ハッピー? [etc]
ハッピー来店。「いや、ハッピーちやいますッて。ハッシーです」あれ? さうだつた? ハッチー? ハッピー? ハッシー? …まァ、どれでもイイんぢやない。
「そんなこと言はんといて下さい。ちやんと本も読んでゐるんですから」
暴走族出身、男一匹30歳を前にして初めて本を手にする! といふハッシーの計画は、着々と進んでゐるやうだ。むろん、相談を受けて読書計画を立案したのは私。この私の立てた計画に沿つて、ハッシーは今年に入つてすでに10冊以上の本を読んでゐるはずだ。で、何か変はつたのだらうか。
「いやー、この間、こんな事があつたんですよ」
ハッシーによると、ハッシーのよく行くお店の人で、村上龍の大ファンの人がゐるのださうだ。村上龍の小説は2冊ほど読んだハッシーは、さりげなく、いや臆面もなく(?)、その小説のことを話題に持ち出した。すると、その人は、まさかハッシーが本を読むなどと考へた事もなかつたらしく、大いに驚くと同時に、喜んでもくれ、村上龍について様々なことを語り聞かせてくれたといふ。良かつたな、ハッシー。
「いや、ほんまです。でも、話はここからなんです」
そのうち、村上龍が同時代で唯一認めてゐる文学者、といふ話になり、ハッシーが「それは誰ですか」としつこくきくと、「んー、中上健次ッて、いふ人やけど…ま、君にはまだ難しいと思ふわ」と軽くかはされてしまつた。そこで、ハッシーはさりげなく、いや、それこそ臆面もなく(?)、カバンの中から中上健次著『千年の愉楽』を取りだし、「今はこれを読んでゐるんですけど…この人ですか?」と言へば、その人は絶句してしまつたといふ。
「いやー、ほんま、ケンタロウさんに作つて貰つたリストは役に立つてゐます」
ううむー、さうか…。それは良かつた、と、単純に言つてよいものかどうか…。
「でも、その人はしばらく黙つた後、『まァ、何を読んでもいいんだけど、物事には順序ッてものが有るから…』と呟いたんですよ」
うん、さう言ひたい気持ちはよく分かる。でも、ま、何でもいいやな、何でも読めよハッピー!
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