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2012年03月01日(Thu)

「TIME / タイム」 []

科学技術の進歩によって、人類が不老不死を手にした近未来、遺伝子操作によって25歳で身体の成長が止まり、生まれたときに予め与えられていた1年という時間が進み出す。左手に埋め込まれたボディ・クロックが示す時間は通貨であり、余命でもあるのだ。

2008年のサブプライム崩れ以降、ハリウッドで急増中のアンチ資本主義映画であり、通貨=時間に置き換えられるという大胆かつストレートな発想の近未来SF作品だ。この魅力たっぷりの設定に、何時・誰が・何故・どのように~という謎を解き明かしながら、主人公ウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)が貧困層なりの知恵を使って、富裕層によって仕組まれた格差社会を如何に転覆させるのか、それとも敗北するのか、ワクワクする前半部分。「リアル・スティール」同様、貧困層が住む荒んだ近未来の街・スラム・ゾーンの雰囲気がリアル感を盛り上げる。

…と、思って観ていると、命を繋ぐだけで精一杯、ギリギリ生活を送ってきたはずのウィルは何故かポーカーの腕前は超一流、車の運転は逆走でも自由自在、拳銃の扱いも手慣れたもの…と雪だるま式に増え続ける疑問の数々。そこはまぁ大目に見て、とにかく期待は富裕層との頭脳戦…かと思いきや、えっ、強奪ですか? で、その奪ったカネ、じゃなくて時間をスラム・ゾーンの住民に分配する? 大丈夫かウィル? アンタ、ちょっと前に友人に10年あげたけど、その友人は貧乏故に大時間(大金の意味)の使い方が分からなくて1年分(100万円分くらい?)の酒を一気に飲んで死んだのを覚えているはずだろ?

さて唯一の望みはウィルの父親の死の真相、それが分かれば一挙に謎は解決するはず。 しかしそんな希望も消えつつあるなか、ウィルと行動を共にしている富裕層の娘シルビアとの関係はそうとう深まっていた。しかし、2人っきりになって、さぁこれから!というときに決まって父親、警察、ギャングのオジャマムシが入るのだった。

気を取り直して…。この作品の面白さのひとつは、誰もが25歳で身体の成長が止まるため、実年齢が50歳だろうが100歳だろうが、25歳くらいに見える役者ばかりを揃えていることだ。その制約のなかで、お母さんはお母さんに、お父さんはお父さんに、おばあちゃんはおばあちゃんに見せる努力が垣間見え、その設定が成功しているかどうかはともかく、なかなか楽しめるのではないだろうか。

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左から、婆ちゃん、母ちゃん、娘。

実年齢85歳のシルビアの父フィリップは超大手時間ローン会社の経営者で悪役だ。しかし、何故か彼がそれほど悪者に見えなかったのは筆者だけだろうか。
フィリップは、自分の財産100万年を奪うウィルに「スラム・ゾーンの住民に分配しても彼らが幸せになるわけではない」というが、それは先にも述べたようにウィルには分かっているはず。
フィリップはおそらく2008年に起こった大事件を歴史で学んでいるのではないかと思われる。その後のドルの崩壊、または世界的通貨制度の崩壊によって作られたのが時間通貨制度ではないかと筆者は思うのだ。そして歴史は繰り返される。

ウィルが奪った100万年が分配されたスラム・ゾーンの住民たちは、ゾロゾロと富裕ゾーンへと向かうが、その姿はゾンビか、「猿の惑星:創世記」の猿以下にしか見えない。
ラスト・シーンで筆者は「無理、無理!」と心の中で大きく叫んでいたのだった。

そして、けっきょくウィルとシルビアは、少なくとも上映時間内に結ばれることはなかったようだ。

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