紳士道場@床 [ウノピョン]
私は鴨川の床の上で夕風に嬲られながら、坊主頭で薄ら髭を生やした男と対峙しながら酒を飲んでゐた。この男の名はウノピョン。オパール紳士道場門下生であり、昨日、一昨日とオパールで猛特訓を受け、本日三日目、いよいよ詰めに入つた、といふ所である。
昨日までの特訓で判明した事は、ウノピョンは紳士になるための必須条件である「誠実さ」と「情熱」が欠けてゐる、といふ事だ。これは致命的の様な気がする。仕事が面白くないと悶々とし、ホントはソウル大好き人間(といふかコレクター)なのにそんな事はおくびにも出さず、合コンを繰り返しては可愛い彼女が欲しいと訴へ続ける。そんな事ではダメだ!!! …と、一喝、二喝、三喝…百喝くらゐした甲斐あつて、ウノピョンもとうとう腰を据ゑた様であつた。私はウノピョンに酒を薦めた。
「分かりました! ボクも自分に正直になります。やはりボクにはソウルなんです。ソウルなくして自分はありません。“誠実さ”と“情熱”。この二つを忘れない様にします!」と、ウノピョンは酒を飲み干しながら言つた。私は鷹揚に頷いた。
「でも…」
ん? でも?
「もし、もしですよ。長澤まさみと一緒に食事ができるのなら、レコード一枚くらゐ割られてもいいです」
な、なにー! …当然、そのレコードの選択は長澤まさみ本人に任せるんだらうな。
「ええー! それは一寸…。ううーん、ボクが選んだらダメですか?」
アホか。そんなん、なんのリスクもないやないか。よし、なら私が選ぶ。えーと、この間ゲットしたと言つてたThe Fabulous Play Mates。
「な、な、何をバカな事を言つてるんですか! それなら長澤まさみに選んで貰ひます!」
いやー、でも長澤まさみはもつとキツいの選ぶかも。なまじソウルについて何も知らないぶん、ホイ、て。
「そ、そんな…。ああー! どうしたらいいんだー!」
と、坊主頭を抱へて身悶へするウノピョンを見て、この三日間の特訓は何の成果も生まなかつたか…と、虚しい気持ちになつてゐたのでした。
Comments
コメントしてください