キャロル [強制起訴シリーズ]
起訴者: マツヤマ
強制起訴シリーズ63弾
若き日のパトリシア・ハイスミスが匿名で出したレズビアン小説を、LGBT映画の第一人者(?)トッド・ヘインズが監督。
高級デパートの売り子をしていたテレーズ(ルーニー・マーラ)は、ある時、売り場で見かけたひとりの壮年の美女に目を奪われる。彼女の名はキャロル(ケイト・ブランシェット)。裕福な亭主と可愛い一人娘を持つ主婦であるキャロルは、実は同性愛者でもあった。ちょっとした切っ掛けで知り合った二人は、急速に接近していく・・・。
- ヤマネ
- あー、ボクはダメでしたー。うーん、あー。
- マツヤマ
- マジかよ。オレは極めて良かったぞ。極めて、な。
- 元店主
- 私も良かったですよ。とてもいい映画じゃないですか。
- ヤマネ
- そ、そうっすか?テレーズとキャロルの対比とか分かりやす過ぎるし、話も構造的に単純で、なんかつまんなくないですか?
- マツヤマ
- なに言ってんだよ!恋愛映画は単純なのが一番なんだよ。そこにどれだけの陰翳と装飾が付けられるかが勝負。その点、この映画は完璧だよ。突然の出会いに始まり、手紙、電話、ときて、二人きりで当てのない旅に出る・・・って完璧な展開だよ!恋愛系妄想爆裂!床に座って香水をつけあう所なんか、胸がキュンキュンしちゃったよ。
- ヤマネ
- そ、そうなんですか・・・いや、ボク、あんま恋愛映画には興味ないんで・・。でも、なんか全体に思わせぶり過ぎませんでした?
- マツヤマ
- かー!これだから恋愛映画に興味のない奴は!・・・ガラス越しの映像を多用するとか、セリフの入りそうな所も敢て音楽で表現するとか、特に手法としての新しさはないんだけど、使い方が絶妙でさ。手堅い演出だよ。この手堅さが、一見地味な恋愛話を支えてるんだよ。構図もいちいち良かったし、美しかった。音楽もドンはまりだったな。
- 元店主
- あ、音楽、良かったですねー。私もオールディーズの数々に聴き入ってしまいました。
- マツヤマ
- いや、挿入歌の方もいいんだけど、オレの言ってるのは劇伴の方ね。カーター・バーウェル。コーエン兄弟の音楽を全部やってる人だけど、凄く良かった。フェリーニ=ニノ・ロータ、トリュフォー=ドルリュー、グリーナウェイ=ナイマン、みたいな“聴く映画”を久々に体験できたよ。特にラストは最高だったな。
- ヤマネ
- いや、ボクも音楽とかいいと思いましたよ。ファッションもインテリアも、特にデパートの内装なんて最高と思いました。二人の心理描写を丁寧に撮ってるのも分かりましたし、まぁ、いちいち上手ですよね。でも・・・かと言って、別に面白くもなかったんですよね・・・。ボクの感性が錆び付いているのかな。
- マツヤマ
- ああ、その通りなんじゃない。ヤマネくん、感性が錆び付いてボロになってるんだよ。だからスターウォーズなんかで大騒ぎしてんじゃないの?
- ヤマネ
- な!・・・ボクはいいですけど、全世界のSWファンに失礼ですよ!SWファンは、幼い子供の瑞々しい感性を保っている希有な大人なんですからねー!
- マツヤマ
- なんだ、要するに精神的に未成熟なまま身体だけ歳とってる、という事だろ。
- ヤマネ
- な!な!
- 元店主
- まーまー。じゃあ、ヤマネくんは感性が未成熟で且つ錆び付いてボロになっている、というのは良いとして・・・
- ヤマネ
- よくなーい!なんじゃそりゃー!
- 元店主
- じゃあ、よくないとしても、そんな「面白くなかった」という消極的理由だけなの?開口一番「ダメでしたー」と叫ぶぐらいなんだから、なんか嫌な所とかあったんじゃないの?
- ヤマネ
- むむー、そうですねぇ・・・ボク、子供が可哀相な映画って、嫌いなんですよ。そこが、この映画の嫌な点ですかね。
- マツヤマ
- はぁ? 子供が可哀相って・・・これ、そんな映画じゃないだろ?
- ヤマネ
- そんな映画ですよ!キャロルと夫が離婚にあたって子供の親権を巡って争う話じゃないですか。子供が可哀相ですよ。まぁ、離婚に至るのは仕方ないですよ。だって、夫にしてみれば、あんな可愛い子供が居るのに嫁さんが浮気して、しかもその相手が同性って・・・そら嫌になるでしょー。
- マツヤマ
- ちょっと待った!別に夫はキャロルの事を嫌になっていないと思うぞ。むしろ凄く執着してただろ。
- ヤマネ
- ええー、それは自分の両親の手前、世間の手前、そんな振りをしてただけじゃないんですかー。親権とるには、ある程度の演技は必要だと思うし。
- マツヤマ
- いやいやいやいや、それは違う。むしろ夫の方は、子供の親権なんてどうでも良かったんじゃないの。親権をだしに使って、なんとかキャロルを自分の元に取り戻そうとしてただけだよ。彼の行動は、典型的な嫉妬に狂った男のものだったぜ。
- 元店主
- 私もそう思います。私が興味深かったのは、当時の男性のマッチョ振りがよく描けていたこと。キャロルの夫にしても、テレーズの恋人にしても、二人とも彼らなりに凄くキャロルやテレーズの事を愛しているんですよね。でも、彼らには女性に主体性を認めるという発想がない。女性が独自の意志や欲望を持つ、という考えが微塵もないもんだから、愛せば愛すほど抑圧的になってしまう・・・というのがよく描けてましたよね。
- ヤマネ
- ・・・むむむむ~、まー、言われてみれば、それはそうかも・・・。確かに、無自覚に抑圧的かもしれませんね、男性陣。それは・・・納得。でも、やっぱ、それでも子供が可哀相な事に変わりはありませんよ・・・。
- マツヤマ
- だからー!子供が可哀相、とかそういう映画じゃないだろ、これ!恋愛映画じゃん、しかもハッピーエンドの。あるいは、女性に抑圧的な時代に、女性たちが自らの主体性を肯定する話、で、どっちにしろ凄くハッピーな映画じゃん!なんでそんな正反対の感想を持つかなぁ。
- ヤマネ
- まぁ・・・ボクが狭量なだけかもしれませんね。それで素直にこの映画を観ることができない、と。
- 元店主
- はいはい。じゃー、ヤマネくんは感性が未成熟で且つ錆び付いていて、さらに狭量な人間である、というのはそれとして・・・
- ヤマネ
- こらー!勝手に変な決めつけすんなー!
- 元店主
- ・・・話題の女優陣はどうでした?ケイト・ブランシェットもルーニー・マーラもアカデミー候補にノミネートされてますが。
- ヤマネ
- ボクはルーニー・マーラのルックスが苦手なんですよ。あの表情も。だから、あんまり良さは分からなかった。あまりに受け身の存在すぎません?
- 元店主
- 確かに、彼女は一見すごく受け身だけど、それは若さのせいと、映画が彼女自身の視点から撮られている、という事情があると思うよ。よくみれば、要所要所では彼女こそがリードしてる。性行為に誘うのも彼女の方だし。
- マツヤマ
- そうなんだよな。口では「自分じゃ何も決められない」とか言ってるけど、実は革新的だし包容力もある。拳銃をゴミ箱に捨てるのも頼もしいし、最後、家具屋の売り子をしながら独り暮らしをするというキャロルを放っておけないだろぅ、と思ってたらやっぱり駆けつけて。最高のエンディングだったよ。
- 元店主
- ケイト・ブランシェットはまた、えらくカッコ良かったですね。
- マツヤマ
- 彼女は目線と手つきがいちいちエロティックで良かったよなー。ゴージャスで強引なんだけど、実はか弱くて、みんなが護ってやりたくなるタイプ。とても女性らしい女性だから、元カノのアビーはどこか旦那的で、そのアビーの手をとって自分の腰に回すとこなんか、演出上手いなぁ!と惚れ惚れしたよ。
- ヤマネ
- ケイト・ブランシェットは良かったですね。上手いし。でも、いっつもあんな演技じゃありません?
- マツヤマ
- そうかな?オレは今回でほんとやられた。テレーズにカメラをプレゼントする時なんか、足だぜ。足でプレゼントを押しやって渡すの。しびれたわ。
- ヤマネ
- ふー、お二人とも楽しそうでいいですねー。所詮、ボクの様な“感性が未熟で錆び付いていて、さらに狭量な人間”には、ハードルが高過ぎたんですよー。もっと幼稚な映画が観たかったですねー。ふんふーんだ。
- マツヤマ
- いやいや、ヤマネくん、諦めるのはまだ早い。そんなヤマネくんの感性を成熟させ、磨き上げ、さらに度量を拡げる方法があるぞ。
- ヤマネ
- へ?そんな方法があるんですか?
- マツヤマ
- おう。オレたちと寝るんだ。
- ヤマネ
- はい???
- マツヤマ
- 古来、男は男と寝る事によって一人前の大人になれたんだよ。現代の幼稚な子供大人の氾濫は、この風習がなくなった事に由来してると思うぞ。
- ヤマネ
- ・・・は、はは、マツヤマさんたら、冗談ばっかり・・・ねぇ、ケンタロウさんも何か言ってやって下さいよ。
- 元店主
- 古代ギリシャの少年愛というのも、年長者が自分の相手の年少者を責任を持って大人にする、というものだったらしいし。実はマツヤマさんと二人で、年少者のヤマネくんを何とかしなくてはならない、と前から相談していたんだよ。それが我々年長者の務めであろう、と。
- ヤマネ
- 年長者の務めって・・・あ、あ、あー!そろそろボク、時間があれなんで、帰らせて貰いま~す・・・。
- マツヤマ
- ダメだ!ちゃんとやる事やってからじゃないと!(ドン!!)
- 元店主
- そうだよヤマネくん!決められた事はちゃんとやらないとね!(ドン!)
- ヤマネ
- え、え、ええ~、なんなんすかー、決められた事って~(泣)、知りたくないけど~(泣)(泣)
- 元店主
- 3月の課題映画の発表だよ。ヤマネくんの番でしょ?
- ヤマネ
- !
- マツヤマ
- わはははは!実は期待してた?
- ヤマネ
- ・・・し、してる訳ないでしょ!・・・ふう、てへ。もー、焦った焦った。え~と、じゃあ、3月の課題映画は『マネーショート』にします。またしても、アカデミー関連のブツですが、役者陣も豪華ですしねー・・・てな訳で、みなさんまた次回!チャオ~~~・・・オ、オ、オ、ちょっと、と、オオオおおおォォおおお!!!!
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以下、略・・・・。
Comments
投稿者 uno : 2016年03月02日 22:58
こんばんは。
極めて良かったです。極めて。
マツヤマさんが熱く語り尽くしてるんで、何をコメントすりゃいいのか分からなくなってますが。。。
観ているうちにジワジワときて、終わってからよりジワジワきてます。観てから2週間以上経っているんですが、未だキャロルの香水の香りが鼻腔に残っている有様。
不思議なんですが、見ている時よりも思い出した時に、よりキュンとするんですよね。
キャロルがテレーズの肩に手を置く場面があったじゃないですか。あの優しい手の動き、いま思い出してもグッときます。映画を通して、二人の何気ない一つ一つの動きが、互いに繋がってるんですよね。
あと、二人の視線も印象的。冒頭、百貨店でテレーズがキャロルを見つめる場面に始まる、なんとも言えない憧れを含んだ視線。なんだかキュンとしてしまって。
テレーズがキャロルを観ている視線を、写真を使って表現しているのがまた良かった。ああ、テレーズはキャロルをこういう風に見てるんだなと。上手いなあ。で、写真がまたよくて。
テレーズが最初に撮った写真をキャロルが見て気に入る時の通じ合った感じもなんとも言えない。
ほんと素敵な作品でした。
もう一回、見に行こうかな。。。
投稿者 オーソン : 2016年03月03日 19:52
いい映画でした。映画を観たあと、映画と原作がどの位違うのか気になり読んでみました。ラストは原作とは違うような気がすると読む前は思っていたんですが、基本的には一緒だったので驚きです。1950年代の小説でこの結末を描いていたとは…。マッカーシズムの時代にですよ!
でも、原作と全く同じという訳ではなく、大きく改変されている点が2箇所ありました。1つ目は最初の百貨店でキャロルが選ぶ娘へのプレゼント。映画では鉄道のおもちゃでしたが、原作ではスーツケースと人形でした。テレーズが子どもの頃、鉄道模型が欲しかったという設定は映画での脚色です。百貨店で鉄道模型の傍にいるキャロルに見惚れてしまうシーン、いい脚色だと思いました。
で、2つ目はテレーズの目指している職業が、映画ではカメラマンだったのに対し、原作では舞台の大道具係でした。これもいい改変だなと思います。人物の写真を撮りたいと思わなかったテレーズがキャロルと出会い、キャロルを撮りたいと思う。テレーズが車のそばからツリーを購入しているキャロルを盗み撮りするシーン、良かったです。カメラがテレーズの性格描写を理解する上で非常に重要な小道具になっていると感じたので、これもいい脚色だったかと。
あと、キャロルの薬物治療の描写が原作にはなかったり、原作に登場するテレーズと百貨店のある同僚とのやりとりがまるごと省略されていたりしますが、この映画での原作の省略・脚色は見事だったと思います。
音楽も非常に良かったです。
投稿者 元店主 : 2016年03月06日 17:22
二人とも“カメラ”に注目してるけど、確かにこれは重要なポイントだよね。この映画は(マツヤマさんも語っている様に)手の動きと視線によって関係性が表現されているから。
基本、テレーズの主観寄りで映画は展開されていて、テレーズが見たキャロル、といった構成の映画になっている。だから彼女がカメラでキャロルを追いかけるのは映画の主題そのものだし、そのテレーズをまた我々が映画のスクリーン上に追いかける・・・といった事で我々をもその関係性の中に誘っている。むろん、そういった事を狙って監督は原作のテレーズの目指す職業を、舞台の大道具係からカメラマンに変えたんだろうし、トッド・ヘインズ、分かってるよね。
ラストの、自分を追いかけてきたテレーズに気がついたキャロルの表情がムチャクチャ印象的。あれが、この映画の肝だと、私は思うな。
投稿者 マツヤマ : 2016年03月07日 17:13
2人ともに好評だね。じゃぁ今度オパールで会ったときは、地べたに座ってキャロルを語ろう。オレが香水を担当するから(寒)。
ところで、アカデミー賞6部門ほどノミネートされて、ひとつも引っかからなかったんだなぁ。まぁどっちでもいいけど。
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