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2008年12月13日(Sat)

「WALL・E/ウォーリー」 ☆☆☆☆★★

Text by Matsuyama

時は2100年、すべてのサービスを供給する巨大企業“BnL”社が世界政府となっていた地球はゴミと合成化学物質、放射性廃棄物で汚染され、ゴミ処理ロボット“ウォーリー/WALL・E”たちに地球の掃除を任せ、人間たちは宇宙へ旅立ったのでした。

これより核心部分にまで触れますので未観の方はご注意ください。

人類が地球を去ってから700年後、一台のロボット、ウォーリーは壊れた仲間の部品を取りつつ自分で修繕しながら、せっせと地球のゴミを圧縮し積み上げているところから映画は始まります。

ねぇねぇ父さん、あと百年もたたないうちに地球があんな風になっちゃうの?
それはわからないけど、現代人(先進国の)が今のような過度の消費を続けていたらそうなる可能性もあるだろうねぇ。
でも、環境問題もウソばかりだっていうし、温暖化も実際は無いって父さんはいつも言っているから、何も変わらないんじゃないの。
それとは別の問題だ。
確かに捏造された情報は多いけど、だからといって今の人間の生活が正当化されるわけではないんだよ。
食べ物を粗末にしたり、好き嫌いがあったり、新しい物を買っては簡単に古い物を捨てるような生活は間違っているんだよ。
贅沢を覚えた人間の影には貧困が存在しているんだ。
途上国の貧困は先進国によってつくられることが多いんだ。
そういうこともこの作品に描かれているんだよ。

さて、地球を離れた人類はどうしているかというと、遥か宇宙に漂うスペース・コロニー“AXIOM”で暮しているのでした。
そこの人間たちはAXIOMの中の700年にもわたる、レジャーと食料を与えられるだけの楽々生活で思考回路が麻痺した肥満体の群れとなっていたのです。
そして、それでも多少マシだったのはAXIOMのキャプテン(船長)が僅かに気力を保っていたということです。

ボクもデブになるの?
あの人たちは食べても運動をしないで、寝そべってばかりいるから、ああなったんだよ。
お前はたぶんもうすぐ痩せるはずだ。
マサユキは今「立っチ」したところだから、歩き出したら痩せる、というのが一般的だ。
でも、あの人たちも歩いたり運動したら痩せるんじゃないの?
あそこでは生きることに必要なすべてが寝そべっているだけで自動的に供給されるから、痩せる必要がないのサ。
あれはローマ帝国が滅びる一因でもあった「パンとサーカス」といっしょで、帝国の最終段階を描いているんだ。
手に入れるものがなくなると、残されたものは怠惰だけってことなのサ。
頼りの綱は指導者としてのキャプテンかな…。

しかし、実際に主導権を握っていたのはキャプテンではなかったのです。
歴代のキャプテンの肖像写真には必ず背後にオートといわれるBnL社による人工知能の操縦桿が写っていたのです。
キャプテンによる重大な決断はオートに阻まれてしまうのです。

けっきょくそういうことなの?
そういうことだ。
けっきょくあれといっしょで、アメリカは本来、政府ではない巨大多国籍企業のトップの富裕な一族が操縦桿を握っているということだ。
だからAXIOMの全体像が北米大陸のシルエットなんだよ。
なるほど、見覚えのある形だと思ったら…。
それでウォーリーは何かにあてはめることはできるの?
あぁ、ウォーリーっていうのは途上国で働かされる奴隷のようなものさ。
アメリカが帝国主義の名の下にCIAやNSAのエージェントを送って、資源の豊富な途上国に傀儡政権を作り、実質的にアメリカがその国を経営するんだ。
その国本来の生態系を壊して、地元住民を低賃金で働かせる。
そうやって民族の土地と歴史を踏みにじってきたんだ。
この映画は「そこに自然を返しなさい、すべての権限を返して、そして原住民・先住民に習いなさい」って言っているんだよ。

……今回のレビュー(というかいつもの「ぼやき」)、ちょっと野暮かな?
と思いつつもけっきょく書いてしまいました。
実際はもっと細かく分析できそうですが、わかり易い部分だけを拾うとこんな感じではないでしょうか。
ウォーリー、可愛いですネ。
ウォーリーがバッテリー充電のために太陽電池を広げる姿はとくにカワイイ。
Macの起動音やipodの登場では、ペプシ対コカ・コーラの比較CMを思い出します。
ユーモアたっぷりでけっこう笑えました。
これを子供といっしょに観て「楽しかったね、可愛かったね、感動したね」って喜ぶのもいいですが、これは子供の目から見ても社会学習的要素が豊富ですから、せめて物を大切にすること、食べ物を粗末にしないこと、そして奪わないことを教えてあげる良い機会です。
忘れていたことがひとつ。
イヴとウォーリーのこと。

イヴはどうしてウォーリーと心が通じ合えたの?
あれは人類の大きな夢だよ。
新しい、キレイ、白い、そして富の象徴としてイヴがあり、古い、キタナイ、有色、貧困の象徴がウォーリーだ。
このふたつは地球上で支配するもの、されるものとしての関係が続いているけど、これがまったく対等な関係になって互いの領域を侵さずに、対等な立場で両者が手を結ぶことが理想的な社会だと思うんだよ。
父さんはいつもカネがないって言ってるから貧しいの?
それは口癖みたいなもので、父さんはいつも美味しい物を食べているし、洋服も靴もいっぱい持っているから裕福なんだよ。
貧しいというのはね、いくら泣き叫んでも、ミルクも食べ物ももらえない赤ん坊や子供たちが沢山いる状態だ。
途上国では毎日、飢餓で2万4千人も死んでいるんだ。
それは自分たちが怠けていたせいではなくて、ほとんどが先進国の贅沢のためだ。
裕福な国の人間の食料や石油やダイヤモンドのために貧しい国の人達が苦しんでいることを忘れてはいけない。
そんな悲しみも背負っているからウォーリーには感情移入できるようにものすごく上手にアニメが作られているんだ。
だからラストは紋切型でもしっかり感動できる。

そしてこの作品にまったく社会的要素を感じていない人、これを観ても今なお大統領がアメリカの最高権力だと(本来そうあるべきですが)思い込んでいる人は家で寝そべってテレビでも見ていなさい。

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