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2005年07月12日(Tue)

透明人間 フィットネス

 フィットネスクラブに行くと、ロッカールームの中に風呂がついてゐる。私の行つてゐるところはサウナと水風呂と温泉とシャワーがある訳だが、もちろんのこと、男女別である。故に男風呂には裸体の男たちが溢れてゐるのだけれど、ここに突然、服を着た女性が入つてくることがあるのだ。しかし、裸体の男たちは誰も驚いた様子がなく、そのまま普通に身体を洗つたり、湯船に浸かつてゐたりする。

 この女性は何者なのか。彼女は……透明人間である。だから誰も驚かない。彼女がそこにゐないかのやうに、みんな振る舞つてゐる。むろん、この“透明人間”とは、映画『ブレッド & ローズ』において、ビル清掃員の男性の口にする「おれたちは透明人間なんだ、ビルの人間にとつて」といふセリフ、このセリフにおけるのと同じ用法である。つまりは、この女性とは清掃のをばちやん。なるほど、確かに清掃員とは透明人間なのかもしれない、と、私は『ブレッド & ローズ』を思ひ浮かべつつ考へたのであるが、それにしても、一寸なァ、と思はずもゐられなかつた。なんか、不自然のやうな気がする。

『ブレッド & ローズ』と同時に、会田雄次著『アーロン収容所』の中のあの有名な挿話も、私の頭の中に浮かんできた。アーロン収容所とは第二次世界大戦の時に英国人が捕まへた捕虜を収容してゐた所だが、そこでのある日、日本人捕虜が英国人の部屋を掃除に行つた時、たまたまそこにゐた英国人女性が丸裸だつたらしいのだが、彼女は別に驚いた風もなく、まるでその日本人捕虜などそこに存在しないかのやうであつた、といふものだ。彼女にとつて、日本人など(しかも捕虜など)、自分達と同等の人間とは見なしてゐなかつたのだらうが、私は中学生の時に初めてこの挿話を知つて衝撃を受け、以来深く心に牢記してきたのであつた。

 てな事を考へながら、湯船に浸かつてをりました。

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