クラウド アトラス [強制起訴シリーズ]
起訴者:マツヤマ
強制起訴シリーズ27弾
「クラウド アトラス」
監督:ラナ・ウォシャウスキー/トム・ティクバ/アンディ・ウォシャウスキー
3月は起訴者のオレの誕生月でもある。どうでもいいが、起訴作品がなかなか決まらねぇ。最近劇場で集めたチラシを見るとするか。ん、なに?『クラウド アトラス』“観る前攻略ガイド”だと?「映画評論家 町山智浩さんが解説」? 「だから『クラウド アトラス』は傑作なのだ!」だって? “ポストおすぎ”が何をふざけてやがる。傑作かどうかはオレたちが決めてやる!
── この作品は時代の違う6つのエピソードによって構成されている。1849年:アメリカ人弁護士による奴隷船時代の航海物語~1936年:スコットランドの作曲家による名曲誕生秘話~1973年:原発の陰謀を暴く女性ジャーナリスト~2012年:イギリスの編集者と、老人ホーム大脱走~2144年:革命家になった未来の韓国=ネオソウルのクローン少女・ソンミ~2321年:新たな世界大戦を経て生き残った人類が原始化したハワイと、進化したコミュニティからやって来る人類 ──
- ヤマネ
- だから、マツヤマさん、なんで「ジャンゴ 繋がれざる者」にしなかったんですか? これ↑ すっかりマカロニモードじゃないですか。
- 元店主
- そうだよね「ジャンゴ」にしたら、それなりに盛り上がっただろうね、マツヤマさんはこんな感じ↑になっちゃってるし。
- ヤマネ
- ボクは「ジャンゴ」はまあまあでしたけどね。でも3人とも観てることだし「ジャンゴ」に急遽変更ということでもいいんじゃないですか。マツヤマさんがそうしたいならいいですよね、ケンタロウさん。
- 元店主
- そうだね。マツヤマさんがどうしても、って言うんなら・・・
- マツヤマ
- いや、このままでいい。ガンマンの心得・第1条「決して人にものを頼むな」だ。
- 元店主
- そうきましたか。「怒りの荒野」に出てくるガンマンの心得10箇条ですね。では、第9条「たとえ不利でも相手の挑戦に応じなければ・・・
- マツヤマ
- 戦わずして負けたことになる」か。
- ヤマネ
- ハイハイ、じゃあ予定通りということで進めましょうか。起訴者のマツヤマさんとしては「クラウドアトラス」はけっきょくどうだったんでしょうか?通常モードでお願いしますよ。
- マツヤマ
- うん。観終わったあと、あー面白くなかったー、って。でも怒るほどでもないから、話は盛り上がんねぇだろうな、って思ってたんだよ。
- 元店主
- 3時間近くのボリュームで6つの時代を交差して描いたという割には、驚くほど薄っぺらいと思いましたねー。やはり私も怒りが込み上げるというほどでもなかったし・・・
- ヤマネ
- ボクは観ているときには面白かったんですが、やっぱり全体的に軽いから、心に残る余韻もなかったですね。
- マツヤマ
- ・・・、終わる?
- 元店主
- ダメですよ、起訴者なんだからしっかりやってください!第10条「皆殺しにするまでやめるな!」ですよ、マツヤマさん。
- マツヤマ
- よし分かった。2人とも地獄へ道連れだ、行くぜアミーゴ! ・・・ってなんかテンション低いね2人とも。
- ヤマネ
- いやー、観終わって何日かしたら記憶が薄れてきてますね。とにかく中途半端感満載でした。「火の鳥」みたいなお話だけど火の鳥がいなかった。要するに太い芯のようなものがなかったってことじゃないでしょうか? 強いて言えば、ウォシャウスキー姉弟が自由への改革というテーマにこだわり続けているのは素晴らしいとは思いますが。
- 元店主
- 権力に対する闘いが時代や場所を超えて永遠に続いていく!ということが言いたいんだろうけど・・・。
- マツヤマ
- その闘いを各時代で輪廻転生というかたちで繋いだつもりなんだよな?
- 元店主
- らしいんだけど、ちっとも輪廻転生になってないし、輪廻転生についてまともに考えたとは思えませんね。同じ役者を使っているからって、輪廻転生になんて見えない。そもそも役者は色んな役を演じるものだからね。
- ヤマネ
- そうです。同じ俳優をチョイ役に使い回したりするのも、魂の生まれ変わりとは無関係で、ただノイズが増えているだけですよね。監督たちや俳優たちの間では盛り上がったんでしょう。別にいいんですけど。
- マツヤマ
- けっきょくこれを観ると、輪廻転生を描こうとしていながら、じゃあ人類が進化のどの過程で輪廻転生できるようになったんだよ?って、ついつい思っちゃうよな。これは人間中心主義のキリスト教的な思想と、ウォシャウスキー姉弟の中途半端な東洋思想への興味が、この輪廻みたいな?になったんだろ。
- 元店主
- 私は元々輪廻転生を信じない、というより無いと思ってますけど、映画の中ではあってもいいと思います。革命の輪廻転生を描くんならむしろ応援したいくらいなんだけど、それを如何に描くかが問題。今年になってコレばっかり言ってるような気がするけど。
- ヤマネ
- ちなみに原作者のデヴィッド・ミッチェルは三島のファンらしいので「豊穣の海」の影響がありそうですよね。原作読んでないから分かりませんが、映画を観る限りでは、「豊穣の海」の尋常ではない迫力がまったくなかったですよね。
- 元店主
- 「豊穣の海」で描かれている輪廻転生は、いきなり前世の記憶を思い出したり、知らない国や時代の言葉を話し出すとかいうステレオタイプではなくて、生き方の形が転生するということになっているから、おそらくこの映画の原作も影響を受けて、そのパターンの輪廻転生を描いてるんだろうけど、映画を観る限りでは生き方の形がバラバラだし、このタイプの輪廻転生では「輪廻転生だ!」と認定する存在が必要なんだけど、この映画にはそういう人物がいないから、それぞれの人が単に勝手にそれぞれの時代を生きているだけ、ということになるんだよね。
- ヤマネ
- やっぱりそこらへんは、運命をゴニョゴニョ考えるトム・ティクバ監督のボクの苦手な部分が出てる感じですね。「ザ・バンク 堕ちた巨像」は傑作だと思ったんですけどねえ。あんな感じで1973年の原発の陰謀をガッツリ撮ってくれてたら文句なしだったんですが・・・
- マツヤマ
- あそこで石油系と原発系の対立を描いたところまでは新鮮だと思ったんだけどなぁ。あの石油メジャーが原発の欠陥を隠蔽して事故を誘発させようとしてた陰謀は、いわゆる石油メジャーのトップであるロックフェラー系のGE社の上層部が、福島第1原発に使われていた自社の発電機の欠陥を知りつつも無視していたということとも重なるんだよな。最後はなんだか温かーい話に落ち着いてしまっちゃってチャンチャンだよ。
- 元店主
- まぁ、映画化するに当たって、3.11の影響は少なからずあるでしょうね。でもあのパートを具体的に描いてしまうと全体がそれに引っ張られて中途半端な社会派作品になってしまいますから、さらにつまらなくなるでしょうね。私は唯一1036年のベン・ウィショーが作曲家役のパートが良かったんで、それに引っ張られてなんとなく他の話も観ることができたけど、あれがなかったら退屈で堪えられなかったかもしれません。
- ヤマネ
- ボクは作曲家のパートは個人的に好みの話ではないので却下しますが、映像はいちばん良かったですね。ベン・ウィショーが最後に泊まってた安ホテルがカッコよくて、バスルームの壁のモルタルとペンキを分厚く塗りたくった感じとか、グッときました。
- マツヤマ
- さすがに目の付け所がヤマネくんっぽいね。オレはあのパートはベン・ウィショーがやったのが良かったんだと思うね。とくにお尻がすごくキレイだと思ったよ。それもあって、ベン・ウィショーの同性愛の相手が1973年のパートではまだ生きていて、過去のパートと交差するところにはグッときたね。けっきょく「クラウドアトラス6重奏」とかはどうでもよかった。そもそもあの曲はぜんぜん耳に残ってないからね。
- 元店主
- まあ、細かいところでも、おぉっ!って思えるシーンがあることはあるんですけどね。2012年のパートで作家役のトム・ハンクスが自分をバカにした批評家をビルのベランダから放り投げて殺すところとか。
- ヤマネ
- あれはもう、監督たちの願望ですよね(笑)。
- 元店主
- ただ、近未来の話は酷かったよね。ネオソウルなんて「ブレード・ランナー」のパロディのつもりかもしれないけど、単に想像力が貧困としか思えないトホホぶりで。
- ヤマネ
- 学生が撮ったの?って思うほどオリジナリティがなかったですねー。映像が酷過ぎる!
- マツヤマ
- 「スピードレーサー」は内容、映像ともに最高だったんだけどなあ。
- 元店主&ヤマネ
- エーッ!
- 元店主
- 映像のレベルはぜんぜん変わってない!っていうかゲームの映像みたいでむしろあっちの方が苦手でしたが。
- ヤマネ
- 話もつまんなかったし。
- マツヤマ
- でも、前はそんなこと言ってなかっただろ!
- 元店主
- いや、あのときはマツヤマさんがすごく盛り上がってたから、つい言い難くて・・・
- マツヤマ
- オレの周りじゃみんな「面白かった」って言ってるぞ!
- ヤマネ
- それはマツヤマさんが猛烈にプッシュするから、みんな本音を言い難かったんですよ、きっと。
- マツヤマ
- そ、そうだった、の、か・・・。このオレが、とんだサトラレ野郎だったとは・・・。すまんが誰か馬を出して来てくれ。この街を出てゆく。
- 元店主
- とうとうタルビー師匠が憑依してしまいましたね。ってそのネタ「怒りの荒野」観た人にしか分からないって!
- ヤマネ
- ソンミが憑依するスーザン・サランドンの演じてたシャーマンも笑えました。ソンミ様のお告げが「敵の寝首をかいてはならぬ」とか、ぜんぜんソンミの言葉と関係ないやん!
- マツヤマ
- そうそう、ソンミの言葉が2321年のパートでは聖書みたいになってるんだけど、ぜんぜん心に響かないし、記憶に残る言葉もない。「夢を見るのも結構だが、目を開けて見ろ」とか「人を裁くのは一度だけでいい」とか、そういうグッとくる言葉が一切ないんだよな。
- 元店主
- マツヤマさん、それマカロニの名台詞じゃないですか。まあソンミの言葉よりもずっとマシですけど、やっぱり人に届く言葉っていうのはそういう熱さがないとダメなんですよね。人は熱に感染するわけで、淡々と抽象的な言葉を喋るだけのソンミが200年後に神のような存在になっているなんてリアリティがなさ過ぎるよ。
- ヤマネ
- あと、全体的に特殊メイクが気持ち悪くて、とくにソンミのパートはアジア人に対して差別的とか騒がれてますが、差別がどうというよりも単に顔がヤバいって感じでしたね。ヒューゴ・ウィービングとか。
- マツヤマ
- うん、あれはもはや人間の顔じゃなかったな。ジム・スタージェスはジャパネットの社長みたいな顔になってたし、ハル・ベリーは吉本新喜劇の古参芸人みたいだったな。
- ヤマネ
- あ、でも2321年のパートで人食い種族のヒュー・グラントの、顔を分厚く塗りたくったメイクなんかはいい感じでしたね。もともと面の皮が厚そうだから、やっぱりヒュー・グラントにしか見えないし。
- マツヤマ
- 塗りたくり系好きだねぇ。ヒュー・グラントはどのパートでも悪という設定だけど、24世紀の原始化された時代では単に野生の営みをしているだけだから、人殺し=悪という現代の常識は当てはまらないだろう。5世紀にもわたって革命だ抵抗だなんだってやってきて、けっきょくあのパートで逃げちゃってるしなぁ。あのパートさえなければ、もっと作り手のメッセージは残ったし、ソンミの言葉もちょっとは生きたかもしれないんじゃないか?
- ヤマネ
- ボクはエンディングを逃げてたとは思わないけど、色んな運命があるよね的な感じが、すごくチープ過ぎると思いましたね。とくにトム・ハンクスの善行、悪行とその因果といったあたりに、どうにも乗切れなかったです。エンディングが未来じゃなくて、過去か現代でまとめられていたら感動した・・かも。あと、どのエピソードも既視感溢れるものばかりで、話自体がどこまでも面白くなかったということもありましたね。
- マツヤマ
- 奴隷貿易のエピソードは「ジャンゴ」であの強烈なのを観た後ではすごく軽く見えたし、全体的には「ミスター・ノーボディ」を思い出すんだけど、なにしろレベルが・・・
- ヤマネ
- ボクも観ている最中から「ミスター・ノーバディ」の影はちらついてました。っていうか、どうしても比較してしてしまうところがあるんだけど「ミスター・ノーバディ」に比べるとぜんぜん脚本が練られてない、って感じましたね。
- 元店主
- 比較するも何も、やはり「ミスター・ノーバディ」の足下にも及んでいないでしょう。予告を見て少しは期待していただけに残念という他ないよねー。ほんと、これ以上言うことがもう思いつかないよ。
- マツヤマ
- まあ、それだけ「ミスター・ノーボディ」が素晴らし過ぎたということで、チャンチャン、と・・・
- 元店主
- マツヤマさん、さっきから気になってたんですけど「ミスター・ノーボディ」はマカロニウエスタンの方ですよ。邦題のカタカナ表記が違うだけだからどっちでもいいとは思うんですが。
- マツヤマ
- おっと、そうだった。まだ続いている「マカロニ」祭りだよ。ということで、比較的この映画に前向きなヤマネ君から締めを塗りたくってもらおうか。
- ヤマネ
- では分厚くやらせてもらいます! まずこの映画は、言葉で内容を他人に説明しづらいけど、実際に観ればそれほど難しくないから、やはり編集はまあまあ巧いんじゃないかと思います。映像がいけてるシーンも多々ありました。ただ、残念なのが脚本。つまりこうです。野球放送を横目で見ながら、洗濯物を畳む~ぐらいの気持ちで観るゲーム的な娯楽作品としてなら悪くないと思います。
- 元店主
- んー?これ読む人がよけい混乱しそうな・・・。まぁいいか。それじゃヤマネ君、次回のタイトルは?
- ヤマネ
- ジャッキー・チェン製作、監督、脚本、そして主演の「ライジング・ドラゴン」でーす、ジャジャーン!
- マツヤマ
- ウワっ、ジャッキー・チェン! オレちょっと苦手・・・
- ヤマネ
- ガンマンの心得・第9条ですよ、マツヤマさん。
- 元店主
- それとも9条改正しますか?
- マツヤマ
- いや、今はこのままでいいよ。
Comments
投稿者 uno : 2013年04月11日 23:47
遅くなってすみません。
マカロニ・ウエスタン基本映画を観るのに忙しくて、すっかり機を逸してしまいました。
いやー「怒りの荒野」ほんとイカしてますね!
で、本題のクラウドアトラスなんですが。。。
面白くないことはなかった!とか、嫌いじゃないかも!とか、
中途半端にネガティブな気持ちをたんまりと抱えつつ映画館を後にしました。
最初は物語が絡み合っていくのかな?と楽しみに思ったんですが、どの話もこぢんまりと纏まって。
6つの物語が軽い。単純に計算すると1話あたり30分しかないですし。
しかも見終わったら頭の中で6つの物語が整理されてしまって、輪廻転生とはほど遠いという。
それから出来事や物を各パートで繋げてましたよね。
例えばスコットランドのパートで作曲されたクラウドアトラス6重奏がサンフランシスコのパートでは偶然レコード屋で掛かっているとか。
題名にもなっている重要なモチーフじゃないの?と思ったのですが、あっさりと流れてしまう。いいんかい、それで!
ネオソウルと奴隷船時代に共通する解放。これもすごくあっさり。
この辺を丁寧に描いて、各パートを繋げて欲しかった。
個人的に一番記憶に残ってるのが、人肉プロテイン飲料「ソープ」なんですが、全くグッときません。
最初に面白くないことはなかった!と言ったものの、やっぱり面白くなかった!
投稿者 マツヤマ : 2013年04月12日 20:10
ウノピへ
オレたちの話で出尽くした、って感じか?
にしても「個人的に一番記憶に残ってる〜」ことが、たったの1行というのもさみしいんじゃない? 1点だけでも掘下げてみてよ。
各パートが繋がっていたことについて、町山智浩氏は「入れ子状態になっている」と言って高く評価している(ガンマンの心得 第2条:人を信用するな)んだけど、町山氏が「入れ子」の意味を知っているのかどうかは別にして、パートを繋げているもの自体は単なる連結部品にしかなっていない。だからホントは重要なはずの6重奏やソンミのメッセージは今ひとつ心に届かなかったんだと思う。少なくとも強制メンバーには。
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