花嫁人形 [憂国]
いつもオパールを贔屓にしてくれるTさんが、昨日忘れて帰つたケータイを取りに来店されました。カウンター席に座り、注文したアイスコーヒーを啜るTさんと喋つてゐたら、意外な事が判明。東京の大学に行つたTさんは、学生時代に靖国神社でアルバイトをしてゐた事があつたのです。
「靖国とか行かれたこと、あります?」
もちろんです。2回しか行つた事はありませんが、あそこは大好きな場所ですね。あのシンプルな靖国鳥居といひ、巨大な菊の御紋の入つた扉といひ、境内に溢れる白鳩といひ、カッコ良すぎます。全体に張つてる雰囲気もいいですよね。
「遊就館とかは?」
あそこも2回、行つてます。とても充実した軍事博物館ですよね。今年の正月に行つた時は、硫黄島コーナーに注目してしまひました。栗林中将(今は大将か)の書、とかね。一種の感慨を持つて見学して来ましたよ。
「あそこに花嫁人形あるでせう。あれは?」
ああ、花嫁人形。結局お嫁さんを娶ることもなく死んでいつた若き英霊たちのために、彼らの母親たちなどが、せめてあの世で結婚させてやりたいと、奉納した花嫁姿の人形のことですね。もちろん、見ました。ああいふのを見ると、ホント切ないですよね。……でも、正直言つて、私は一寸怖いんですよ、ああいふの。日本人形だし。
「ああ、あの人形、すすり泣いたりするんですよ」
ドワー!!! そ、そんな怖いこと言はないで下さい! 私は恐がりなんですから!
「遊就館で働く人たちは何人も聞いてるらしいです。足音とか」
ウワー!!! やめて、やめて! やはり…と思つてしまふから、よけい怖い!
「それから……」
ワー! ワー! もう、いいです! 今後、二度と遊就館に行けなくなつてしまふー!
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