京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal：Home

「質問の内容なんてどうでもいいんです。質問することに意義があるんですから」と、オリンピックの様な説明をしてくれるサワさん。なるほど、勉強になります。

　一方ナクラくんの方は、意外や授業中に質問などした事がないといふ。ナクラくんなら如何にも「先生！　質問はどうやつてするのですか？」などといふ質問をしてさうなのだが、どうもこれは私の偏見らしい。しかし、ナクラくんは家庭内における“質問魔”であつたのだ！

　とにかく朝から晩まで、四六時中森羅万象についてお父さんに質問しまくつてゐたらしい。「なんで走つてるクルマのタイアは止まつてみえるの？」「なんで水は凍ると白くなるの？」など。それに対してお父さんも「高速で回転してるからだよ」「凍る時に空気を含むからだよ」などと徹底して答へまくり、さらにそれに対して ナクラくんが「ぢや、なんで高速で回転したら止まつて見えるの？」と突ッ込んだ質問をし、それにお父さんが誠実に答へ…と発展し、最後には宇宙の根源の真理に係る禅問答の様なものを二人で繰り返してゐた、といふ。う、羨ましい！　普通のお父さんは、そこまで丁寧に答へてくれないんぢやないか。適当な所で面倒くさくなつて、適当に子供の質問を打ち切るから、子供も親に対して不信感を持ち、ひいては世間一般に対して不信感を募らせ、どうせ何をやつてもダメさ、といふ無気力な大人へと育つていくのだ。ううむ、世のお父さん方は、ナクラくんのお父さんを見習ふべきではないか。さうすれば、子供は素直にメキメキと好奇心旺盛なまま成長していき、ナクラくんの様に世のあらゆる事を盗撮する立派な大人になると思はれます。

「いやー、それでね、学校でいはゆる性教育があつたんですよ」

　ほう。

「で、そこでボクたち生徒は、精子と卵子が結合して赤ちやんが出来る、といふ事を学んだんです。だけど、どうやつて精子が女の人の身体に入るのかが分からない。うーん、と頭を捻つて、これもお父さんに訊いてみました。すると、お父さんは難しさうな顔をして腕を組んで…『う〜ん、実はお父さんもそれだけが昔から分からないんや』と答へたんです」

　むむむー、お父さん、やるな。

「で、ボクも、お父さんにも分からない事があるんだなー、と、妙に納得してしまつたんですけどね」

　それはきつと、普段からお父さんがナクラくんの質問に誠実に答へてきたからこそ、さうナクラくんも信じたんだよ。さうでなけれだ「あ、何か隠してる、大人は不潔だ！」と、なつてゐたと思ふよ。つまり、ひとつの嘘を活かすためには百の誠実が必要だ、といふ事ですね。

　いやー、勉強になります。