子狸俳句 [俳句]
次回の俳句チェンバーを、テラリーは欠席するといふ。なんでも卒論の提出がもうすぐなのださうだ。それなら仕方ない。が、もしなんなら、作つた句をとりあへず提出する、といふ形で参加してもいいよ。
「いえ、全く出来てゐないんです」
さうか。それなら、仕方がない。が、もしなんなら、私が代はりに作つて、子狸(テラリーの俳号)作として提出しておいてもいいけど。
「ええ? たとへばどんな句ですか?」
うーん、そんなん、たとへば、“卒論のさびしさに堪へ炭をつぐ”とか。あるひは“フロイトを読むやしぐるる河明かり”とかな。
「結構いいですね」
だろ? こんなん、いくらでも出来るぞ。えーと、“頭の中で白い冬野となつてゐる”とか。
「うーん、それは俳句らしくないですね」
何を言つてゐるんだ。これの元の句は名句とされてゐるんだぞ。高屋窓秋だ。
「へ? これ、もしかしてみんな元の句があるんですか」
当たり前ぢやないか。言葉ひとつ変へただけのパロディだよ。
「やめてください! そんなものをボクの句にするのは!」
いいぢやないか。子狸なんだし。化かしかたもこの程度、といふ事で。
「それなら、ちやんと自分で作ります!」
そんな事してゐる暇があつたら、卒論頑張れよ。
「……」
あ、また出来た。…“卒論書いてわたしも一人”。うん、これにしやう。
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