RIZE [映画]
MOVIXにて『RIZE』(デビット・ラシャペル監督)を観る。これは、今全米に(そして世界に)拡がりつつある新しいダンスムーブメント、“クランプ”について描かれたドキュメンタリー。普通かういつたダンスもののドキュメンタリーでは、ダンスシーンばかりに目が奪はれ、他の部分がかつたるく感じて、もつとダンスシーンを見せろよ! といふ風になりがちなのだが、この作品では、ヒリヒリするやうな厳しいストリートの現実が撮しとられ、写真家デビット・ラシャペルの本領を発揮したやうな人工的なPV風のダンスシーンの適度な挿入効果も相俟つて、全体を通してだれる事なく、分かりやすくひとつの文化が勃興する様が示された、非常に高度なドキュメンタリーとなつてゐる。
冒頭、1965年のワッツ暴動、続いて1992年のロス暴動の映像が流されることで、いきなり全身の血が沸き立たせられる。もちろん、この映像は、“クランプ”が産まれてきた土壌、原因を示すために流される訳だが、同時に“クランプ”といふダンスに含まれる“熱く煮え滾つた怒り”の要素をも暗示してゐる。これから何かが始まる、といふ不穏な雰囲気は、まるで『仁義なき闘い』の冒頭の原爆ドームの映像を思はせ、かういつた何重もの効果で、完全に『RIZE』の世界に引きずり込まれるのである。
なぜ“クランプ”といふダンスが産まれたのか。それは、貧困と抑圧が支配し、ギャングが横行してドラッグや暴力が万延する世界、理由もなく殺されるので文字通り“生き抜いていくのがハード”な世界で、ひとりの男(トミー・ザ・クラウン)が子どもたちを喜ばせるために、誕生日パーティーに出向いていつて、クラウン=道化・ピエロの格好をして踊り出した事に始まる。やがて、それに共感する若者たちが集まりだし、それぞれ顔にピエロ風の化粧をして踊り出すことになるのだが、そのうちその化粧がドンドンとアフリカの部族のペインティングを思はせるものへと進化していき、踊りも部族のダンスを思はせる原初的な激しさを表現するものに激化していつて、ついに“クランプ”ダンスとして独立する。むろん、彼ら彼女らは教育を受けてゐないので、アフリカのダンスやペインティングについての知識はない。ただ、彼・彼女らの血が、かういつた進化を促したのである。この様は正に圧巻で、ひとつの文化が産まれる時のエネルギーに打ちのめされてしまつた。生き抜くにはハード過ぎる環境で、それでも世界を肯定すること。生きることがそのまま闘ひであり怒りであり悲しみであり喜びであり、そして踊ることである事。さういつた事実、それが表された映像に圧倒され、私は映画が終はつた後もしばらくは席を立てなかつた。これを跳ね返して席から立ち上がり、その場で激しく踊る、ほどのエネルギーは今の私にはないかもなァ。
それでも、異様な高揚感とともに無意味に河原町周辺をグルグルと歩き回り、「さうだ、ヒップホップとはかういふモノだつた、ヒップホップとは…」とブツブツ呟き、やる事がないので仕方なく家路を辿つたのでした。
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