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2015年09月09日(Wed)

サテライト・オペレーション []

さて、先日(2015年8月20日)行われた「ババさん映画祭」について、その様子は日記の方に記したので、ここではそこで上映された作品について述べようかと思います。多分、ほとんどの人がこの先も観る事がないであろう作品なので、粗筋もネタバレも含めてのレビューです。

1980年の作品。記念すべきババさん映画第一弾!そして、N田さんにとっても、自らの映画製作の原点となる作品です(ちなみに、N田さんは現在は映画製作・配給のお仕事をされています)。

脚本・監督・編集がババさん。ババさんは出演もしています。製作総指揮・撮影・編集がN田さん。嵯峨野高校2年2組作品。15分。

まず、映画は高校の授業が終わる所から始まります。・・・と、ここで思い出して欲しいのは、この作品は高校生が文化祭のために創ったものである、ということです。舞台は自分たちの高校。つまり、授業の終わり=放課後の始まりから映画が始まるという事は、抑圧的な授業時間が終わり、自由と創造力が解放される放課後という時間の始まりと、映画の始まりが重ねられている、ということになります。続いて、教室に残った仲間が“今度の文化祭でどんな映画を創るか”という相談をしているので、そのメタな構造ははっきりしているでしょう。というか、この作品は全編、メタ意識に貫かれているのですが・・・その事の意味は後で問うことにします。

さて、大事にしていたギターを壊され、意気消沈しているタカハシくん(確か、タカハシだった。ナカハシだったかな?)。彼をなぐさめつつも、今度の文化祭でやる映画の相談をするババさんたち。どんな映画にする?パラレルワールドもんなんかどうや、とババさん。自分たちとそっくり同じ顔をした人間たちが、同じ様にして住んでいる、でもこことは微妙に違った世界が宇宙のどこかにあって・・・。いや、そんな事よりタカハシくん、大学行かへんってほんま?どうすんの?・・・まぁ、・・・ところで**のやつ、どこ行ったんや、オレちょっと探してくるわ・・・。

と、廊下に出ると、そこには**と友人が、水をいっぱい入れたバケツをかかえ、今しも窓の外にぶちまけようとしていた。どうやら窓の下に居るメガネくんに、なんらかの復讐をしようとしている様なのだ。事情がわからず、「おい、何してんねん」と**の肩を叩くと、あ!・・・お約束通り、バケツは水を入れたまま落下。メガネくんの頭を直撃したのであった。

やばい・・・『キャリー』じゃないけど、死んだかも・・・と、慌てて下に降りたら・・・あれ?居ない。どこに行ったんやろ。

その頃、メガネくんは校庭内を彷徨っていた。割れた頭から青い血を吹き出しながら・・・。

このメガネくんの彷徨シーンは高い所からの俯瞰となっています。この映画、割と俯瞰が多い。それは多分、屋上とか高い所から撮ったと思われますが、それは生徒たちにとって放課後の視点。或は、授業中に授業を無視して窓から外を眺める視点です。普通、俯瞰の映像は語られている物語を相対化する作用があるものですが、この場合はむしろ“自由”の感覚、放課後的自由の感覚を表現している様に思えます。

ついでに映像の事を述べると、この作品には如何にも映画!的なショットがたくさんあって、微笑ましい。映画の好きな青年たちが、「映画」を創りたい!という気持ちで創ったのがビンビン伝わってくるからです。N田さんによると、ババさんはヒッチコックばりに全てのシーンの絵コンテを書いたとのこと。後に京都芸大に進んだババさんの書いた絵コンテは素晴らしかった、らしいのですが、いかんせん撮影の能力不足でそれを完璧に再現する事はできなかった。またN田さん独自の判断で変えた所もある。その事を後々までババさんに文句を言われた・・・との事です。なーるほど。

話に戻ると、メガネくんは出会った女生徒を襲いながら校内を彷徨います。女生徒の悲鳴を聞きつけたババさんたちは急いでそこに駆け付け、襲われた女生徒から事情を聴き、メガネくんを探しに行きます。点々と落ちた青い血の痕を追っていくと・・・そこには青い血塗れで虫の息のメガネくんが!

「どないしたんや!しっかりせえ!」

「・・・もう、あかん・・・お迎えがきたんや・・・」

「そんな気の弱いこと言うなやー」(←あまりに白々しいババさんのセリフ廻しに、観客席から爆笑が起きました)

と、そこに・・・

「あ、あれは!」と空を指差す女生徒。なんと空からはUFOが!・・・って、でもUFOの姿は映らず、UFOからの主観ショットのみなのですが、誰がみたってこれはUFOが来たと分かる。となれば青い血のメガネくんは宇宙人!すると、お迎えに来たのも宇宙人。そう、まさに、白いヘルメットを被り、サングラスをした宇宙人がそこに登場。

「セワヲヤカセヤガッテ」と、瓶に口をつけて響かせた様な声で喋る宇宙人。メガネくんの頭をちょちょいと弄ります。

「な、なんやお前、メガネになにしてん!」

「そ、そうや、こんなやつ、いてまえ!」

勇敢なんだかヤケクソなんだか分からないババさんが、宇宙人に襲いかかります。二人でもみ合っているうちに、宇宙人のサングラスがとれた。と・・・な、なんと宇宙人はタカハシくんそっくりの顔をしているではないですか!

驚愕するババさんを打ち倒し、宇宙人タカハシは、すっかり回復したメガネくんに謎の装置を渡し、「コレデキオクケシトケヤ」と命令。メガネくんが謎の装置を弄ると・・・キーン!と音がして校内に居た全員の記憶が抹消。故に、襲われた女生徒を介抱していた先生はあらぬ疑いをかけられ、「なにすんねや!」とその女生徒に平手打ち!正に生徒の夢を叶えた瞬間と言えるでしょう。

さて、記憶が抹消される寸前。宇宙人タカハシと地球人タカハシは会話をします。

「ダイガクニイケ」

「なんでやねん!」

「サテライト・オペレーション」

「なんやそれ!何のために大学なんか行かなあかんねん」

「セイジヲスルタメ」

「なんでや!オレは大学なんか行きとーない!」

「オマエニジュンビサセル」

「なんでオレやねん!」

「エラバレタノダ」

「なんでや!!!」

「エラバレタノダ」

「いやや!オレはいやや!」

「デハ、21ネンゴニ」

そういって、宇宙人タカハシは地球人タカハシの記憶を消し、メガネくんにタカハシくんの監視と管理を改めて命じ、宇宙の彼方に戻っていったのであった・・・。

ラストシークエンス。ババさんたち男女6〜7名が、校舎の角を曲がってみんなでブラブラと歩いて来て、校門を抜けます。ここら、如何にも70年代的でいい感じ。

校門を抜けた所で、タカハシくんが「おれ、先に帰るわ」と、みんなから別れて走り出します。

「どこいくねん?」

「ギターみにいくわ!」

壊されたギターの代わりの新しいギターを買うため、タカハシくんは笑顔で走り去っていくのでした。それを、苦々しい表情で見送るメガネくんのアップがあって・・・完!

やー、面白かった。予想外に、と言っては失礼ですが、とても楽しめました。ここではストーリーを単線的に語りましたが、実は映画内ではもう少し複雑で、いくつかの事件が同時に進行し、語られます。それがぎこちないながらもテンポを作り出していますし、あとは走るシーンが結構あって、これがまたぎこちないながらもアクションを作り出している。故に、ありがちで単純なストーリーかもしれませんが、それを楽しめるものにしていると思われます。要するに、ちゃんと映画になってるんだなー。“ぎこちなさ”なんて、高校生の自主制作映画の魅力みたいなもんだし。(「朝比奈みくるの冒険」を参照)

映画の最初と最後に学校の正面が映って、それぞれその前を電車が通過するシーンがあるのですが、最初のは電車が画面左から右へ、最後のは右から左へと走って、これが一種の幕開き/幕引きの役割を果たしている所なんか、なかなかのセンスだと思います。

また、ストーリーもありがちで単純だと書きましたが・・・これもなかなかに興味深い、とも言える。冒頭に、この作品はメタ意識に貫かれている、と書きましたが、それがありがちな青年の客気に留まらず、ちゃんと作品の主題とも響き合っていると思われるからです。

つまり、メタ意識とは、今ある状況/世界を外から(上から)みて意識することですが、これが「サテライト・オペレーション」という、外から自分たちの人生が監視・誘導されている、という主題と絡んでいる、という事です。

高校生は、これからの人生をどうするか、という事で悩む時期です。自分の好きなことをやり続けるのか、それともそれでは喰っていけないので大学行って就職するのか。自分には色々な可能性があると思っていたけれど、案外その可能性は幻みたいなものだった・・・と気付き始めるのも、高校時代。が、本当にそうか。我々はどこか外から体よく管理・誘導されているだけではないのか。現代でも、デモに参加したらまともな就職はできなくなるぞ、とか脅かす大人が居ますが、あれもサテライト・オペレーションじゃないのか。もしそうなら、如何にしてそこから脱出するのか。

この作品では、とりあえずその作品世界を徹底して学校内に押し込めることによって、最後にそこから“出る”ことによってそれの回答とします。タカハシくんは、校門の外に“出た”瞬間、笑顔になってギターを買いに行くのです。

なんだ、“出る”って言ったって、ただ単に学校から帰るだけやん。と思われる方も居るでしょう。まぁ、確かに、意識的な努力や葛藤を伴わず“出て”しまった所がこの作品の弱い所だと思います。監視・誘導役のメガネくんと、もうひと絡みあれば良かったのですが・・・それを言うのは贅沢かな。

次回はもう一本のババさん映画「ホムルンクス」です。

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