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2009年01月16日(Fri)

チェ 28歳の革命 ☆☆☆★★

Text by Matsuyama

今年最初の映画鑑賞がこれです。今年もよろしくお願いします。私はやはり今年も映画というものを政治的な側面(私は正面だと思っていますが)から観て、ここにレビューを送ることに決めました。
後から読み返すと誤った記述も多数見つかることでしょう。指摘があれば検証して、必要があれば訂正文を載せます。

さて、Tシャツほどに薄っぺらい“おすぎ”のコメントで、ホントにTシャツでしかチェ・ゲバラを知らなかった人は、この映画を観て一体何を知ることができたでしょうか?
私がそう思うのは、メジャーな映画サイトのユーザー・レビューでの多くの低評価コメントからそう察したからです。私はよくそういうサイトをチラ見しては「私と同じような見方をしている人は他にいないかしら」と同志の存在を僅かに期待しているのです(今回はストレートに書きますが)。

「読み書きを出来ない者は騙される」とは作品中のゲバラのセリフです。「読み書きを出来ない者」を現代に置換えれば、例えばこの映画を観て「何の革命なのかちゃんと描かれていないからわからない」「当時のキューバがどういう状況だったのかがわかり難い」などというようなコメントを堂々と書き散らして「退屈な映画」「薄っぺらい内容」などという“おすぎ”ほどに底の浅い評価を下す人のことを「読み書きを出来ない者」というのではないでしょうか。

本編上映前に2〜3分のガイド(野暮!)が上映されますが、映画は歴史教科書ではないので、ゲバラの映画を観るならば、事前に本を読むなり、インターネットで調べるなり、キューバ革命について歴史的事実を何も知らないなら調べるべきなんです。Tシャツのプリントでしか知らないものを2時間で一体何を得ようというのか。それとも、そうすることがネタバレにでもなると思っているのでしょうか。製作者は少なくとも、この映画を観る人はキューバ革命とは何だったのかを大凡でも知っていてあたりまえだという前提で作っているのですから。

ここでは革命とはアメリカ帝国主義との戦いだということがハッキリと描かれています。バティスタ政権がアメリカの傀儡であり、親米制作をとっている限り独裁は世間から見過ごされ、農民は貧しく、教育も受けられず、子供の死亡率が上がる…、といったことがゲバラのセリフとして散りばめられています。
「農民を尊敬しなさい」というこの言葉こそチェ・ゲバラがいかに民衆の立場にあった革命家だったかを表しています。

ハッキリ言ってこの映画が退屈だという意見があることは否定できません。何故ならこの作品はゲリラ戦というものをものすごくリアルに描いているからです。ここで常にバンバン撃ち合うのが戦争ではないということを知ることができます。
「映画というものは巨費を投じた娯楽であるから退屈であってなならない」と言うのなら、私は何も言えません。私は常に真実を知りたい、真実こそが面白いと思っていますので。
淡々と続く行軍の退屈さは、おそらくパート2の「チェ 39歳 別れの手紙」ではさらに増してくると思われます。その分セリフのひとつひとつをしっかりと噛み締めることができることでしょう。

話が飛びますが、これを観て私はひとつの映画を思い出しました。「若き勇者たち(1984、ジョン・ミリアス監督)」です。
アメリカに侵略してきた共産軍と戦う8人の高校生という突拍子もない内容のフィクションなのですが、これが大マジメにゲリラ戦を描いているんです。そして、そこで描かれていた共産軍というのがソ連、ニカラグア、そしてキューバの連合軍だったということを後から知りました。

私が今想うことは、「若き勇者たち」での極端な構図は実はキューバ革命を描いていたのではないかということです。一見それは米ソ冷戦下における共産主義国への敵視政策にも思えますが、それはどうも逆で、製作者側の自国批判のように思えるのです。
共産軍は山岳地帯の田舎町に落下傘で降下し、無差別に住民を撃ち殺しますが、それもアメリカ軍が中南米の目標地域を侵略する際に行なった作戦と同じようなものです。
要するに映画製作者は当時、反共の強硬派レーガン政権時であったのをいいことに、そこにアメリカの中南米における悪事をそれとなく暴き、ゲバラたちがキューバ革命においてどのように戦っていたかを、即席ゲリラの高校生に置換えて描いた作品だと私は思ったのです。

監督のスティーブン・ソダーバーグはインタビューでチェ・ゲバラの魅力そのものを描いたと言っておりますが、ルックスを含めてゲバラの革命家としての魅力はすでに充分に世界中に伝えられていることです。映画監督というものは作品について本心を語りません。パンフレットでも雑誌でも、ハッキリ言ってテキトーなことしか言いません。何故なら作品にすべてを語らせているからです。

この作品で描かれていることはゲリラ戦の実態であり、アメリカ帝国主義の真実です。アメリカが革命の英雄を共産主義者に仕立て上げて世間の批判の的にしたり、亡命キューバ人を洗脳して扇動してカストロ政権と戦わせたこと。そのようにして利用価値のある中南米やアフリカ、アジアなどの途上国に内政干渉、または指導者の暗殺や軍事侵攻などして傀儡政権を起て、利権を欲しいままにしてきたという事実をストレートに伝えている。深読みではなく。

パート2「チェ 39歳 別れの手紙」でも書きますが、まるで遠く離れた国の過去の出来事として観るか、今、私たちが直面している現実と比べて観るか、それだけでも大きく評価は異なるでしょう。政治というものが一体誰のためにあるのかを理解していれば、映画はもっと身近なものになると思うのです。


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