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2007年02月05日(Mon)

幸せのちから 映画

 MOVIXにて『幸せのちから(The Pursuit of Happyness)』を観ました。文無しのどん底生活から大金持ちになつた男の実話を基に、ウィル・スミス親子がその親子を演じる、といふ事で話題になつてゐる映画です。確かによく出来てゐます。ウィル・スミス親子もかなりの好演。が…、なんとなく釈然としない映画であつたのです。

 どこが釈然としないのでせうか。例へばウィルスミス演じるクリスがどんどん転落していくところ。商売がうまくいかなくてギスギスした生活、妻に捨てられ、家を追ひ出され、税金を無理矢理とられて破産する。かういつた過程は興味深いですし、その中でアメリカの貧困層の社会を描かうとしてゐるのは立派でせう。イタリア人の監督さんらしいですし、ネオレアリズモの伝統を感じない事もありません。しかし、同じく社会の底辺を描くケン・ローチの作品なんかに較べると、あまりに甘い。なんとなくファンタジックな雰囲気が漂つてゐます。それは、結局最後にはクリスが大成功する事が分かつてゐるからでせうか。どうも、これら貧困社会の描写も、最後には成功するクリスを劇的にみせるためのスパイス的な扱はれ方をしてゐる様に思へるのです。

 確かに、クリスの奮闘振りは感動的です。ウィル・スミス(クリス)走る走る! …が、さういつた奮闘振りを考慮に入れたとしても、クリスが成功したのは、運が良かつたからではないでせうか。実際、映画の中のクリスはとても運がいいです。盗まれたものが次々と返つてきたりします。ほんとのところ問題なのは、クリスほど運がなく、いくら頑張つても貧困から抜け出せない人たちなのではないでせうか。

 この映画は、最初から最後までクリスの語りによつて進められます。故に、内面が描かれるのはクリスのみ。他の人たちは、最愛の息子でさへ、単なる表象です。構造上、これは仕方の無いことなのかもしれませんが、この様な作りになつてゐるので、ホントに貧困社会がファンタジックな印象を与へるのです。リアルさがない。いや、リアルかもしれないが、シンパシーがない。成功者の手前味噌な自伝で、俺も昔は苦労したよー、と自慢されてゐる様な、そんな印象を受けたのですが、これは私が捻くれてゐるからでせうか。

 成功者にありがちなのですが、彼らは世の中の不条理や社会の理不尽に対する批判力が希薄です。自分がその様なものを捩じ伏せてきたので、そんなものは大したことない、と思つてしまふのでせう。それも一面の真理ですし、その様な人を見て勇気づけられる人も居るでせうから、別にかういつた映画があつても構はないのですが、私は、釈然としませんでした。特にアメリカの格差社会は現在問題になつてゐます。金持ちはドンドン金持ちになつて、貧乏人はいくら頑張つてもますます貧乏になつていく社会、といふ批判がなされてゐます。そして、今や日本もそのアメリカの後を追ふのか! と、問題化してゐる時に、こんなある種能天気な描かれ方をした映画を疑問なく受け取れるもんでせうか?

 たとへば、クリスが挑戦する株屋の養成コースは、志願者を半年無給で働かせ、最も成績をあげたもの(沢山の契約を会社のためにとつたもの)ひとりだけが正社員になれる、といふ代物です。私は、なんて酷い搾取のシステムなんだ! と驚いたのですが、さういつたものに対する批判の視点が皆無です。せめて、クリスと同じ様に必死に頑張つたものの、クリスが正社員になつたために正社員になれず、悲惨な境遇に落ちる、といつた人物をひとりでも配すれば、幾分マシだつたのでは? と、思ふのですが。

 しかし、この様に考へてしまふのは、所詮私が「負け組」の人間だからかもしれません。「勝ち組」の人間はかうは考へないでせう。この映画を見て、とにかく走れ! 走れ! クリス・ガードナーの様に! と、走り出すでせう。栄光のゴール目指して。金を掴むために。

 …う〜む、つべこべ言はんと私も走らな、店を潰してしまふなァ。

Comments

投稿者 客A : 2007年02月14日 21:20

勝ち組、負け組なんてのは観念でしかありません。
敗者は、勝者のせいでではなく、自分で敗者になるのです。店主さんも分かってるんでしょう?

お客が喜ぶ事をやっていけば大丈夫のはずです。頑張ってください。
潰れるなんてのは認めません。

投稿者 店主 : 2007年02月15日 01:34

ガーン!厳しい励ましのお言葉、ありがたうございます。

無論、ね、私も走りますよー。走れ、走れ、クリス・ガードナーの様に!
御来店お待ちしてをりまーす!

投稿者 Anonymous : 2007年02月19日 21:20

お返事有難うございます。
好きな場所がなくなってしまうなんて、考えたくも無いのでムキになってしまいました。すいません。

いつまでもオパールがあってほしいです。またお店に行くのを楽しみにしています。

投稿者 店主 : 2007年02月20日 04:34

はーい!オパールも頑張ります!

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