『硫黄島からの手紙』について [映画, 尊皇]
ババさん来店。「観てきましたよ、『硫黄島からの手紙』……打ちのめされました。」
あ、良かつたですか。それは、良かつた。私も『硫黄島からの手紙』は良かつたんですけど、これは、一寸賛否両論分かれるかな? と、見終わつた後に危惧してたんです。
「さうですか? いやー、ここまでクールな戦争映画はないでせう。少なくとも、今の日本人には絶対に撮れない。日本人はあの戦争には思ひ入れやコンプレックス、思惑などがあり過ぎて、どうにも過剰に感情的になるでせう。(今の)日本人には絶対撮れない日本映画、としてボクを打ちのめしました」
確かに。でもイーストウッドは「大抵の戦争映画はプロパガンダだから嫌いだ。自分はそんなものは撮りたくない」と言つてましたから、どこの国でも、戦争映画となればなかなか難しいのかもしれませんね。
「イーストウッドの場合は情緒に流されない論理、といふか哲学があるでせう。エンタテインメントなのに。そこが、いい。この映画も正にさうで、これを戦争映画と呼んでいいのか、悩みます」
一庶民による人生との戦ひ、といふ姿勢が貫かれてますよね。それが、いはゆる“大きな戦ひ=戦争”を相対化してしまつてる、といふか。
「なんにせよ、ボクは『父親たちの星条旗』より、断然『硫黄島からの手紙』ですよ!」
私も、映画の出来としては『父親』の方が上かな? とは思ふものの、好みで言へば『硫黄島』ですね。
…などと話してゐたら、オイシンが目を真ッ赤に腫らして来店。これはもしかして、と、オイシンに話しかけてみる。
お、オシシン。さては、観て来たな、『硫黄島からの手紙』。
「は? いやいや、これは酔つてるんですよ! お酒飲んできたから」
なんだ。…で、オイシンは観たのか?
「へ? あー、『硫黄島からの手紙』ですか。観ましたよ、初日に! …もう、ねー、ダメでしたねー、あの映画。チットも面白くない!」
「ええ! オイシンはダメだつたのか! ……良かつた!」
「え? そんなに喜んでるとこを見ると…もしかしてババさんは面白かつたんですか、あの映画?」
「当たり前やん。最高や」
「ウッソー、どこが? 全く、燃えるとこがなかつたですよ。なんか気づいたら、もう終はり? て、感じで。なんなんですか、あれ」
うーん、オイシンは多分、血湧き肉踊る映画を期待してたんだな。
「当たり前ぢやないですか! ムッチャ興奮するか、泣けるか。どちらかを期待しますよ。ていふか、どちらもあるのが良い戦争映画でせう」
「イーストウッドは、さういふ戦争映画を拒否してるんや。そこが凄いんやん」
「えー! なんで? サッパリ訳が分からないですよ。『男たちの大和』の方が面白いんぢやないですか。観てないけど」
「むむむ、『男たちの大和』は観たが…『硫黄島』には、『大和』に欠けてるものが全てある!」
「ヘー、それは何ですか?」
「えー、たとへば、…“天皇陛下万歳”だ!」
ええ! 『大和』には“天皇陛下万歳”がないんですか? …そらアカンわ。
「あの渡辺謙の“天皇陛下万歳”は良かつたですねー」
うむ、最高だつたな。…よし、やるか! …天皇陛下万歳!
「バンザーイ!」
「バンザーイ!」
「…よし、もう一回観に行かう。今度は『星条旗』と続けて観てみるか」
「ウッソー」
ははは、オイシンも、もう一回観てみたら?
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