ムーンライズ・キングダム []
ウェス・アンダーソン待望の新作。ウェス・アンダーソンは私にとって特別な監督です。それは、彼の撮る作品は、常に“もし私が映画を撮るならこんな作品になるだろうな”というものだからです! 彼とは同い歳という事もあってか、あまりに「分かる!分かる!」という気持ちが強く起こってしまうのです。
とはいえ、こんなものは単なる妄想・勘違いに過ぎません。実際の所、冷静に考えてみれば、私がもし映画を撮るにしても、演劇を書く才能のある少年の話や、海洋学者の話、セレブ一家の話なんて撮る訳がない。
しかし、今回の話は違います。これは、如何にも私の撮りそうな題材の映画だー!
12歳の少年と少女の駆け落ちの話。という事で、みんなは「小さな恋のメロディー」だね、と言ってますし、実際そうなんでしょう。しかし、私にとってこれは楳図かずおの傑作マンガ「わたしは真悟」ですね。
この世にあり得ない真の“純愛”を描いた作品。むろん、こっちの方が普通の恋愛へと堕落(?)=成長していく先行きを暗示している分、その純度は落ちますが、だからといって作品として弱いという事にはなりません。
嵐の中、高い塔に二人で登る所なんか、思わず「333から飛び降りろ!」とか叫びそうになりましたよ。
いや、雷が鳴り響く嵐の中で奇蹟が起こる・・・というのは、実は普遍的な事なのかもしれません。今年見た映画でいうと、「ted」でもそうでしたし、「フランケン・ウィニー」でもそうでした。やっぱ嵐はこの世の秩序がチャラになる魔の時ですからね。
奇蹟とは、今までの秩序が御破算になり、新たな秩序が打ち立てられる事なのでしょう。
しかしそれにしたってお膳立てがいる。なーんもなくて、いきなり嵐が来たからといって奇蹟が起こる訳ではない。奇蹟を起こすのに必要なもの、それは“信じる心”です。この映画に則していえば、未来を信じる心、と言ってもいいでしょう。
サムとスージーは、自分たちの未来を無根拠に、無際限に強く信じています。それは子供特有の視野の狭さから来るものではあるのだけれど、その純度はもの凄く高い。だって、そうでなければあんな狭い島の中で駆け落ちなんてする訳がないし、高い塔から飛び降りようとはしません。飛び降りる・・・という事に関していえば、あれは追いつめられた二人が死を覚悟した、という解釈もある訳ですが、私はそうはとりません。サムとスージーは、自分たちの未来を無根拠に、固く信じていたのです。生も死も関係ない。自分たちが一緒に居られる所、自分たちだけの場所、それがムーンライズ・キングダムなのだ、そこに二人して行くんだ、と。
そしてそれを支える大人たちが居る。やっぱ世の中というのはね、法律や手続きや規則や習慣や、ややこしくて下らない事に満ちていて、でもそれをクリアしないとやっていけない様になっています。それをめんどくさがらずにきちんとクリアし、子供をサポートするのが理想的な大人の在り方です。それをやる大人たちが居た。だからこそ、奇蹟が起こったのです。
ウェス・アンダーソンは稀代のスタイリストですが、今回もビシビシにきめてくれてます。画面の構図や美術もさる事ながら、その時間処理のやり方がまた・・・気持ちいい!映画を観る愉悦はここにあり、という感じです。
そして俳優陣の素晴らしさ。ブルース・ウィリスにエドワード・ノートン、ティルダ・スウィントン!フランシス・マクドーマンド!ジェイソン・シュワルツマン!
ああ、完璧だ。やっぱこれは・・・自分で撮るなら正にこんな映画!そのものだ!(まぁ、ビル・マーレイは毎回、私的にはちょっと・・・なんだけど)
で、すでに私の撮る映画をウェス・アンダーソンが撮ってくれたので、私は安心して観客に徹する事ができます。次回作「ザ・グランド・ブタペスト・ホテル」も猛烈に楽しみです!
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