ラブ&マーシー [強制起訴シリーズ]
起訴者: マツヤマ
強制起訴シリーズ57弾
超人気グループ、ビーチボーイズの中心的メンバーであり、「ペットサウンズ」という歴史的名盤を実質ソロで作り上げ、これはあまり売れなかったものの、その直後に「グッドヴァイブレーション」という歴史的名曲を大ヒットさせた後に、精神的崩壊を起こし沈没。そのまま消えていくかと思いきや、90年代に奇跡の復活を遂げた・・・というドラマチックなミュージシャン人生故にカルト的な人気を誇るブライアン・ウィルソンを描いた作品。
60年代のブライアン・ウィルソンをポール・ダノが、80年代のをジョン・キューザックが演じるという、ちょっと変わった構成の映画です。
- ヤマネ
- んー、まぁまぁ、ですかねー。ボクはビーチボーイズにもブライアン・ウィルソンにもそこまで思い入れはないので・・・。お二人はどうですか?
- 元店主
- 私もそんなにない。そりゃ「ペットサウンズ」は聴いてるし、「ラブ&マーシー」の入ったブライアンのソロアルバムはリアルタイムで買ったけど・・・今回聴き直そうかと思って探したらなかったし。なくしたみたい。色々と興味深かったけど、映画としては“まぁまぁ”じゃない。
- マツヤマ
- オレはむしろ全くブライアン・ウィルソンには興味がないが・・・映画としては、色んな意味で良かったぞ。かなり楽しめたな。
- ヤマネ
- ほぅ、どんな所がですか?
- マツヤマ
- まづ、役者が良かった。ポール・ダノは相変わらずヘン顔でいい感じだし、ジョン・キューザックの病気っぷりも見事だった。
- 元店主
- この二人の配役は良かったですねー。こういった実在の人物を描いた作品は、誰がその役をやるのか、というのが大きいと思うのですが、この二人がそれぞれ60年代と80年代のブライアンをやる、と聞いた瞬間に、思わず「グッジョブ!」と叫んでしまいました。あと、私は個人的にヴァン・ダイク・パークスをやった人が良かった。ちょっと笑ってしまいました。あの微妙に情けない感じが・・・
- マツヤマ
- で、60年代は基本ドキュメンタリータッチですすむんだけど、80年代はドラマ風。登場人物も少ない。それらが交互に描かれるんだけど、そこに妙にショボイ幻想的な映像が挟まってくる。この感じ、この質感、なーんか観た覚えがある・・・と思って必死に考えたんだけど、思い出した。あれだよ、あれ、テレンス・マリックの「ツリー・オブ・ライフ」。
- ヤマネ
- ええー!似てますかー。ボクには分かりませんけどー。
- 元店主
- 私もよく分かりません・・・。なんか全然違う映画のような・・・。
- マツヤマ
- ところがさ、パンフレットを買ってみたら・・・なんと、この映画の監督、ビル・ポーラッドは「ツリー・オブ・ライフ」の制作をやってるんだな。オレもビックリしたよ。
- ヤマネ
- ええー・・・マジっすか。マツヤマさん、鋭いですね・・・。ボクはですねー、音楽映画だと思って行ったから、肩透かしをくったんです。全然、音楽映画じゃない。曲はちゃんと流れないし、あまり音楽の喜びがなかった。「ジャージーボーイズ」なんか、速攻でサントラ購入して聴きまくったのにー。
- 元店主
- 「ジャージーボーイズ」はミュージカル映画だからさ。でも、確かに今回のは音楽映画ではなかったね。音楽は添え物で、ブライアン・ウィルソンというミュージシャンのドラマを描くものになってる。私もそこはちょっと肩透かしだったかな。先日観た「ジェームス・ブラウン」がガッツリ音楽を聴かせてくれたからね。まぁ、その分あっちはドラマが薄かったけど。
- マツヤマ
- 確かにそうなんだけどさ、でもやっぱオレはこれは一種の音楽映画だと思う。それは、歌の訳詞がちゃんと字幕で出るから。オレはふだん洋楽って完全に音で聴いてるから、歌詞の内容とかほとんど分かってないんだ。それが分かるから・・・よく知ってる歌でも、へー、そういう意味だったのか!と発見があるし。楽しいよ。
- 元店主
- あ、それはそうですね。私も「God Only Knows」の歌詞ッてこんなんだったのかー、と非常に興味深く観ました。
- ヤマネ
- うん、ラストの「Wouldn't It Be Nice」から「Love&Mercy」の流れッて、あれ歌詞の内容が分かるのとそうでないのとでは、印象の強度が違うでしょうね。どちらも、映画の内容とバッチリあっててグッときますもんね。
- マツヤマ
- それとか「Good Vibrations」は映画「ヴァニラスカイ」のラストでも流れるんだが、歌詞の内容を知ると、あらためてあの映画のブラックさが身にしみるというか。
- ヤマネ
- でもそう考えると、我々は外国の音楽や映画を、どこまで理解してるんやー、ってな感じになりますね。そもそも字幕や訳詞がどこまで正しいのか、いっつも悩んでしまう・・・。
- 元店主
- まぁ、そうなんだけどさ、誤解や勘違いを含んだ創造的解釈が文化伝達の醍醐味、という考えもある訳で・・・。そもそも日本人同士の日本語によるコミュニケーションでも、まったく通じてない場合も多いでしょ。ある程度の齟齬は仕方ないよ。
- ヤマネ
- それはそうと、60年代の雰囲気、よく出てると思いませんでした?ファッションとかインテリアとか容姿とか踊りとか・・・凄くいい感じ!
- 元店主
- 最近の映画ではよく思うんだけど、ほんとみんな過去の時代の映像化って上手になったよね。昔はもうちょっと「ここ変では?」と思う所があった気がするけど、最近のはほんとリアル。
- マツヤマ
- 実はオレはそれにはちょっと一言あって・・・、確かに再現は上手いんだけどさ、あれって・・・昔のフィルムの焼き直しみたいなもんじゃないの?オレは「ジェームスブラウン」が凄い良くて、だから見終わった後に興奮して色々とYOU TUBEで昔のJBの映像を漁ってたんだ。そしたら・・・映画とそっくりな映像が次々と出て来て。なんかシラケたんだよな。まぁ、この映画については調べた訳じゃないけど、なんか不信感がある。
- 元店主
- なるほど。それは確かに・・・まぁ、制作側としては、一種の引用みたいな気持ちじゃないですかねぇ。技術がそれだけ発展してる訳だし。
- マツヤマ
- それはそうかもしれないが、オレとしては、自らの想像力で全く新たな映像を創って欲しい訳だよ。すでにある映像を、なぞるんじゃなくてさ。それが映画の醍醐味だと思う。
- 元店主
- ふーむ、難しいですねぇ。確かにありきたりで凡庸なイメージを使った映画はダメだと思いますが、この場合はそうとも言えない。でも・・・上手い!とは思うものの、そこまで心にズシッとこないのは、やっぱ既成の映像に頼ってるからなのかな・・・って、別にこの映画がそうなのかどうかは分からないんだった。
- ヤマネ
- ビミョーですねー。マツヤマさんが言いたい事はよく分かりますけど・・・。たとえ既成の映像をなぞっても、そこまで知られてない映像ならいいような気もしますし、それを隠し味に使う程度ならいいんではないか、とも。ふむ。とにかく、ボクは80年代の再現にも興奮しました。ジョン・キューザックの寝てるベッドのヘッドボードのレリーフがえらい豪華で眼を奪われましたし、海辺の別荘の窓辺のサイドソファーの手仕事の美しさとか、ピアノもいいし・・・なんかそんなのが凄く気になってストーリーに集中できない感じー。
- 元店主
- 私はメリンダのファッションに眼を奪われたよ。へ、変!とか思って。
- ヤマネ
- ボクはメリンダの住んでるアパートですね。一軒ごとの入り口が画一的に並んでるのではなく、非常に独特の配置になってる。部屋ごとの間取りがダイナミックに異なっているんだろうと読み取れ、とても興味深い。アメリカの集合住宅って、たまに面白いのあるんですよねー。
- マツヤマ
- にしても、医師のユージン・ランディに支配されてるブライアンが可哀相で、可哀相で・・・オレはけっこうキツかったよ。
- 元店主
- 私もああやって様子を見せられると、こらこっから逃げ出すのムリやな、無限地獄、と思いました。だからメリンダの存在が大きいですよねー。ああいう人がブライアンの前に現れたのは、ほんと奇跡だと思います。私はメリンダの存在とか知らなかったので、実はそこが一番興味深かったんです。ああ、こんな事情だったのか・・・と。やはり、誰かの助けが必要なんですよ。
- ヤマネ
- ボクもほんと良かったと思いました。でも・・・ちょっとユージン・ランディの描き方がペラくなかったですか?もうちっと魅力的に描いた方が、悪の深みが出たと思うんですが、あれじゃ単なるムチャクチャな奴ですよ。
- マツヤマ
- わかるが、実際にああいった奴だったんじゃないか?居るよ、ああいった奴。カネを得るのが一番大事で、そのためにはどんな卑劣な手でも辞さない、という奴ね。そんな奴はペラいよ。
- ヤマネ
- ふーむ、ブライアンとメリンダに捧げた公認の映画、という性質上、ユージンの事を必要以上に悪く描いてるんじゃないかと勘繰ったんですが・・・まぁ、いいか。で、ラスト、ブライアンとメリンダが、昔のブライアンの家の所に行ったら、すでに家は取り壊されていて、道路の行き止まりになっていて、そこに立て札で「END」と書いてあるのが、すごーく寂しい気持ちになりました。
- 元店主
- でも、そこで一転して二人がこれからの話を始めて、そこに「Wouldn't It Be Nice」が被さってきて、明るい雰囲気になる・・・というのは、分かりやすく“死と再生”(過去との決別&再出発)を表していて、まぁ、ベタだけどいい終わりなんじゃない、と思ったけど。
- ヤマネ
- ああ、なるほど。あれはそういった意味ですか、ふむ・・・なんかこの映画、断片断片のイメージはけっこう秀逸なんですけど、それが繋がり切っていない、というか、全体のイメージが掴みにくいですね。そこらはどうですか?
- マツヤマ
- だから、それが「ツリー・オブ・ライフ」なんだよ!
- ヤマネ
- そうきますかー・・・まぁ、ここらで今月は終わりにして。と、来月の映画はボクが選ぶんでしたっけ。・・・んー、じゃぁ、「ヴィンセントが教えてくれたこと」にします!
- 元店主
- んん?なにその映画。そんな映画あんの?・・・って、これか。おお、ビル・マーレー主演!
- ヤマネ
- はーい、ではまた来月!
Comments
投稿者 uno : 2015年08月26日 00:49
こんばんは。
めちゃくちゃグッとくる場面があったんですが、全体として辛い場面が多すぎて。。。
で、いきなりですが、まずはグッとくる場面ベスト3。
①ペットサウンズ録音時、スタジオの外でブライアンが車のボンネットに寝そべってタバコを吸っているところに、ドラマーのハル・ブレインが現れて、「俺はサム・クック、エルヴィス、フィル・スペクターと一緒にセッションをしてきたけど、君がダントツだ」って言ったところ。ハル・ブレインにそこまで言わせるブライアンのスタジオでの想像力、工夫に感動した。
②グッドヴァイブレーションのメロディーが出来上がる瞬間。マイク・ラヴとの確執の中(映画の中ではマイク・ラヴが一方的に怒っていて、ブライアンはただ悲しそうだったけど)、ブライアンがピアノでメロディを奏でつつ「何かが足りない」と言ったところに、マイク・ラヴがメロディを歌い出した時に、ブライアンの純粋さとマイク・ラヴへの音楽的な信頼を感じた。映画を見るにつけブライアンは何故ソロにならないんだろう。。。と不思議に感じてたんですが、メンバーの絆は強かった。
③ラストでブライアンとメリンダが、ブライアンの生家があった場所に行ったけど家はもうなかった、ってとこで流れる「Wouldn't It Be Nice」。名曲の力って凄い。邦題の通り「素敵じゃないか」なエンディングに思わず涙が。。。
とかなりグッときた場面があるにもかかわらず、全体としては見てるのが辛かった。
ベッドに横になる60年代のブライアンと80年代のブライアンが行き来する場面があったと思うんですけど、その場面を見るにつけブライアンは80年代までずっと時が止まったように苦しみ続けていたんだな、と思い辛かった。
物語の中心の一つはメリンダとの出会いによるブライアンの再生だとは思うんですが、もっとワクワクするような音楽的なエピソードを見たかったのが音楽ファンとしての気持ちです。
最後に、父親が楽曲の権利を売り飛ばしたことを伝えられた場面のブライアンが一番悲しそうに見えました。
投稿者 元店主 : 2015年08月27日 03:07
うのぴへ
もしかして、うのぴはブライアン・ウィルソンのファン?
私は別にファンでもないので、ハル・ブレインのセリフに対しては「言い過ぎやろ」と内心突っ込んでいたよ。まぁ、ブライアンを励ますためのお世辞なんだろな、ぐらいにしか思わなかった。実際はどうなのか分からないけど。
ちょっと思ってたんだけど、この映画は「ブライアン・ウィルソンは呪われた天才である(その事はみんな知ってるよね)」という事を前提にし過ぎているんじゃないかなぁ。その事の当否はどうあれ、あまりブライアン・ウィルソンの事を知らない人にはよく分からないんじゃないか、この映画?と疑問に思ったんだけど。知らない人がみて、この映画のブライアンのこと、凄い天才だ!とか思うかなぁ。
ここはひとつ、ブライアン・ウィルソンもビーチボーイズもよく知らないと言うオーソンの意見をきいてみたいものだ。
投稿者 uno : 2015年08月27日 23:26
元店主さん
まるでファンのようなコメントを書いておいてなんですが、私はブライアン・ウィルソンのファンではないです。
ハル・ブレインに関しても凄い!とういのを刷り込まれていて(主に山下達郎、萩原健太のラジオ)つい反応してしまうという。でもロネッツの”Be My Baby”のドラムってだけでも凄いからなあ。で、映画でのブライアンに対するハル・ブレインのコメントは本気だったんじゃないかな、と思うんです。色んな録音のアイデアに溢れていて挑戦的な音作りをしていましたから。そこは素直に見ました。
私もペットサウンズを聴いたことがないと、この映画の面白味は弱いんじゃないかと思います。ブライアンの天才的な部分を描くにしても、音楽自体よりもペットサウンズ前後の音楽的エピソードがメインでしたから。訳わからないですよね。ハル・ブレインって誰?って。
音楽ファンってエピソードが好きなんですよねえ。
投稿者 オーソン : 2015年08月30日 14:40
ビーチ・ボーイズもブライアン・ウィルソンも全然知らず、曲も何曲か聴いたことあるけど、タイトルも知りません。こんな立ち位置から、この映画の感想を。
「父親からの承認不足から精神的に不安定なブライアンは音楽家としての名声を得ることで埋め合わせをしようとするが、精神的に追い詰められ、病んでしまう。そして、この状態を救い出したのは、とある女性の献身的な愛情だった。」という要約でこの映画を捉えています。
なので、映画を観ている時、ブライアンが天才的な音楽家だったのかどうか、よくわからないと思いながら観ていました。認められたい、という欲求はすごい強いと感じましたが。なので、元店主さん、うのぴさんが言及している「君がイチバン」と言われたシーンは、承認欲求を満足させてくれたシーン、今後歴史に残る音楽を作るという欲望を増幅させていくためのシーンと受け取っていました。
でも、このように音楽的素養がなく、出てきた人物のバックストーリーを知らなくても、それなりに楽しめましたよ。
楽しめた要因はとにかくポール・ダノの存在です。ジョン・キューザックもよかったけど、ポール・ダノを長時間大画面で観ることができたのが良かったです。演技はもちろん良かったんですが、生気のない目つきとあのお腹のでっぷり感がいいです。まだ若いのに、あのたるんだ中年腹をだせるのは素晴らしいかと。ビル・マーレイや故フィリップ・シーモア・ホフマンのお腹を想起しました。将来、いい中年俳優になりそう。
投稿者 Anonymous : 2015年09月01日 12:14
上記までのコメントへの感想です。
「ブライアンがいろんな録音のアイデアに溢れていた」かというと、オレは映画を見る限りでは、ちょっと奇をてらっているようにしか思えなくて、すごく才能があるとは思えなかったなぁ。ただ、そこが嫌というわけではない。それは単に「音楽家としての名声を得ることで」というものではなく、逆に売れればいいというだけで自分と趣味の合わないものを作ることへの拒絶であり、また、父親からの支配や保守的なメンバーからの解放を求めていたことが表面に出たのではないかと思う。また逆に、支配からの糸が切れた状態(不安定)から、被支配者としての“安定”へと自らはまり込んで行ったのが80年代のパートだと思う。勝手にハンバーガーを食べたのも、怒ってもらうためにわざとやっていたのかな、と。だから「献身的な愛情により」救い出されたというより、ある意味、メリンダが新たな支配者になってくれる(ここには共感できる既婚者男性も多いかと思うが)と確信が持てたことで宿替えしたとさえ思ってしまう。暴力的ではないもので自分を導いてくれる=愛と慈悲=真の支配(?)に身を委ねたのだろうと思う。
結論としてブライアンは「音楽家としての名声を得ることで埋め合わせをしようとする」人ではなく、これもオーソンが言っている「認められたい、という欲求はすごい強いと感じ」るのは支配者である父やメンバー(も家族と言っている)など身近な者に対する欲求だと思う。そうでなければ、さっさとソロになるだろうね。
さて、オーソン。もうちょっと映画を自分中心に観て、勝手なことを書いてもいいと思うんだけど、やっぱり怖いのかな?
認められたい=否定されたくない=という欲求がすごく強いように思える、というのが間違えでなければ、ブライアンやこの映画に共感できる部分がもっとあるんじゃない? ポール・ダノ以外に楽しめたことを、もっと知りたいなぁ。
投稿者 マツヤマ : 2015年09月01日 12:15
↑のコメント
マツヤマでした。
コメントしてください