れていかれる遊女櫻木(七之助)もまた凄いです。ドリャー! アレー、クワワ!! アレー、ウワサー! アレー、てな感じで、南座の天井近くをユックリと、ジジーゴゴーと機械の音をさせながら移動していく様子は正にスペクタクル! もう、脳内にアドレナリンが猛烈に噴出しました。やー、興奮した。
最後はよく分からないうちに一件落着した様で、舞台の上で主要登場人物全員が並んでキメ! 櫻の花びらが舞台上を吹き荒れる中、幕となりました。
4時間、タップリと楽しみました。来月は「浪速花形歌舞伎」に行きたいと思ひます。
Comments
投稿者 ワリイシ : 2007年03月23日 13:23
宙乗り良かったですよね。
宙乗りと同時に花里屋が燃え落ちる舞台美術にも
猛烈に感激しました。
投稿者 店主 : 2007年03月24日 06:09
あー、実は私は宙乗りに気を取られてゐて、屋敷が燃え落ちる瞬間を見逃したんですねー。残念!
それにしても、霧太郎ッて、なんだつたんでせうね・・・。
投稿者 ワリイシ : 2007年03月24日 13:14
あっ、もったいな!
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