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2012年07月01日(Sun)

『ワン・デイ 23年のラブストーリー』 []

Text by Matsuyama

ハンサムで軽薄なデクスター(ジム・スタージェス)と、彼に憧れていたガリ勉メガネのエマ(アン・ハサウェイ)は大学卒業式の夜から友人たちと飲み明かした勢いでベッドを共にするが、2人の微妙な温度差から行為に及ばず「ずっと親友でいよう」と互いに決意する。それからの23年間を7月15日という一日だけでつないで2人の絆を描いていくという、一風変わったラブストーリー。

人気女優のアン・ハサウェイと、『アクロス・ザ・ユニバース』『ラスベガスをぶっつぶせ!」など主演作品がありながらも、なかなかブレイクしないイギリス俳優ジム・スタージェスが主演のこの作品は、アン・ハサウェイの看板映画かと思いきや、いや、そう思っている人が多いだろうが、筆者の思うところ、女性監督ロネ・シェルフィグ(『17歳の肖像』など)によって撮られたこの作品の原作者は男性作家であり、デクスターのディテールがより細かく描かれていることから、ジム・スタージェスが主演筆頭で、彼の演技スキルを最大限に発揮してブレイクを賭けた作品ではないだろうか。

かといってオトコ目線でオトコにとって有利に書かれたお話ではなく、どちらかというとオトコの後悔と懺悔の物語であると筆者は思う。これは男性・女性、またはそれぞれの恋愛経験などから解釈は大きく変わると思われるが、少なくとも「異性同士の友情はあり得るのか?」などといった、別れるときに語り合うバカップルの永遠のテーマのような単純なことではない。「あのときセックスをしなかったからずっと親友でいられた」なんていう美しい話ではないのだ。いわゆるデクスターとエマの関係はフィフティ:フィフティではないということだ。一応2人ともに恋愛感情があるとして、その比重は明らかにエマの方にある、ということをデクスターは知っていて、それがいつもどこかに空いている心のスキマを埋めているだけのことだ。

さほど苦労を知らないデクスターは人に対して不誠実。金持ちでハンサムで自分にはあらゆる可能性を秘めていると思い込んでいるデクスターのようなオトコは多いはずだ。そんなオトコに人生のピークは早く訪れ、そしていずれ去って行く。
どこかの国のお笑い芸人のように、利用価値がなくなればポイ捨てされ、デキ婚嫁の家族からはボンクラ扱い。いわゆる悪い人生を送っている悪い人間、それがデクスターだ。

まともに観たらそんなデクスターのどこに惹かれているのかまったく理解が出来ないエマとはどんな存在なのか。彼女はデクスターの守護聖人のような存在だと思う。デクスターがエマとの縁を切らないのも彼女に何か崇高なものを感じたのではないだろうか。それは言うほどおおげさなものではなく、人生で何度か体験する(「このオンナと結婚したいかも」と思う回数かな?)オトコ特有の女性への感情のようなものだと思う。

デクスターにとってのエマの役割、という言い方は女性から反感買うかもしれないが、彼女の使命は、悪い人間・デクスターを良い人間にすることなんだと思う。そうでも思わなければ、この物語の前提となっているらしい「2人は互いにずっと思い合っている=相思相愛」ということが筆者には理解できない、というよりか成立していないようにも思えるのだが・・・。
2人の関係はアリとキリギリスのようなもので、デクスターがチャラチャラしているときにエマはコツコツとマジメに人生を送っていて、デクスターがすべてを失ったときに、エマは人間としても女性としても最良の時期を迎えている。

120701-01.jpgアリとキリギリスの図

2人は夫婦となり、エマはある日デクスターとの待ち合わせに少し送れるというメッセージを留守電に入れたとき「あなたはいい人ね・・」と付け加える。デクスターは「いい人」になった。ここでエマの使命は終わったのだと思う。

フランスやイギリスの風景や各年代での2人の出会い方、抱き合う姿、衣装などがいちいち美しい。しかし、それぞれの7月15日の描き方の大半が実に浅く、その一日からその一年に相手がどのように心に存在していたのかを想像する術がまるで無いのが残念だ。また、22歳から45歳の23年間を描いているのに、2人の成長をあまり感じることができなかった。後半のエマの輝き、デクスターの落ちぶれ様をメイクや衣装で表現できても、やはり365日おきに一日を10分前後で描きつなげることは難しいことだと思う。映画にとって一日というのは実は大きな時間ではないのだろうか、とあらためて思った。

120701-02.jpgラストは卒業式の回想シーンへと・・・

次回は強制起訴シリーズ鼎談『愛と誠』編でも純愛で盛り上がるぞ!

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