アーティスト [強制起訴シリーズ]
起訴者:元店主
強制起訴シリーズ 16弾
「アーティスト」
ミシェル・アザナヴィシウス監督
ジョージはサイレント映画の人気スター。多くのファンに囲まれ、人気の絶頂だ。ペピーも、ジョージに憧れるそんなファンのひとりだったが、ひょんな事から映画界に入る事に。時に時代はサイレントからトーキーへの転換期を迎えるものの、ジョージはトーキーなど子供騙しだと相手にせず、サイレントに固執したために時代の波に乗り遅れて没落、入れ替わる様に可愛いペピーはトーキーのスターとして人気を集めていくのだが・・・。
今という時代に敢てサイレント映画形式で撮った、第84回アカデミー賞5部門受賞の話題作!
★
- ヤマネ
- やー、思ったより面白かったですね!観ていて気分のいい映画だった。80点!
- 元店主
- えー、また点数つけるのー?・・・う〜ん、難しいなぁ、点数つけるのって・・・75点、ぐらいかな。
- マツヤマ
- オレは、そうだなぁ、敢て、85点といくか
- ヤマネ
- わー、マツヤマさん、結構良かったんですね!ボクよりいい点数じゃないですか!どこらが良かったんです?
- マツヤマ
- いや、全く期待せずに観に行ったから。だって、アカデミー賞5部門受賞作だぜ。それにサイレントからトーキーへの移り変わりの時代を舞台に、敢てサイレントで撮る!っていうんだから、あまりに狙い所が見え過ぎて、もう凄ーくつまらなそうじゃないか。劇場に向かうのに、相当の努力がいったよ。・・・ま、それにしては、意外に面白いやん、という感じか
- 元店主
- 私も同感です。これ、観に行きたくないわー!と思ったけど、でも観ておいた方がいいか・・・とも思ったので、こいつを起訴しました
- ヤマネ
- 観ておいた方がいい、というのは、やっぱアカデミー賞5部門受賞作だからですか?
- 元店主
- うん。それと、この作品と賞レースを争ったスコセッシの『ヒューゴの不思議な発明』とのからみもあったから。お二人とも、『ヒューゴ』は観ました?
- マツヤマ&ヤマネ
- 観てな−い
- 元店主
- そうか・・・ガク!・・・いや、実は『ヒューゴ』も、この『アーティスト』同様、映画に関しての映画なんですよ。あれはメリエスが出て来まして、まぁ、メリエスVSリュミエールというか、映画に関するスペクタクル性の再認識といいますか、なんつーか、やっぱ映画って素晴らしいですよね!という映画なんですが・・・これが、私的には全くダメ。もう、クロエ・グレース・モレッツが出ていなかったら救い様がない映画だと思ったんです
- マツヤマ
- ほう、どんな所が?
- 元店主
- まず、ぬるい!徹底的にぬるい。サッシャ・バロン・コーエンが出てるんですが、ぬるすぎてちっとも面白くない。どころか、観ていて凄く腹が立ちます。次に絵がダメ。CGバリバリなんですが、画面が気持ち悪くて。そしてなにより、“映画”そのものについての考えが浅過ぎます。この映画、その昔に映画の黄金時代を築いたメリエスが、なぜ今や世間の片隅に逼塞し、映画に対する憎しみを募らせているのか、というのがテーマのひとつなんですが、これがなんと!自分の映画が受けなくなったから、というのがその理由なんです!アホか、と思いましたよ。だって、そんなこと、映画に限らずなんだってある事じゃないですか。自分の作品が受けなくなった、自分の仕事が受け入れられなくなった、というのはいつの時代の誰にだってある事ですよ。それをどう受け止め、生きていくのか、というのが人生な訳で。それをことさら大袈裟に特別な悲劇!!!として描かれてもねぇ。さらに、メリエスは最後にヒューゴのおかげで映画評論家の人にとりあげられて、世間的に再評価されるんですが、それで鼻高々、しごく御満悦なんですよ!なんやお前、他人に誉められたかっただけかい!映画人としての矜持はどこにあんねん!とか思って、ムチャクチャしらけました
- ヤマネ
- わはははー!ボロカスですねー!で、それに較べたら、『アーティスト』はましだったと?
- 元店主
- うん、そんなにぬるくないし。甘いけどね。でも、この甘さはサイレントという形式に合ってて、観ていて幸福感が沸いて来る感じだよね。こういうのは、好き。それに絵もいい。これも、いったんカラーで撮って、それを白黒に直した現代の絵だけど、でもやっぱ白黒というのはいいよね。これも観ていて気持ちいい
- ヤマネ
- そうですよねー!ボクも白黒好きです。ってか、映画に色は必ずしも必要ない、という事を示してましたよね、これ。考えてみれば、日本のマンガだって、基本は白黒なんだし。それでも、カラーが多いアメコミやバンド・デシネなんかより、ずっと面白いし
- 元店主
- そういった点は良かったんだけど・・・、でもやっぱこの映画も、テーマの掘り下げが浅い。サイレントからトーキーへ、という映画の流れとは、結局なんだったのか。そこで何が失われたのか、という事がちっとも掘り下げられてない。だってジョージはトーキーの事を子供騙しだと言い、自分はアーティストだからサイレントをやり続ける、と言った訳だけど、この映画を観ているかぎり、その意味合いは全然わからないでしょう。むろん、サイレントからトーキーへ、という映画の流れは堕落であって、トーキーになって映画はダメになった、子供騙しになった、という意見は厳然としてあるんだけど、今時の人、そんなこと知らないし、そもそもそんなこと言われても、訳わかんないでしょう。そこらをちゃんと示さないと。映画は芸術でもあり、娯楽でもある訳で、その関係をどう捉えるのか、とか。そういった原理的な問題を、男女のラブロマンスのうちに解消しちゃったのが、この映画のダメな所だと思います
- マツヤマ
- ま、そもそも最近のハリウッドなんてそんなもんだよ。もう娯楽一辺倒で。受けりゃいいと思ってるよね、連中は。とはいえ、娯楽にも上等なものと低劣なものがあると思うんだが。そういえば、映画の事を真剣に考えた映画って、最近あるかな?
- 元店主
- いやー、実はあるんですよ。これらの映画と同時期に観たんですが、韓国のイ・チャンドン監督の『ポエトリー アグネスの詩』です!これは詩を書く話なんですが、インタビューで監督がはっきり言ってる様に、この“詩”は“映画”のメタファーなんです。こんなに詩や芸術がダメになってる時代に、詩=芸術としての映画はあり得るのか。あるとした、如何にしてうまれるのか。という事を真摯に考えた映画で、感動しました。もう、格が違うって感じです
- ヤマネ
- ところでなんで、いま、こんな風に映画に関する映画がたくさん撮られるんですかね?
- マツヤマ
- それは今が映画の転換期にあたってるからだと思うぞ。フィルムからデジタルへ、という。これは一見地味だけど、サイレントからトーキーへ、というのと同じくらいインパクトのある変化だと思うな。サイレントからトーキーになった時、映画は“観る”に“聴く”が加わった訳だけど、その事によって失われたのは“想像力”だろう。今の映画のデジタル化は、さらに想像力を奪って、映画は体験するもの、何も考えなくてただわーわー楽しめばいいアミューズメントパークみたいなもの、に向かってるんじゃないか。要するに、さらに人々の痴呆化が進む訳だ。さらに、映画業界自体も変わる。たくさん失業する人たちも出るだろうし。小さくて良心的な映画館も、もっと潰れるだろうしな
- 元店主
- なるほど。なら、この映画のそれに対する意見はどうなりますか?
- マツヤマ
- そうだな。映画のラストでジョージはペピーのひきで、ミュージカルという形で復活する訳だから・・・結局、時代の変化を肯定してる事になるな。“失われるものより得られるものの方が大きい”ってことか。なんだ、TPPの推進論者みたいな意見だな。オレみたいにディズニーランドは嫌い、iPHONEやFACEBOOKには興味なし、って人間は没落しろって訳か、ふん!
- ヤマネ
- えー、でもマツヤマさんがこの三人の中で一番この映画を評価してるんですよー。なにかもっと肯定的なことがあるでしょうに
- マツヤマ
- う〜ん、・・・結局、オレはああいう男が没落してダメになっていく、という映画が好きなんだよなぁ。たまらないんだよ、男が自暴自棄になってウイスキーがぶ飲みするとか。最後のミュージカルシーンなんて、大泣きしたよ、正直に告白すると。あと、ジョージ役のジャン・デュジャルダンが良かった。カッコ良過ぎるよ、あのオッサン。と思ったら、オレより7歳も若い・・・
- ヤマネ
- あ!ボクもジャンは最高でした!最初、この人顔がでっかいなー、と思ったんですけど、違うんですね。髭の比率が小さいんです。そんな所とか、演技がオーバー過ぎず、悲壮感もあまりなくて、基本軽いところとか、身体がよく動いて、止まってる時も力が抜けてる所とか。凄くいいですね!・・・ところで、なんで誰もボクにこの映画の感想をきいてくれないんですか!
- 元店主
- やー、別にそんなつもりはなかったんだけど、まぁ、ヤマネくんは私とマツヤマさんのちょうど間の評価だしさ。二人の中間ぐらいの意見かと
- ヤマネ
- そんな訳ないでしょう!ボクの評価はですねー、ずばり“ドラクエファン必見の映画”です!
- マツヤマ&元店主
- はぁ?
- ヤマネ
- この映画はねぇ、ドラクエを思い出させるんですよ!まず、BGMと呼ぶにふさわしい音楽の使われ方。少し野暮ったいけど聴きやすい旋律や、音源が似てるし、楽器の構成も。感情が高まると同時に盛り上がる音楽とかね。字幕で文字が出るのも昔のドラクエと同じだし、主人公の声を想像したり、台詞を想像で補ったりして楽しむのも古いゲームに似てる。しかもべたべたで予定調和的なわかりやすーい、ストーリ−。主人公があまりにたくさんの守護者に見守られてるところとか、舞踏会みたいなシーンもお約束で出て来て。ペピーのテーマなんか、ドラクエでどっか新しい街に(昼に)着いた時の旋律そっくりで・・・にやにやしてしまいました!
- マツヤマ
- ふーん。ま、そんな事いわれても、オレはゲームやらないしな
- 元店主
- 私も同じ。ドラクエとか言われても、さっぱりイメージが沸かない
- ヤマネ
- もー!二人ともダメですねー。没落する一方ですよ!
- マツヤマ
- なに言ってるんだ。ゲームするぐらいだったら没落する方がましだよ。とにかく、ハーパー12年もういっぱい!
- 元店主
- あわわ、マツヤマさんが拳銃を取り出す前に・・・、えー、まとめると、『アーティスト』はいっけん古い映画を賛美してる様でいて、実際は時代の流れを肯定する事によって今の映画界の変化にも結果として同調してしまっている、だからこそアカデミー賞をとれた。割と楽しめるけど、問題含み・要注意の映画、という感じですかね。・・・つー事で、来月の起訴者はヤマネくんだけど
- ヤマネ
- はい!来月は『宇宙兄弟』でいきます!
(5月の起訴者のヤマネくんの一方的な都合により、5月の起訴映画は『宇宙兄弟』から『テルマエ・ロマエ』に変更になりました)
- マツヤマ
- うわー、きっつー・・・、これなんかもう、宣伝みるだけで十分、って映画じゃないか
- 元店主
- まぁまぁ。観る前の期待値が低ければ、それだけ楽しめる可能性が高まる、という事で・・・また来月!
Comments
投稿者 オイシン : 2012年04月27日 18:47
65点
人生初のサイレント映画?でした。
予想通り、眠くて眠くて。
時折出てくる犬の大活躍により、意識を
とりもどしながら何とか最後まで観ることが
できました。犬すごい!
情報が少なくなることで役者さんの存在感で
勝負って感じは、とても面白かったです。(犬含む)
けど、最後あれで救済されちゃっていいの?
ちょっと納得できませんでした。で、65点です~。
投稿者 マツヤマ : 2012年04月28日 10:25
オイシンへ
ラストは観客の思いも救済されたとオレは勝手に思い込んでいたんだけど、オイシンはどんなラストだったら納得できたんっすか?
投稿者 Anonymous : 2012年05月05日 14:31
返信が遅くなってすいません。
まず、ラストは感情としては救済されて良かったなあと感じてます。感動もしたので、面白く見られました。
ただ、主人公が自殺を試みるほど傷つけられたプライド、
アーティストとしての矜恃が回復されたかというと、
そういう終わり方ではなかったなと思います。
どんな終わりが良かったか、具体的な例は浮かばないのですが、
僕は救済よりも、復権をして欲しかったのだなと、
振り返ってみて思います。
投稿者 オイシン : 2012年05月05日 14:33
あ、名前打ち忘れました。
上記のコメントは僕ですm(_ _)m
投稿者 元店主 : 2012年05月07日 01:19
あ、突然ですが、お知らせです。
来月の起訴者ヤマネくんの一方的な都合により、来月の起訴映画は「宇宙兄弟」から「テルマエ・ロマエ」に変更になりました!
すでに「宇宙兄弟」を観てしまった方、残念でした!
・・・て、いふか、たくさん映画観られて良かったですね。「テルマエ・ロマエ」も是非観て下さい!
投稿者 元店主 : 2012年05月07日 01:21
来月の起訴映画・・・の来月とは5月の事です。
すでに公開中だ!
投稿者 オイシン : 2012年05月07日 19:17
『宇宙兄弟』最高でした! 100点!!
って、たまに頑張るとこれかーい(泣)
テルマエも張り切って観てきますノシ
投稿者 テラリー : 2012年07月19日 18:17
今さらだとはわかっておりますが、ここにコメントせずには現在に参加できないと考え、投稿いたします。
本当に申し訳ございません。まさに自縄自縛状態です。
アーティストは少しもの足りなかったっという感想です。
本文にもありますが、ジョージがなぜサイレントにこだわり、トーキーをよしとしなかったのかを読み取ることができなかったのが大きいです。
全体的に落ち着いたシーンが多く、幸福な所にしろ、悲愴な所にしろもう少し突き抜けた部分があればより良かったのかなと考えます。好みの問題になってしまいました。すいません。
投稿者 元店主 : 2012年07月20日 02:38
お、テラリー、やっと帰ってきたか。どうした?彼女と別れたの?(いや、冗談、冗談だってば)
で、テラリーはこの映画は少々物足りなかった、と。なるほど。確かに、全体的に作りが甘いところのある映画だもんね。でも、テラリーが物足りなかったのは、もしかしたら想像力が足りないからかもしれないぞ。なにせテラリーは現代っ子。添加物でドギツク味付けされた食べ物を食べ、添加物でドギツク演出されたテレビを見て育った世代だもんね。そもそも味が分からないんぢゃない?(いや、冗談、冗談だってば)
テラリーも、これを機会に色々とサイレント映画を見てみるといいよ。「散り行く花」とか最高だよ。彼女と一緒に見てみるといいと思ふ。あ、それとももう彼女と別れたんだっけ?(いや、冗談、冗談だってばさ!)
あ、さういへば、「散り行く花」はオイシンに貸したままだな・・・。
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