スーパーフライの帰還 [映画, 読書・文学]
『アメリカン・ギャングスター』マーク・ジェイコブスン(ハヤカワ文庫)を読みました。
これは映画『アメリカン・ギャングスター』の元になつたもので、本物のフランク・ルーカス(『アメリカン・ギャングスター』の主役。70年代の麻薬王)を訪ね、昔の話をあれこれ聞き出す、といふルポです。こいつがまた! 非常に面白かつたのです。映画の何十倍も面白い。これをそのまま映画化すれば良かつたのに…、と思はず呟いてしまひました。ま、そのまま映画化しても、今のリドリー・スコットではやはり面白くないかもしれませんが。
何より、フランク・ルーカスの魅力がよく描かれてゐます。映画では、ルーカスは単に寡黙で粗暴な男にしか見えませんでしたが、現実のルーカスはかなりお茶目。人を驚かす事が好きで、適度に抜けた印象。が、怖い時は凄く怖くて、でも敵・味方含めてみんながルーカスの事を「クソ好き」になつてしまふといふ、不思議な魅力の持ち主として描かれてゐるのです。実際、昔ルーカスに関はつた人たちに取材すると、みんなルーカスが間違ひなく悪党であると口を揃へるのですが、その後、必ずルーカスに対する好意を語るのです。うーん、これを描かないとダメだらうが、リドリー。なんちて。
フランク・ルーカスは、“友好的で飾らない明るい態度”が生きていくための基本スキルだ、と語ります。傾聴に値しますね。
ところで、フランク・ルーカスは麻薬王であつたにも関はらず、わずか9年で出所してきてゐます。実はこれが、このレポート最大の謎となつてゐるのです。…あれ? ルーカスは汚職警察の洗ひ出しに協力したから刑期を短縮されたんぢやなかつたの? と、映画を観た人は思ふでせう。ところが、どうもさうではない様なんですねー。この件に関しては絶対に探らないこと、といふのがルーカスが取材を受ける前提条件になつてゐまして、適当な理由を勝手に考へろ、と著者はルーカスに言はれてゐるのです。うーん、何があつたんだろ。
もちろん、著者はひとつの推測を書いてゐます。それは“仲間を大量に売つた”といふものです。が、黒人ギャングの世界で裏切りは絶対に許されない事です。今でも黒人のストリートギャングの世界で抗争などがあり、人が死んでも、誰も警察には協力しないので、犯人が捕まらない、といふ事が度々あつて問題になつてゐます。衆人環視の中で行はれた殺人であつても、さうなのです。長い間、警察に痛めつけられてきた黒人の世界では、警察に協力するのは絶対悪なのです。
だから、もし本当にルーカスが仲間を大量に売つたとしたら…、そら絶対に表に出せない事でせう。なるほど。
しかし、私はもつと奥の事情を考へてみたい。ルーカスは、米軍を利用して麻薬を輸入してゐたのです。そんな事ができるためには、やはり相当上の方と繋がりがないと出来ないのではないか? その繋がり故に、刑期が短縮された、とか。ではその繋がりとは……、と、うーん、今日もまた陰謀論に踏み込んできましたねー。
いや、黒人の世界で根深く囁かれる陰謀論として、“ゲットーに銃とドラッグを流したのは、黒人世界の荒廃を狙ふ白人の陰謀だ”といふのがあるのです。となれば、ルーカスはその陰謀の片棒を担いでゐた、とか? となれば、その黒幕とは? あの人???
やー、映画では是非そこら辺を突ッ込んで欲しかつたですねー。フィクションの強みとして。ま、リドリー・スコットにそれを求めるのは無理ですかー。
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