山科閑居 [文楽]
今秋の文楽は「仮名手本忠臣蔵」の通しです。
通しだから朝の10時半から夜の21時ぐらゐまで、そら長いので、とりあへず私は夜の部を観に行きました。
夜の部は、「祇園一力茶屋」があって、「道行き」があって、「山科閑居」があって、なぜか「討ち入り」はやらなくて、「大詰め」、で終はり。で、私は「道行き」は必ずと言っていいほど寝るのですが、今回も豪快に撃沈。大詰めは付けたしみたいなもんだから、「祇園一力茶屋」と「山科閑居」を楽しみました。
やっぱこれらはとっても面白いんです。
「祇園一力茶屋」は、蓑助と勘十郎の絡みがあるので、それだけでオッケーなんですが、私はやっぱ「山科閑居」が好きです。「山科閑居」は、前半は地味目に進行し、後半に至って怒濤の展開!をするのですが、これが凄い。私は地味目な前半はウトウトとして・・・って、なんだか私は寝てばっかりで、ホントに楽しんでるのかい!と疑はれるかもしれませんが、いや、ほんと、メッチャ楽しんでますよ。
なんか、三味線の音と義太夫をBGMにウトウト〜としてるのってとても気持ちがいいですし、ハッと覚醒したら、お人形がグワ!バタバタ!と動いてるのは楽しいです。ま、ストーリーは分かってますからね。別に寝たって、なんの不都合もないのです。できれば、お酒でも飲みながら鑑賞したい。
ただ、私は大抵最前列で観てますので、人形遣ひの人たちから寝てるの丸見えで、それが少々気まずくはありますが・・・。
いや、でも、ほんとに楽しんでるんですよ。今回も、泣くは笑ふはで、大変でした。
山科に居る大星由良助の所へ、その由良助の息子・力弥の許嫁・小浪と、彼女の母親・戸無瀬が訪ねてくるのですが、由良助の妻・お石に、結婚をキツくキツく断られます。絶望して小浪・戸無瀬母娘が自害しようとしてゐる所へ、虚無僧の吹く尺八がブオーと鳴り、障子の向かうから「御無用!」の声が掛る・・・。このシーン、メッチャ可笑しいです。それまで、戸無瀬とお石の間で、かなり丁々発止のやりとりがあって、それでも結果は決裂で、あぁ、もう死ぬしかない・・・といふ緊迫感の中、ブオー、「御無用!」。戸無瀬が、えええ???といった感じで辺りを走り回るのですが、なんもないか、やはり死ぬしかない・・・と刀を振り上げたら、またブオー、「御無用!」。なんか、めっちゃシュールなんですよ。また、舞台が雪の山科に白無垢の衣装の小浪、真っ赤な着物の戸無瀬、と、かなり美しいのも、幻想度に拍車をかけてゐます。
で、こっからが怒濤の展開で・・・、「御無用」と言ったのは実はお石で、そこまで覚悟があるなら死ぬこと御無用、結婚を認めませう。と言ひ出します。喜ぶ小浪・戸無瀬。が、ただし・・・小浪の父・戸無瀬の夫である加古川本蔵の首を引き出物で持って来い!と無茶な要求。お石は本蔵を恨んでゐたんですね。それを聞いて、母娘は「シエエー!」と驚きの悲鳴。と、虚無僧が家の中にズカズカ入って来て、「わしが本蔵じゃ!」。なんと!本蔵が虚無僧に化けて、母娘の後を付けてきてたんですね。素晴らしく強引な展開!それ見て母娘がまた「シエエー!」。本蔵は、大星由良助の事を日本一の大阿呆!と罵倒し、そんな阿呆の息子に大事な娘をやれるかい!と叫んでお石を組み伏せ、押さへつけます。「シエエー!お父さん!」「あなた!」
と、そこに力弥が出て来て槍で本蔵を一突き!「ウギャー!」「シエエー!」トドメを刺さうとする力弥。その時、颯爽と奥から由良助が現れ、「早まるな!」。実は本蔵は、自分の娘を力弥と添はせるために、わざと力弥に討たれたんですね。そんな事は全てお見通しだった、と由良助。
・・・はっきり言って、この由良助の陰険さは凄いです。お前、今まで事の成り行きをずっと襖の後ろで窺ってたんかい!と、突っ込みたくなります。全てがどうしようもなく取り返しがつかなくなってから現れて、オレは全てが分かってゐた、みたいな奴って・・・。大体、私はこの大星由良助が嫌いです。かういった陰謀をめぐらす人間って、陰険なんですよ。いくら忠義のためだからといって、陰謀はダメですよ、陰謀は。陰謀をめぐらすと、人間が陰険になる、といふ教訓を含んだお話。
で、瀕死の本蔵が、これが娘の結婚の引き出物の目録だ、と言って由良助に渡すのが、なんと師直の屋敷の図面!それをみて今まで気取ってゐた由良助も「シエエー!」。
とっても楽しいお芝居です。
来週は昼の部を観にいきます。
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