ものすごくうるさくて ありえないほど近い [強制起訴シリーズ]
起訴者:元店主
強制起訴シリーズ 14弾
「ものすごくうるさくて ありえないほど近い」
スティーブン・ダルドリー監督
9・11で父を失った少年オスカーが、ニューヨーク中を走り回る!
死んじゃった父をトム・ハンクス、母親をサンドラ・ブロックが演じる、ジョナサン・サフラン・フォアの同名ベストセラー小説の映画化。
予告編で流れていたU2の歌に、不安を隠せないで鑑賞に臨んだ3人でしたが・・・。
★
- ヤマネ
- やー、わりと面白かったですね!ボクは結構好きです、これ。75点!
- 元店主
- うん、そうだね。私もまぁ、良かった、かな。うーん、70点
- マツヤマ
- オレも同感。点数は・・・65点、かな
- ヤマネ
- えー!なんか二人とも点数低いじゃないですかー!ほんとに良かったんですかー?
- マツヤマ
- もちろんだよ。本編では予告編で鳴り響いていたU2が流れなかった所とか、トム・ハンクスが早々と死ぬ所とか、いい所は結構あったよ
- ヤマネ
- それ!むっちゃネガティブな評価じゃないですか!
- マツヤマ
- いやー、悪いけど、やっぱオレ、トム・ハンクスだめだわ。なにやっても、トム・ハンクスはトム・ハンクスにしか見えない。あのスタンダップ・コメディアン出身の、独特の臭みというか・・・、オレにとっては鶴太郎みたいんもんなんだよ、トム・ハンクスは
- ヤマネ
- わー、酷い!
- マツヤマ
- だから、トム・ハンクスが生きてる最初の方は辛かった。オレ、最後まで観る事ができるか、不安になったもん。やっぱあの父親役も、マット・デーモンがやればよかったんじゃない?
- ヤマネ
- だめですー!だって、マット・デーモンなら、ビルに飛行機が突っ込んだって死なないですもん
- 元店主
- 確かに、私もトム・ハンクスは苦手だった。あの肩をすくめる仕草とか、うわ!さむ!とか思って。・・・というか、あの父子関係が気持ち悪かった。・・・ですよね、マツヤマさん?
- マツヤマ
- え?そうか?オレは、結構いいと思ったけど。なんつーか、オレとマサユキの理想、というか。
- 元店主
- ええー!そ、そうなんですかー!マツヤマさんも、マサユキくんとテコンドーごっこをしたり、調査探検ゲームをしたり、矛盾語合戦をやったりしたいんですかー!
- マツヤマ
- ・・・え、だめ?
- 元店主
- いや、ダメじゃないですけど・・・、やっぱ私はああいう友だち親子みたいなのは苦手でして・・・
- マツヤマ
- オレも別に友だち親子がいいと思ってるわけじゃないんだが、ああいう風にマサユキに愛情を注いでやりたい、と、一緒に色々と遊んだり、まー、親としてだなー・・・あ、ヤマネくんはどうなんだよ?
- ヤマネ
- お、ボクにふりましたね。んー、ボクの場合は娘ですから、マツヤマさんの所とは事情が違うんですけど・・・。むろんボクだって娘に愛情はたっぷり注いでやりたいですよ。でも、やっぱあの映画の場合はあまりに父子がベタベタし過ぎだとは思いました。まぁ、子供がちょっとアスペルガーというか、一種の発達障害なんで、仕方がない面はあるとは思うんですが、でも、あれではお母さんが立つ瀬がないと思うんですよ。トム・ハンクスが父親の役目も母親の役目もやってしまってる感じで、あれじゃ母親としてはひかざるを得ないですよ
- マツヤマ
- 過剰ではあったな、あの父子のベタベタ加減は。・・・あ!もしかして、トム・ハンクスもアスペルガーという設定だったんじゃないか!
- 元店主
- なるほど!アスペルガー父子だったんですね。それを母親が二人まとめて暖かく見守ってる・・・と
- ヤマネ
- 実際、この映画で一番いいのって、お母さんでしょ。ボクがこの映画の何が良かったって、またしても母親不在の父子映画かい!と思わせておいて、最後にお母さんの存在がドカーン!と出てくる所です。『シックス・センス』とか『A.I.』なんかを思い出しました。
- マツヤマ
- 最後になって、お母さんが総取りだもんな。良かったけどさ
- 元店主
- 対して、私が不満だったのは、子供の描き方が良くなかった事です。あの子、オスカーは、アスペルガー・・・というか、発達障害な訳じゃないですか。それがキチンと描かれていない。なんかお父さんを9・11で失って、まぁ、その時に辛い目に合うんだけど、それが原因でちょっとおかしくなった・・・という風にとれなくもない様に描かれている。違うでしょう。お父さんが生きてた頃から、あきらかにおかしい
- マツヤマ
- オヤジの方もな
- 元店主
- ええ。あと、オスカーの深刻さとか健気さだけを前面に出し過ぎて、彼の問題点を相対化できてない。あれじゃ、なんでもかんでも自分中心で、自分は頭いいと思ってて、空気読めなくて周りの人を傷つけたり不快にさせたりする、単に傍迷惑な嫌な奴でしょう。なのに、なぜか周りの人みんなに圧倒的に支えられ、愛されているという・・・。発達障害と分かってるから、まぁ、頭では理解できるけど、共感はできないですね。それは大事な所を描けてないからですよ。・・・なんか、全然ダメな映画の様な気がして来た。点数を60点に下げよう。
- ヤマネ
- わー、下げないで下さいよー。でも、でも、いい所もあったんでしょう?どこらが良かったですか?
- 元店主
- うーん・・・、そうそう、映像が良かった。なんちゅーか、色使いもシャープだったし、建物やインテリアも良かったし、ショット的にもカッコいい映像が結構出て来る。
- マツヤマ
- あの赤い壁な
- 元店主
- そうです!私、ゴダールかと思いましたよ。あと、マックス・フォン・シドーが言葉をいちいちノートに書いてみせるところとか、音が急に大きくなるところとか
- ヤマネ
- 美意識の高い監督さんなんでしょうねー。他には?
- 元店主
- そうだな・・・。物語の結末の付け方は良かったかな。この話、要するに、強烈な悲劇を体験して傷ついた少年が、再生していく話でしょう。こういう話って、結末の付け方がポイントだと思うんですよ。如何にして、再生するのか?
- マツヤマ
- これ、仏教説話のキサー・ゴータミーの話に似てない?自分の子供が死んじゃったキサー・ゴータミーが、仏陀に子供を甦らせてくれ!って頼むの。そしたら仏陀は、死者の出てない家に行ってそこから芥子の実を貰ってきなさい、それがあれば甦らす事ができる、とか言うんだよ。で、キサー・ゴータミーが必死に死者の出てない家を探すんだけど、どの家でも必ず死者は居る訳で、それで本人がハッと悟る・・・という話
- 元店主
- 確かに、構造的には似ています。でも、私がいいと思ったのは、そんな事ではオスカーは悟らなかった、という点です。まぁ、アスペルガーですから、他人の悲しみなんかに共感しません。そんな彼が、如何にして再生したのか。・・・で、この映画では彼の再生を2段階で描いてると思うんです。まず、彼は父の死を巡って彼の身の回りに起こった事を、『ものすごくうるさくて ありえないほど近い』というスクラップブックにまとめます。ひとつの作品にするんですね。これによって、彼は事件を納得する事ができた。アスペルガーの特徴として、非合理が分からないというのがあるじゃないですか。でも人間はもともと非合理なものだし、人生もそうだから、それが分からないという事は、人間も人生も分からないという事です。だから空気が読めないし、人生もよく分からない。で、科学者とかになる人が多いんですが、オスカーも科学大好き少年なんですね。そして芸術とか全く分からない人間なんですが、その彼がひとつの作品をつくりあげる事によって、救われた。これは、芸術による救済を描いてるんです。むろん、この事はこの映画そのものとも響き合いますよね
- ヤマネ
- なるほど
- 元店主
- 次に、彼はブランコに乗る事によって、再生を完成させます。ラストシーンです。アスペルガーの人って、動作がぎこちなくて運動が苦手な人が多いらしいんですよ。オスカーも、多分そう。映画ではあまり分からないけど。とにかく彼は、ブランコに乗る事ができない。いくら父に言われても、恐くて乗れない。その彼が、ブランコに乗った。つまり、身体性に身を任せた訳です。身体性は、頭で割り切れるものではなく、非合理なものですから、それに身を任せたという事は、非合理に身を任せたという事です。これによって、彼は悲劇という非合理を受け入れ、再生した訳です。これはいいな、と。最後のブランコに乗るオスカーの靴と、最初のシーンの落ちて来る男の靴がオーバーラップして、終わり方もきれい。終わりよければすべてよし、・・・てな事で、やっぱ70点に戻すか。
- ヤマネ
- わーい!よかったー・・・て、なんでボクがこんな事で喜んでるのか分かりませんが、マツヤマさん的にはどうなんですか?得意の政治的深読みをしたら、もうちっと点数あがりません?
- マツヤマ
- あー、そうだなー・・・9・11の時、金融系のユダヤ人は死ななかった、とかいう陰謀論的俗説があるけれど、ちゃんと死んでる人も居るよー、というプロパガンダの映画・・・とか。いや、あまりに強引だな、これは。それより、この映画は9・11を政治的なあれこれから自由に、あの悲劇を体験した個人の視点で真っ正面から扱った秀作だと思うんだよな。どこかの国の某監督と違って、その点は素晴らしいと思うよ。
- ヤマネ
- だったら、何点になります?
- マツヤマ
- うーん・・・66点!
- ヤマネ
- ガク!・・・たったそれだけですかー
- マツヤマ
- それでも先月の『月光の仮面』に較べたらダントツの高い点数だよ
- ヤマネ
- あわわ、やぶ蛇やぶ蛇。・・・で、来月の起訴者はマツヤマさんですが・・・一体なんの映画ですか?
- マツヤマ
- うん、スティーブ・マックイーン監督の『シェイム』という映画だよ。セックス中毒者の映画
- ヤマネ
- うわー!観たくねー!
- 元店主
- ははは、それでも、頑張って観にいきましょうね!
Comments
投稿者 オイシン : 2012年03月11日 23:02
オスカーは確かに合理性が強すぎて、いやーな感じでした。泣いてる女性の顔の写真撮ってしまうとことか信じられん!
母親も一番おいしいとこもってったようで、
全部先回りして回ったっていうのも変だし、
ほなもっと普段からオスカーをうまく扱えるんちゃう?
とか感じて気持ち悪かったです。
なんか書いていると、僕もあかん映画だったような気になってきましたw
良かったのは、目の前にいる人に常に必死に語りかけるオスカーの姿にぐっときました。どうもそういうのに弱いです。自分が淡々としすぎてるからかなー。
がんばります!
投稿者 オイシン : 2012年03月11日 23:04
ずっとトム・ハンクス避けていたのに、ついに見てしまいました。やっぱりあきませんねー。
気がついたのはエンドロールでですがw
投稿者 元店主 : 2012年03月16日 04:06
母親が全部先回りしてた、といふのは別にちっとも変ぢゃないと思ふぞ。むしろ、先回りしてなかった方が変。先回りしてなかったら、あんなにスムーズにオスカーの訪問ができる訳ないし、母親がオスカーの外出を止めないといふのも変だらう。
それに、母親は十分にオスカーをうまく扱ってゐると思へる。一体、オイシンがどこらへんが気持ち悪かったのか、よー分からんな。
少なくとも、我々3人の意見では「母親が一番良かったね」だったが。
結局、オイシンは何点ぐらゐなん?
投稿者 oishin : 2012年03月16日 22:29
すばり、75点です!
下手に整理すると、訳が分からなくなりますけど
楽しく見てました。
母親の件は理解するには、もうちょっと経験値か
いるのかなあ…。
投稿者 テラリー : 2012年03月29日 21:03
遅くなりました!
この映画好きです!80点です!
トム・ハンクスは好きでも嫌いでもないですが、肩をすくめる仕草は確かに気持ち悪かったです。でも、父親が常に権威を保っていたので、関係性はいい感じだと思いました。
父親とのべったり具合が最後の母親の株をぐんとあげて、全部母親がもっていったと僕も感じました!
説明するのが難しいのですが、鍵が父親からのメッセージで無かった点も良かったです。
ただ、恥ずかしながら、六つ目の地区があった証拠がブランコな理由がわからず消化不良です・・・
投稿者 元店主 : 2012年03月30日 03:50
遅いなぁ。一体何をしてたんだ?
ちなみにオパールでは、テラリ−が事故で死んだ説、自らのルーツを探しに東欧に行ってしまった説、セックス依存症で苦しんでる説、など出てゐたが・・・。
投稿者 テラリー : 2012年03月30日 07:30
申し訳ございません!
考えれば考えるほど何を書いてよいかわからなくなり、開き直るのに一月かかってしまいました。見栄っ張り反省中です。
お恥ずかしいかぎりです。
僕のルーツは東欧にあったのですね!
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