お婆さんの話 [テラリー]
ユキエさんの話。ある時、バスに乗つてゐると、知らないお婆さんがバス賃がなくて運転手と揉めてゐたさうだ。なんとなくそれを見てゐると、そのお婆さんが突如ユキエさんを指さして「この人から代はりにお金を貰つてをいて!」と言つた。もちろんユキエさんはそれを無視したのだが、それ以来、様々な場所でそのお婆さんを見るやうになつたといふ。電車やバス、河原町や自宅周辺、あるひは全く関係ないところに出掛けたところ、擦れ違つたこともあるさうで、ユキエさんは、このお婆さんを妖怪だと固く信じてゐるとの事である。
テラリーの話。これはテラリーの血縁のお婆さんの話。テラリーのお婆さんは晩年、癌になつて家で寝たきりになつてゐたさうなのだが、ある時から、部屋の隅に何か恐いものがゐる、といふやうになつたのださうだ。テラリーがそこを見ても、もちろん何もゐない。が、お婆さんは自分の主張を譲らず、決してそこを見ないやうに、顔を不自然に背け続けたさうだ。死期が近づいたから幻覚が見えてゐたのか、それとも本当に何かが見えてゐたのか、今でもテラリーは考へる事があるといふ。
確かに、幼児や老人には、大人が見えないものが見えたりするものだ。あと、ジャンキーにも。なら、それ、幻覚やん、と言ふ人がゐるかもしれないが、それが本当に幻覚なのか、脳の仕組みに変化が起きて、通常の脳なら見えないものが見えてゐるのか、判断は微妙だと思ふ。ま、通常の脳に見えないものを“幻覚”と呼ぶのなら、それらは全て幻覚なのですが。
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