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2005年10月05日(Wed)

東京奇譚集 読書・文学

 村上春樹著『東京奇譚集(新潮社)を読む。『海辺のカフカ』以来、私の中では村上春樹の評価が上がり続けてゐるが、まァ、そこそこ面白かつた『アフターダーク』を経ての最新短編集であるこの作品。これがまた! とてつもなく面白い作品集であつた。特に冒頭の『偶然の旅人』と次の『ハナレイ・ベイ』、この2作品が凄い。最近日本で書かれた短編の中では最高峰ではないか、などと、他の作品などろくに読んでゐないのを棚にあげて考へたりするほどだ。

 しかし、つくづく思ふのだが、村上春樹は“分かつてゐる”人だ。俗物ではない、と言ひ換へても良い。たとへばこの作品集の中で『どこであれそれが見つかりそうな場所で』といふのがあるのだが、その中に“健康のための喫煙”といふ話が出てくる。かういつた話を、さりげなく書くところが“分かつて”ゐるのだ。禁煙ファシズム体制を長野でひいてゐる田中康夫のやうな“俗物”とはまるで違ふところだ。また、村上春樹は決して“ロハス”なんかに軽々しく乗つたりしないだらう。坂本龍一のやうな“俗物”とは違ふので。

“俗物”とは、『海辺のカフカ』の大島さん風に言ふと、「想像力を欠いた」人間のことだ。大島さんは言ふ。「想像力を欠いた狭量さ、非寛容さ。ひとり歩きするテーゼ、空疎な用語、簒奪された理想、硬直したシステム」「しかし想像力を欠いた狭量さや非寛容さは寄生虫と同じなんだ。宿主を変え、かたちを変えてどこまでもつづく。そこには救いがない。」その通りだらう。だからこそ、俗物どもは世に跋扈するのだ。しかしながら、本当に俗物どもが世の中を席巻しまくり、惨憺たるありさまを見せてゐる昨今の日本。そんな中で、この本にはささやかながら勇気づけられましたー。

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Comments

投稿者 はっさく : 2005年10月10日 01:13

私はケンタロウさんとは逆に、「海辺のカフカ〜アフターダーク」とここ最近の村上小説に距離を感じ続けていましたが、東京奇譚集では猛ダッシュで自分の中に村上春樹が戻って来てしまいました。「偶然の旅人」と「ハナレイ・ベイ」の素晴らしさには烈しく同意します。
日々ダラダラと面白い本、面白くない本を読んでいる中で、自分にぴたっとくるものに巡り会えるのは幸せなことですね。ここ最近では、保坂和志「季節の記憶」山本義隆「磁力と重力の発見」以来の幸せを感じました。

投稿者 オイシン : 2005年10月10日 01:35

「ハナレイ・ベイ」はかなりよかったです。サチのしゃべくりが最高でした。現在「日々移動する肝臓のかたちをした石」を読んでいます。

「海辺のカフカ」では分からなかったのですが(星野くんに感情移入しまくってたから)、これを読んでいると先日の日記の田辺聖子に似ているという話が良く分かる感じでした。人と人の距離感がいいですね。

投稿者 店主 : 2005年10月10日 06:33

>ハッサクさん
「東京奇譚集」は大丈夫でしたか!それは良かつたです。ッて、なんで私が安心するのか分かりませんが。
そんな事より、先日は本を読みながら道を歩いて来るハッサクさんを目撃して衝撃でした。巨大なヘッドフォンをしながら自転車に乗つて横を通り過ぎて行つたハッサクさんに遭遇して以来の衝撃でした。危ないですよ。

>オイシン
おお!早速「東京奇譚集」を読んでゐるとは。一昨日に勧めたばかりなのに、早いな。もしかして・・・・・・ヒマなん?

投稿者 oishin : 2005年10月10日 20:28

いやー、手帳を見るとものすごく忙しいはずなんですけどね。たまたま大型書店の横を通りすがったので、つい買ってしまいました。村上春樹は見つけるの簡単で助かります!

にしてもはっさくさん凄いですね…。

投稿者 はっさく : 2005年10月10日 22:12

あの時は確か、電車で読んでいた本をもうちょっとで読み終える所で、みっともないし危ないと知りつつ我慢出来ずについ歩き読みをしてしまいました。まさかケンタロウさんに見られるとは。
これからは知人に見つからないように気をつけます、ではなくて、歩き読みはやめます、はい。

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