容疑者Xの献身 [読書・文学]
東野圭吾著『容疑者Xの献身』(文藝春秋)を読む。これは昨年のミステリー界の話題を独占した作品。なんと「このミス」と「週刊文春」のミステリーベスト10でどちらも1位に選ばれたのである。他にも、私はよく知らない有名なベスト10で1位をとつたやうで、三冠王! と騒がれてゐる。ふむ、そんなんなら一度読んでみたいなー、と考へてゐたら、テラリーが持つてゐたので借りて読んだのであつた。
なるほど。分かりました。やはり、といふ感じでした。話はなかなかよく出来てゐます。トリックも、いい。語りも上手いです。しかし、しかし、世界観が緩い!!! …うーん、やつぱ、かういふ作品が人気でるんですねー。いや、ま、そりゃ、私もそこそこ楽しみましたよ。でも、個人的には、世界観の緩い作品はどうにも評価できません。生ぬる〜い感じですね。
色んな書評を読むと、どうやらこの容疑者Xの“献身”が、その庇おうとする女性に対する凄まじい献身ぶりが、感動を呼んでゐるやうなのですが、これは納得できません。私に言はせれば、これはあまりに身勝手、独善的な献身であり、ハッキリ言つて気持ち悪い。相手のことなんて全く考へてゐません。自分の献身ぶりに酔つてゐるのではないか? とさへ思ひます。以下は少々ネタばれなので、まだ読んでゐない人は読まない方がよいと思ひますが、だから、私は話のラストが気持ち悪くて仕方がなかつた。これはジャッキーの映画『香港国際警察』のラストにも通じる気持ち悪さで、『香港〜』の方はそれでも思はず泣いてしまひましたが、こちらは「なんぢや、それ?」と白けてしまひました。“献身”の真の凄さに気がついた当の女性が、こんなつまらない私のためにここまでしてくれるなんて! と、感動と申し訳ない気持ちでいつぱいになる、といふのはあんまりな展開ではないでせうか。ここはやはり、それまでなんとなく申し訳なく思つてゐた女性が、“献身”の真の凄さに気がついた瞬間に「気色悪!」と叫び、猛烈な憤怒に駆られて容疑者Xに残酷な仕打ちをする、ついでに湯川探偵も一緒に叩き潰す! といふ風であるべきでせう。それなら、この作品は傑作となつたと思ひます。
あと、この容疑者Xは天才数学者といふ設定なのですが、全くさうは思へない。たまに数学の話とかも出てくるんですが、附け足しみたいでリアリティがない。ついでに、探偵の人も物理学者なんですが、これもあまりらしくない。天才数学者VS物理学者探偵、といふ魅惑的な設定なのですが、どうにもリアリティがなく、そこが残念でした。なんか文句ばつかりで申し訳ない。でも、面白いことは面白いので、時間潰しには最適です。
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