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2011年11月03日(Thu)

「ミッション:8ミニッツ」 []

Text by Matsuyama

死者の脳には死亡直前の8分間の記憶が残存しているという(ホントじゃないと思うけど)。「ソース・コード」というプログラムの被験者の意識を列車爆破テロで死亡した乗客の一人に残された記憶の世界に転送し、犯人を突き止めて第2の爆破テロを阻止するというミッションが始動していた。以降ネタバレがあるかもしれないのでご注意を!

記憶の世界への転送というと「インセプション」で見た潜在意識で構築された擬似的空間のようなものかと思うが、いや、もしかしたら、このプログラムを考案したラトレッジ博士(ジェフリー・ライト)やプログラムを操作している女性・グッドウィン(ヴェラ・ファーミガ)もそのようなところへ転送していると思っていたのかもしれないが、主人公・スティーブンス(ジェイク・ギレンホール)が転送されていたのは、いわゆるパラレルワールド(平行宇宙)なのである。そこを掘り下げてパズルを解くように観ていくのが、この作品の本来の楽しみなのかもしれないが、筆者はまた別の(というかいつもの)角度で解いてみることにする。

第一にこの作品が伝えたいメッセージとは「国や人種を超えて笑い合える世界をつくりたい」ということだ。
この作品はSFでもあり、ラブロマンスであることの他に、テロを扱ったサスペンスでもある。それは 9.11 の前と後とではまったく意味合いが違ってくる。9.11 以降、映画でテロを扱うということはまさに 9.11 のトラウマを意味するものだ。
ラドレッジ博士はこのテロは「すれ違いざまの2本の列車が同時に爆破するように計画されたものだ」と断言するが、そこで疑問がひとつ。この列車は「10分遅れているぞ!」とピリピリしている乗客がいる。このピリピリした乗客も最後は笑い合える世界の一人になるという伏線でもあるが「10分遅れている」ということは偶然ではなくて必然であるということだ。

核兵器や無人爆撃機を使用することは国際法で禁止されていたが「作ったら使いたい」のがアメリカ政府の性なのか「ソース・コード」もかなり人道に外れていやしないか。それでも使うためにもやはり大義名分が必要なのである。
イラクを攻撃するためには 9.11 が、ソース・コードを使うには大規模テロが必要だ。しかし、ここで列車を爆破するテロリストは 9.11 以前どころか、マンガに出てくるようなステレオタイプの反社会的革命家で、9.11 以降にテロを扱った映画ではありえなかったキャラクターだ。10分遅れた列車とステレオタイプのテロリストはソース・コードを実験するために意図的に仕組まれたものであったと思うのだ。

アフガンに駐留していた陸軍パイロットのスティーブンスは、乗っていたヘリが爆撃を受けて重体で無自覚のままソース・コードの被験者になるという二重の苦しみを味わうということは悲劇でしかない。しかも元になっているのが2つの自作自演テロということが、アメリカ政府が如何に自国民を祖末にしているかを物語っている。
そう物語っているとはっきり言えるのだ。それは、列車の2階席に座っていた乗客の女性が、これ見よがしにどこからでも目立つところに置いてあったバッグに「ウォルター・リード陸軍病院(もちろん英語で)」とプリントされていたことだ。一見ご都合主義と見なされそうな設定だが、このワシントンにある実在の病院はイラク戦争で負傷したアメリカ兵を、ゴキブリの死骸やネズミの糞だらけの劣悪極まりない環境に置いたことで世界的に有名になったところだ。

さて、スティーブンスの意識は“元の世界”から複数の“別の世界”に転送されるが、もちろん平行に時間が流れる(が少し前の時間の)それぞれの別の世界にも同じ列車の乗客がいれば、ソース・コードも存在する。
ラトレッジ博士にしてみれば想定外の“爆破阻止まで遂行できた世界”で、スティーブンスは元の世界では心を通わせるまでの関係になったグッドウィンにメールを送る。もちろん爆破テロを阻止した世界ではプログラムは始動していないから、グッドウィンとスティーブンスの心の交流も始まっていない。メールには「このプログラムは目的以上の力を持っている。8分以上の世界を作ることができる。そこにいるスティーブンスに『すべて上手くいく』と伝えてくれ」と書いてある。ここで初めてスティーブンスに感情移入したようにハッとしたグッドウィンの表情がたまらなくイイ。

そしてスティーブンスが爆破テロを阻止した世界で、みんなが笑い合っていた列車内にはウォルタ・リード陸軍病院のバッグがなくなっていたような気がした。

この世界では 9.11 もなかったのかもしれない。

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