ヒアアフター [映画]
「映画環境改造計画 映画は強制起訴される!」の第2弾。今回起訴された映画は・・・「ヒアアフター」です。
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- ヤマネ
- わー!恐かったー!恐かったですよ、この映画。
- マツヤマ
- え?どこが?死後の世界(ヒアアフター)の描写が?
- ヤマネ
- 違ひます!最初の津波のシーンです!あと、ロンドンの爆弾テロのシーンとか。
- 元店主
- あれは確かに恐かったね。映画は最初、いつものイーストウッド節で、ゆ〜ったりと穏やかに始まるんだけど、そこに突然あの津波!あれ、凄過ぎるでせう。私は思はず席で仰け反ったよ。なんじゃこりゃ!って。
- ヤマネ
- とにかく早いですしねー、波。で、容赦がない。全くない。あんな恐い津波のシーン、初めて観たかも。
- マツヤマ
- オレも、イーストウッドが大々的にCG使ふといふんで、危惧してたんだけど、あれにはビックリさせられた。オレは未だにCGって好きになれない所があるんだけど・・・、あれには「参った」といふしかないな。
- 元店主
- 二人とも、率直に、どうでした、この映画?
- マツヤマ
- まぁ、面白かったんぢゃない。少なくとも、前作の「インビクタス」よりは、ずっと面白かった。
- ヤマネ
- ええー!「インビクタス」もよかったですよー!マット・デイモン、最高やん!!
- マツヤマ
- はは、ヤマネくんはマット・デイモンが好きだからなぁ。・・・オレは、なんか「バベル」みたいだと思ったね。三つの話が最終的にひとつに収斂していくとことか、最後に書かれた手紙に何が書いてあったのか、決して明かされないところとか。
- 元店主
- あ、さういふ事って、あるんですよ。私も「ミリオンダラーベイビー」を観た時に、映画のラストで、なんだこれは、「ベティーブルー」ぢゃないか!と思ひましたもん。
- ヤマネ
- 二人とも何いってるんですか!この映画、むろん前作も、カメラワークがカッコ良過ぎるでせう!今回も、マリーが恋人とレストランのウェイティングバーで待ってて、それから席に案内されるところ!あの階段を降りていくシーンのカメラの切り返しとかカッコ良過ぎて、もー、痺れました!
- 元店主
- 今のイーストウッド組の撮影監督は・・・トム・スターンか。最近のイーストウッドの映画の独特のクラシック感は、彼によるところが大きいのかもね。・・・えー、と、トム・スターンはいつから撮影監督やってるんだったけ?
- ヤマネ
- 「ブラッドワーク」からです。
- 元店主
- ええ!そんなに前から?・・・ふう〜む、さうなのか。まぁ、言はれてみれば・・・。でも、今回はカメラワークも、いつもと微妙に違ってない?なんといふか、その、妙に突き抜けた明るさがある、といふか。
- ヤマネ
- ケンタロウさん、何か言ひたい事があるんでせう?言って下さいよ。そもそもケンタロウさんはどう思ったんですか、この映画?
- 元店主
- うん、いや、面白かったよ。とても。個人的に、凄く好きな映画ではあるんだ。で、どふいふ所かといふと・・・結構、老人力に溢れてる映画だと思ったからなんだけど。
- マツヤマ
- それは、惚けてるってこと?
- 元店主
- いや、それは違ふんです。それでいふと、いつも通り、この映画はイーストウッドの哲学がビシッと見事なまでに通ってゐて、微塵もボケは感じさせない。昨今の日本映画みたいな脳軟化状態の映画とは対局の、非常にクレバーで明晰な映画だと思ひます。が、さうではなくて、なんか随所随所が、結構、変、といふか。昔から、イーストウッドの映画はちょい“変”なんですが、今回はその程度がかなり凄いかな、と。
- マツヤマ
- 具体的には?
- 元店主
- 具体的には・・・、例へば、ラストシーン。そもそもマット・デイモンは相手の手を握る事によって、その人の背負ってゐるものを読むんだけど、なら当然、ラストのマリーとの握手のシーンで何かが起こると思ふぢやないですか。なのに、何も起こらない。
- マツヤマ
- それはマリーも死後の世界を観た人間だからぢゃないかな。マット・デイモンの能力は、不均衡な人間の間で働くんだよ。マリーとは、同等だから、その能力は働かない。
- 元店主
- いや、その、説明はいくらでもつけられると思ふんです。さうではなくて、なんといふか、あのシーンは、如何にも何かが起こるぞ!といふ感じで撮られてゐて、でも何も起こらないんです。しかも、その直前に、唐突にマット・デイモンの妄想シーン(?)があって、で、直後に、唐突に映画が終はるんです。変、でせう?変、だと思ひますけど。私はビックリしましたよ。シャマランの「アンブレイカブル」級に驚いた。いや、それ以上に驚いたかも。最後の最後、一瞬で今までと全く違ふ映画に変はってる!
- ヤマネ
- あそこで世界が変はったんですよ。さういふ奇蹟を描いてるんですよ、きっと!
- 元店主
- まぁ、さうなんだらうなぁ。イーストウッドは、現世での奇蹟はさう信じないだらうけど、映画の世界では奇蹟を起こすからなぁ。
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- マツヤマ
- オレはあくまで科学的な精神を描いてるところが良かったな。ヒアアフター=来世、を扱ってるんだけど、それを科学的に究明しようとする。そもそも、マット・デイモンだって、あれは来世とコネクトしてるといふより、相手の無意識を読んでる訳でせう?
- 元店主
- さうですね。さう考へた方がスッキリします。マット・デイモンもその事に薄々気がついたからこそ、最後に子供にウソ・・・といふか、作り話をするんですよね。君の(死んだ)兄さんはかう言ってるぞ、と。あくまで、生きてゐる人間の方が大事なんだ、親しい人の死にあった時、それをどう乗り越へ、どう生きていくかが大事なんだ、といふ事でせう。
- ヤマネ
- でも、必ずしもさう断定してる訳ぢゃないですよね?マット・デイモンは本当に死者と交信してるのかもしれないし、あの子に言ったのも、作り話ではなく、本当に死んだ兄さんの声だったのかもしれない。さう、解釈しても構はない様に、撮ってありませんか?
- 元店主
- うん、確かに。だから、イーストウッドは、100%、死後の世界とかを否定してる訳ではないと思ふよ。それはあるかもしれない、ないかもしれない。どちらにしても、大事なのは生きていく我々自身。ある、と容易に信じるのも、様々なインチキにひっかかる可能性が高まる訳だから、よくない。が、ない、と軽々しく断定するのも、この世が全てならどんな悪どい事をやってでも楽しくやったもん勝ちぢゃん!みたいな退廃を生むから、よくない。つまりは、ジョージ・オーウェルが提起した、宗教を否定しながらも宗教的なものを擁護する、といふ課題を見事に引き受けた形になってゐる。ま、イーストウッドはいつだってさうだけどね。
- ヤマネ
- そこらへんは、一貫してますよね。イーストウッドの映画って、やたら十字架が出て来るんですけど、決して宗教の方にいかないですもん。見事といふか、頑固といふか。
- マツヤマ
- リバタリアンの面目躍如だな。
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- 元店主
- ところで、印象に残ったシーンって、どこですか?私はやっぱり・・・
- ヤマネ&マツヤマ
- イタリア料理教室のシーン!
- 元店主
- ・・・ですよね。あそこは最高でしたね。なんか、最高に変。あんなシーン、誰も撮れないですよね、普通。
- ヤマネ
- 妙にエロチックですしね。で居て、なんか場所は寒々しい。
- マツヤマ
- シェフのオヤジが背景をチョロチョロしてゐて、あれがまた笑へる。
- 元店主
- あと私は、マット・デイモンがディケンズの朗読テープを聞いてゐるシーンとか好きだった。妙に、心に残る。
- ヤマネ
- あの満ち足りた顔!
- 元店主
- やっぱあれは、ゴダールに対抗してるのかなぁ。ゴダールの“読む”に対して、“聴く”といふ対比。
- ヤマネ
- いやー、ゴダールの方はイーストウッドの事を意識してるみたいですけど、イーストウッドはそれほどでもないんぢゃないですかぁー? むしろ、イーストウッドはマヌエル・ド・オリベイラの事を意識してるみたいですよ。自分も100歳過ぎても映画を撮り続ける、って言ってましたもん。
- マツヤマ
- それは頼もしい。俺たちも、あと20年はこの鼎談を続けないとな。
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次回に強制起訴される映画は、コーエン兄弟の新作「トゥルー・グリット」です。京都では、3月中頃から上映予定ださうでーす。
Comments
投稿者 テラリー : 2011年03月14日 22:42
観に行かねばと思い、先週末に予定していたところにこの大地震。節電の影響もあり上映回数が限られていたのですが、ついに上映中止になってしまいました。
本編内に大震災を連想させるシーン(津波?)がでてくるのが問題な様です。
キック・アスが観られたのでいいや、と自分を慰めております。
投稿者 元店主 : 2011年03月15日 01:15
テラリー 大丈夫か?
・・・、なーんて、お愛想で訊いてみる。ま、テラリーは大丈夫だよな、どう考へても。
「ヒアアフター」上映中止か。確かに、あの津波のシーンは相当恐かったけどね。観ておくべきだったな。残念。
「トゥルーグリット」は早めに観にいけよ。
投稿者 テラリー : 2011年03月16日 18:09
大地震ではかなりの揺れに襲われ(震度5強が4分くらい続いた様です)、度重なる余震と原発の惨状に不安は募らせております。といいながらも電車が普段通りでないのと、スーパーに商品がない程度で、周りは平穏です。
職場でもテレビが付きっぱなしで、なかなか映画館で二時間情報をシャットアウトする気持ちにはなりにくいですが、週末にはなんとか挑戦してみます!
投稿者 元店主 : 2011年03月17日 03:29
むろん、警戒を怠ってはならないが、気分転換も必要だからね。あまりに不安感を募らせると、精神上も肉体上もよくない・・・、なんてことは、心理学をやってゐたテラリーには釈迦に説法か。
常に心も身も軽く保って、生活して下さい。
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