イミテーションゲーム [強制起訴シリーズ]
起訴者: ヤマネ
強制起訴シリーズ52弾
コンピュータの基礎を作ったと言われる天才科学者アラン・チューリング。実は彼は第二次世界大戦時に、難攻不落と言われたドイツの暗号「エニグマ」を解読し、連合国の勝利に大きく貢献したという暗号解読者としての顔もあるのだった・・・。チューリングを演じるのは、今の英国男子ブームの立役者ベネディクト・カンバーバッチ。実話に基づいたアカデミー脚色賞受賞作!
- ヤマネ
- ううう〜ん・・・ビミョー。ビミョーだったなぁ、決して悪い映画ではないんだろうけど・・・ううーん。
- マツヤマ
- まぁ、分かるけどな、その感覚。でも、オレはまぁまぁ面白かった、という評価かな。ケンタロウさんは?
- 元店主
- 私は、前回の「フォックスキャッチャー」よりは面白かった、といった感じです。
- ヤマネ
- ないものねだりとは分かってるんですけど・・・エニグマやチューリングの映画なのに、科学的好奇心が全く刺激されない、というのが・・・結局、人間ドラマなんだもん。
- マツヤマ
- 確かに暗号の解読方法や暗号解読マシーン「ボンブ」に関する説明はほとんどなかったな。まぁ、説明されても理解できない自信はあるけどな、オレは。
- ヤマネ
- 変な自信を持たないで下さいよー。でも、あのヒューがボンブの配線を斜めに繋ぎ変えた事によって解析スピードが飛躍的に上がるとことか、数学の群論の知識がないと理解できないそうですよ。ボクもちょっと自信ないな・・・でも、数学好きだし、もうちょっと説明が欲しかった!
- マツヤマ
- オレは数学なんて犬にでも喰われろ!って感じだが、ボンブのルックスにはしびれたよ。モジュールシンセとか思い出して、やっぱアナログ時代のマシーンはカッコいいよな。色目とかデザインとか。
- ヤマネ
- そうですよねー。あの配線の具合とか、ガチャガチャとローターが回ってる感じとか、カッコいいー。ボクもボンブにはやられました!・・・で、マツヤマさんはどこらが良かったんですか?やっぱ同性愛?
- マツヤマ
- 違うよ!なんていうか、全体に暗めで深い色合いだったとことか、出ている役者の顔とかが凄くイギリス的で、そこが良かったんだよ。オレは結構、イギリス映画好きなんだよな。
- 元店主
- 「モーリス」とか「アナザーカントリー」とかですね、ジャッド。
- マツヤマ
- ジャッドって呼ぶな!それはオレの黒歴史だ・・・。
- 元店主
- 私はカンバーバッチ、通称カンババはいいと思いました。まぁ、絶大な人気を誇っているのは知っていたんですが、写真で観るかぎり、なんでそんなに人気があるのか、いまいちピンとこなかったんです。でもこの映画を観ると・・・上手い。変人振りがハンパなく嵌ってる。これは人気でるわ、と納得できました。
- ヤマネ
- カンババは良かったですねー。眼の動きや顔の表情で、完璧に変人/天才を表現できてる。はっきり言って彼ひとりで保ってる映画じゃないですか、これ。周りの役者も悪くはなかったんですけど、カンババの前では霞んじゃって。
- マツヤマ
- オレもそう思う。でも、そこが物足りないとこでもあるんだ。なんだかカンババのアイドル映画みたいになってて。ヒューとかあれだけイケメンなんだし、もっとフューチャーしても良かったんじゃないか。カンババとの間に一瞬でも何かあっても良かったと思うし。
- ヤマネ
- なるほど、マツヤマさんはヒューが好み、と。
- マツヤマ
- 別にそういう訳じゃないよ!それに、好みなんて誰にでもあるだろ。意味ありげに言うなよ!・・・そんな事より、オレはチューリング(カンババ)の描き方で、どうにもしっくり来ない感じがあったんだ。彼がアスペルガーだというのは、簡単に仲間の首を切ったり、協調性が極端になかったり、「オレたちはランチに行くけど」という言葉を額面通りに受け取って自分も誘われている事が分からなかったりと、うまく描けていたと思う。でも、そんな反面、ジョーン(女性)との間に親密なものがある様に描いたり、国の運命に凄く興味がある様な雰囲気を漂わせたりと、なんか中途半端に感じた。チューリングは結局エニグマの謎を解くことだけに興味があったんじゃないの?
- 元店主
- うーん、そこらは難しい所で。アスペルガーって症候群であり、実態としては様々なタイプと程度があるらしいんです。むろん、共感能力が低い・・・という大体の共通点はあるらしいですが、それにも色々ある。だから、他人と損得抜きの親密な関係を多少とも築けるタイプはあるだろうし、またその様に見せかけて他人を操ることができるタイプもあるらしい。案外、優れた政治家や経営者にアスペルガーが居る、との報告もあります。
- ヤマネ
- まさにそれこそ“イミテーションゲーム”ですよね。他人に共感してると思わせるゲーム。チューリングが考え出した、機械と人間を判別するテスト、の事なんですが、チューリング自身が周りの人間に対してそれを行っていた、と考える事もできますね。
- 元店主
- そこらを突っ込んで、うまく描けばもっと面白くなったと思うけど・・・所詮、分かりやすい人間ドラマだったね。
- ヤマネ
- 天才を理解するのは難しい。でも、天才の人間的な悩みなら理解できるかも・・・と、一般の人は思うのかもしれませんね。それで安心するとか。なんにせよ、マツヤマさん的にはジョーンとの友情なんて要らん、と。もっとカンババの同性愛的側面を描け!という意見ですね!ビシ!
- マツヤマ
- 違うよ!どーしてそうねじ曲げるかなぁ。・・・あとオレのお気に入りのエピソードは、カンババがみんなと仲良くなろうと思って、りんごを配るところ。あのリンゴは、後年の自殺を暗示してるのかもしれないけれど(チューリングは毒リンゴを齧って自殺したと言われている)、りんごって“禁断の果実”だろ。それをみんなに配って、それを受け取ったみんなが戸惑ってるとことか・・・、ププッ、笑ったな。
- ヤマネ
- あー、やっぱりマツヤマさんは、そういうところに反応するんですねぇ。
- マツヤマ
- どういう事だよ!普通に面白いだろ!
- 元店主
- 私は、この映画の立ってる前提に少し気持ちの悪いものを感じたんです。それは・・・敵のナチスを絶対悪として描き、その悪を倒すためならなんでも正当化される、という前提です。結局彼らはエニグマを解読する訳ですが、その事がばれない様に解読できてないフリをするんですよね。つまり、自国の兵士たちをみんなドイツの奇襲作戦から救ってたら、エニグマを解読した事がばれるので、ある程度の兵士は見殺しにする。で、本当に重大な所で、かつバレない様に仕掛けをして、相手の裏をかく、という方法をとった訳じゃないですか。そのおかげで戦争の終結が2年も早まり、何十万人もの命が救われた・・・と主張する訳ですが、それはその通りかもしれないけれど、そうではないかもしれない。そんな簡単に正当化できるのか?と疑問に思います。
- マツヤマ
- 確か原爆投下も似たような理論で正当化されてるよな。あれによって戦争終結が早まって、結果としてたくさんの人命が救われた、と。勝手な言い草だよな。
- 元店主
- ええ。私はノイマンとか思い出したんですよ。ノイマンも、天才科学者だったかもしれませんが、彼は予防戦争の熱烈な支持者でしたよね。つまり、アメリカが核爆弾を持った時点で、この先に他の国が核爆弾を開発したら睨み合い→核兵器競争で無際限に増える→世界破滅!となるから、今のうちにソ連とか核兵器を持ちそうな国には核爆弾をぶち込んで壊滅させておくべきだ、という理屈。これなんか、まぁ、一見正しそうですが、今の時点から見たら間違いだった、と言えると思うんです。似たようなもんじゃないかなぁ。
- ヤマネ
- 戦争をゲームの理論でやる恐さですよね。でも、これからどんどんそんな世の中になっていくと思います。
- マツヤマ
- そうなんだよ!権力者どもは、自国民をこんだけ犠牲にして、これだけの勝利を得る・・・という事を冷静に計算してるからな。集団的自衛権なんてその最たるもの。絶対許せん!・・・・・・とまぁ、型通りに熱くなってみたが、オレは実はこの映画のラストで泣いちゃったんだよな。チューリングが暗号解読マシーン「ボンブ」の事を「クリストファー」と、自分の初恋の相手の名前で呼びながら、ボクからクリストファーを取り上げないで!と涙ぐむ所な、あれはもう、たまらないよ・・・。
- ヤマネ
- うんうん、わかる。わかりますよ、マツヤマさんがそう思うの。
- マツヤマ
- ・・・なんか、ヤマネくんに言われると、また変な誤解を受けてるような・・・。とりあえず、来月の課題映画を聞こうか。
- 元店主
- はい。4月の課題映画は「マジック・イン・ムーンライト」です。ウッディ・アレンの新作。まぁ、「ミッドナイト・イン・パリ」は良かったものの、基本私はそれほどウッディ・アレンは好きじゃないんで。でも高齢で、ここまでハイペースで映画を撮ってるのって、イーストウッドに張るでしょう。そんなこんなで。
- ヤマネ
- あ!マツヤマさん、この映画、主演がコリン・ファースですよ!「アナカン」のジャッドじゃないですか!またしてもマツヤマさん向き!
- マツヤマ
- オレ、もう辞めようかな、この鼎談・・・。
- ヤマネ
- まぁまぁ、そんな事を言わないで!では、また来月!
Comments
投稿者 uno : 2015年03月29日 19:22
こんばんは。
面白かったです。
2時間に内容を詰め込みすぎてせわしなかったですが。
クリストファー(ボンプ)が「ギッ、ギッ、ギッ、ギッ。。。」と回るのを見て、一休さんの「ポクポクポクポク。。。チーン!」みたいで可愛いな、なんて思いました。
カンババの動く姿を初めて見たんですが、英語の発音が英国!って感じで格好良かったです。勿論、聞き取れてはいないのですが。。。チューリングは少し吃音(のような感じ)があったように思ったのですが、少年時代の俳優もそのへんを巧く演技しているな、と感心しました。
ボンプを改良している時から、エニグマ以上の暗号装置が無いにしても、暗号が解けたところでリセットの周期を短くされたら対応出来んだろ。。。って思いながら見ていました。
違和感があったのが暗号が解けた後に”まるで初めて暗号が解けた後の対応に気づいた”かのような描写です。それはずっと議論してきているだろうと。ましてチェスの英国チャンピオンがいるのに!MI-6が背後にいるのに!
あと、チューリングの確率的人命選択に対する苦悩は強く感じました。
戦後、ジョーンがホルモン療法(えげつない!)を受けているクリストファーの家を訪ねた時に「もしかしたらいなかった人から切符を買い。。。」とチューリングを慰める場面で、エニグマに関わった人は人命選択に関して悩み続けたと描いているように思いました。(もしかして、この台詞ってエニグマを解読して戦争を早期終結させた主張にのみ関するのかなあ。。。)
個人的にはロスアラモス後のオッペンハイマー(ロスアラモス所長。戦後、反核兵器を主張し赤狩りにあう)の事も頭をよぎったので。
と、不満も書きましたが、色々と考えながら見られて楽しめました。
カンババのランニングシーンがいまだ謎です。。。
投稿者 元店主 : 2015年03月30日 03:08
>違和感があったのが暗号が解けた後に”まるで初めて暗号が解けた後の対応に気づいた”かのような描写です。それはずっと議論してきているだろうと。
その通り!あれは変だよね。つーか、あまりに脚色だよね。
私も色々と気になって、映画の後にサイモン・シンの「暗号解読」を読んだんだよ。エニグマのこと載ってるから。すると・・・かなーり違うのね、事実は。相当、脚色してる。まぁ、分かりやすくするためだけど。
そもそもチューリングが来る前に、すでにエニグマは解読できていたんだよ!!!ブレッチレーではだいたい数時間でその日の暗号の“鍵”をつきとめ、あとはそれを使ってエニグマを読んでいたの。だからウノピが言う様に、エニグマを解読した後の対処法は、すでにあった訳だよね。これにはビックリした。映画と全然違うやん!
で、チューリングが何をやっていたかというと、エニグマの方も実は日々進化して難しくなっていたので、現在の方法では対処できないほど難しくなった場合の解読法を探していた、と。で、実際にそうなったの。一気にエニグマが読めなくなった。でも、そのすぐ後で、チューリングがそれを解読できるボンブを作ったので、またエニグマが読める様になった、と。だから、確かにチューリングは凄いんだよ。でも・・・映画とはかなり違うよね。分かりやすくするために、かなり話を変えている。分かるけど・・・脚色賞。う〜ん、ビミョーな感じ・・・。
>あと、チューリングの確率的人命選択に対する苦悩は強く感じました。
これは我々とはちょい見解が違うな。
この事は我々三人の間でもちょっと議論があったんだけど、確率的人命選択に対する描き方が浅かったんではないか、と。なんかあまりチューリングはその事に対して苦悩してる様には見えないし、むしろアスペなんだからほとんど苦悩してなかったんじゃないか?その事を隠蔽するためにあんなあっさりした描き方なのか、とかなんとか。
私的には、鼎談でも言ってる様に、ナチスを絶対悪と描く事で、曖昧にこの問題を誤摩化している様に思えて気持ち悪かったんだよね。
あと、チューリングのランニングシーンは、やっぱカンババファンへのサービスじゃないのかな・・・。
投稿者 オーソン : 2015年03月30日 20:01
基本的には楽しめました。でも、クリストファーとの回想シーンや機械への偏執狂的な愛情表現をもっといれたほうがよかったように思います。そして、ラストの何十万人の人命が救われたという説明、あれは本当に不要じゃないかと。主人公にとって、そんなことはどうでもよく、クリストファーへの執着だけしかないキャラクターだと思っていたから、すごい違和感を感じました。
あと、カンバーバッチの同性愛表現はちゃんといれるべきだったと思います。ゲイが主題の一つとして盛り込まれているのなら、ちゃんと描かないと駄目だと思います。ちょっとしたキスシーンもなかったですよね?
『シングルマン』のように、政治的な出来事は背景化して、クリスとの愛の物語に脚色したほうが好みの映画になったと思います。ただ、そうなると、全然違う話になってしまいますが…。
投稿者 uno : 2015年03月31日 00:52
元店主さん
事実との乖離度が凄いですねえ。。。
いくらなんでも不自然すぎますもん。
私も確率的人命選択に関する描写は浅いと思います。実際、仲間の兄が乗っている船を、助ける・助けない、の議論で終えているに等しかったですから。
で、よくよく考えてみると、確率的人命選択を実際にあのチームが行ったのかどうかが疑問です。
エニグマの解読、それ自体には悪の要素がない。一方で確率的人命選択は戦略であって、科学者ないし市民が行う範疇ではない。映画の中でも計算を行っている場面が少し映っただけでしたから、その点を曖昧にしているのは感じます。ブレッチレーのメンバーに戦略的な権限はないでしょう。物語をドラマチックにする為に単純化している描写だと思います。
まあ、私の場合は映画を見ていてチューリングが悩んでいるように感じたのは事実なのですが。。。それは確率的人命選択が私の中で正当化出来なかったからなんですけど。
うーん、やっぱりエニグマの解読と確率的人命選択は地続きであるにしても、分けて考えるべきだと思うなあ。
投稿者 元店主 : 2015年03月31日 03:01
オーソンへ
確かにオーソンの言う様に、アスペ全開の変人としてチューリングを描いた方がキャラは立ったとは思うけど、制作側はその様には描きたくなかった、もっと人間らしい(?)チューリングを描きたかった、という事だろう。実際のチューリングも、そこまでアスペ全開ではなかった様だし。
>あと、カンバーバッチの同性愛表現はちゃんといれるべきだったと思います。ゲイが主題の一つとして盛り込まれているのなら、ちゃんと描かないと駄目だと思います
私はそうとも思わないんだけど・・・別に同性愛表現はそこまでなくてもいいと思う。なくても必要な事は描けると思う。でも、オーソンが物足りなく思うのも分かる気がする。観たいんだよね、そういうのが。うんうん、分かるわー。
石井輝男の作品を梅本座で連投したから、その影響でドギツイ描写に餓えてるんじゃない?
うのぴへ
>うーん、やっぱりエニグマの解読と確率的人命選択は地続きであるにしても、分けて考えるべきだと思うなあ。
それはその通りだよね。私もそう思う。でも、これからはゲーム理論というか、コンピューターを使って、冷酷に味方の損耗も計算にいれながら勝利を計算することがますます多くなる様な気がする。そこに科学者が積極的に関与する時代が・・・もう来てるのかも。
だから我々の考えるべき事は、確率的人命選択的なものに、如何に抗えるか、という事なんだよね。故に、この映画の様に、敵を絶対悪と規定する事によって確率的人命選択を曖昧に肯定する様なのはダメだと思うんだ。
そこらの突っ込みが浅く、安易な(?)人間ドラマにしてしまっているのが、この映画の弱点だと思うな。
投稿者 ヤマネ : 2015年04月05日 22:22
映画を観ただけでは、わかりませんが、チューリングは毎日ランニングするのが日課で、オリンピック代表に選ばれるか、というほどマラソンが速かったのでした。
投稿者 元店主 : 2015年04月06日 02:46
ヤマネくんへ
へー、そうだったのか!ってか、あれってランニング?めっちゃ走ってなかった?全力疾走してたような・・・って、それほど早かったのかー!
コメントしてください