そ、それは! [マツヤマさん, ハッシーさん, バトル]
ヤマネくん来店。「あ、やつぱり、早かつたかな?」。ヤマネくんはハッシーとのジェンガ対決を控へてゐるのだ。「すんませーん、遅ーなつてー」とハッシー来店。早速、といふか唐突に試合開始。
チャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッチャ……チャ、ッチャチャ、ッチャ、チャ、チャ…チャ…チャ…チャ…「あああああー!!!」試合終了。ハッシーの勝ち! ある意味、予想外だな。ヤマネくんに敗者の弁を聞かう。「いやー、スッキリしました! ハッシーに負けて良かつたー。これがコータローやトモコさんなら、悔しくて死にさうですけど。だけど、やはりボクはジェンガには向いてゐないですねー。…え? オイシンに勝つたぢやないかッて? あー、そんな、オイシンに勝つてもそんなもの、勝ちのうちに入りません!」
夜。不吉な暗雲が空には立ちこめ、その怪しげな空気がオパール店内にも忍び込んで異様な雰囲気が辺りを圧し始めた頃、その闘ひは始まつた。マツヤマさん VS トモコ。かつてこれほど怖れられた対戦カードがあつたであらうか(いや、ない!)。二人とも“攻めの抜き”、且つ早撃ちの名手。猛烈な勢いで下からピースがなくなつていく。始まつて3分もしないうちに、もう下半部3分の1ほどがピース1本づつで組み合はされた状態となり、ユラ〜リ、ユラ〜リと塔が揺れ始めた。恐ろしすぎる。が、当然といふべきか、抜くスピードは落ち始める。もう、少し触るだけで塔が倒れさうなのだ。ゆつくり、慎重に抜く。ひとつ、抜くたびに、観客から溜息が漏れる。オオオー。ひとつ、抜くたびに、トモコはマツヤマさんを睨みつける。ゾゾゾー。威嚇につぐ威嚇。マツヤマさんは、脂汗を流し始めた。……ウワアアアアー!!! 観客の間から悲鳴が起こつた。トモコがピースを抜いた途端、塔が、塔が、倒れ始めたのだ!
「はァ!!!!!」
一撃の気合ひのもと、塔はピタリとその倒壊を止めた。こ、これは、秘技「マツヤマ」!!! いつの間にトモコはこの秘技を修得してゐたのか。周りの観客は呆気にとられて沈黙し、マツヤマさんは青ざめてゐる。
「フッフッフ」トモコは不敵の笑みを浮かべた。
これで勝負はほぼ決したやうなものだ。この勢ひに乗つてトモコは攻めに攻め、勝利の栄冠を見事その手に……、と、いつた風にいかないのが現実の闘ひの恐ろしい所である。結局、マツヤマさんが勝つたのである。ううーむ、さすがに強い、マツヤマさん!
「ああー! なんでー!」と、トモコは叫び、「お疲れさまでした」と言つてマツヤマさんはそそくさと帰つていつた。
勝負は恐ろしい。
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