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2007年06月01日(Fri)

反戦・娯楽・陰謀 憂国

 息子が戦死したのを切ッ掛けにイラク戦争反対運動を始め、“反戦ママ”としてイラク反戦運動のシンボルになつたシンディー・シーハンさんが、自らのブログで引退を宣言しましたね。いくら生活を投げ打つて活動しても、イラク戦争を止めることができない、なによりアメリカ国民はテレビ番組「アメリカンアイドル」に夢中になるばかりで、反戦運動がちつとも進展しない……といふ状況に絶望しての引退宣言ださうです。うーむ、恐るべし「アメリカンアイドル」!

 ところで、「アメリカンアイドル」を御存知でせうか。これは“スター誕生”みたいな番組で、一年ほどかけてたくさんの候補者(最初は10万人から!)が争ひ、ある程度候補者の数が絞られてからは、視聴者による電話投票によつて勝者をきめていく、といふものです。その戦ひの過程を、ズウッと番組で伝へていくのです。アメリカ国民のみなさんは年がら年中この番組に夢中の様で、最終投票率は、なんと大統領選の投票率を超えるさうです! あ、あほや。

 しかし、「アメリカンアイドル」を舐めてはいけません。ここでの優勝者は、たいてい歌手としてデビューすることになると思ふのですが、そして私も何人かの歌を聴きましたが、みんな驚くほど歌が上手い! “アイドル”といふ言葉から我々日本人が想像するのとはかけ離れた、ディープでソウルフルな歌声を聴かせる人ばかりです。ま、アメリカでは、(事務所の力がものをいふ)日本と違つて、アイドルも実力勝負ですから。

 それに人間といふものは、“直接”自分がそれに携はつてでもいなければ、さうさういつまでも政治的なことに興味を持ち続けることはできません。イラク戦争にウンザリしてゐるアメリカ国民の数は、増え続けてゐるでせう。イラク戦争は間違つてゐる、といふ認識も広がりつつあるでせう。しかしそんなこんなも、操り様によつては、反戦から単なる厭戦へと導くことができます。つまり、娯楽です。みんな楽しい事の方がいいのです。(もちろん、攻められてゐるイラクの人たちはそんな事は言つてられません!)

 私も、イラク戦争について意見を求められれば、「そんなもん反対に決まつてるだらう! 小泉、お前は許さん!!」てな答へになるのですが、普段はそんな事はスッカリ忘れ、ウメドンとエイメリーの太腿について言ひ争つたりしてゐます。情けない。日本も、イラクに軍隊を送つてゐるのですが…。

 ツァイ・ミンリャンが言つてましたが、自分のアート映画と、ハリウッド製の娯楽映画だと、人々は絶対にハリウッド製の娯楽映画の方を選ぶ。だから自分は自分の映画のチケットを直接人々に売りに行つた、と。ま、それがどれ程の効果があるのかは謎ですが、要は何事も工夫が必要、といふ事です。反戦運動にも工夫が必要です。んで、私が考へるに、陰謀論もその一種ではないか、と。

「アメリカンアイドル」にみんなの興味が集中してゐるなら、それも陰謀論で語ればいいんです。「アメリカンアイドル」は国民の興味をイラク戦争から逸らす陰謀だ! とか。実際、その通りだと思ひますけど。

 とはいへ、陰謀論も杜撰だとすぐ人々に飽きられてしまひます。だから、精緻で娯楽性の高い陰謀論が必要なのです。どこまでも精緻に理論を高めていく、そのためには様々な隠された事実を暴き続ける。どこまでも娯楽性を求めていく、そのためには危険な方へ、危険な方へと足を踏み入れていく。

 …と、最後に辿り着くのは、真実、かもしれません。

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