「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」 [☆☆☆☆]
自分のレビューを読み返すと、同じことを何度も繰り返していることがわかります。テレビ批判が多い(それと間違った見解が多い)ようです。もしも続けて読んで下さっている方がいるならば、すでに食傷気味になっているかと思うのですが、何故このようなことを最初に言うのかといいますと、またもや似たようなことがテーマとなってしまいそうだからです。
白石一文という小説家が好きです。「一瞬の光(2000年)」でデビューして現在(2008年12月)までに12作(短編集を一作として)の小説を出版しております。私の知る限りではすべて書き下ろし作品だったと思います。
さて、白石一文はある意味売れっ子作家なのですが、直木賞候補が一度あっただけで、実際には直木賞も、芥川賞も受賞しておりません。それは白石が現代的でオシャレな若者文化やスノッブな世界観、そして安易に“情”を描かないからではないでしょうか。そういった出版業界の経済論理に沿っていないところに私は好感を持っております。
そして、ある意味売れっ子でありながら、私のような熱狂的(というほどでもないのですが)なファンはあまりいないのではないか(実はあるのかな?)、とも思われます。そこそこ、まぁまぁ好きなファンによって支えられているのではないかと思うのです。何故なら白石の作品はワンパターンと思われがちだからです。それぞれ違う作品でありながら、出てくるのはエリート・サラリーマンで超美男子。交際女性はまたもやテレビでも見ないような美女で料理上手。九州男児の男性主導的(実際にはそうじゃないとも言われますが)な振舞い。そこに上司の派閥争いに巻き込まれたり、父親との確執、一般的な道徳観や常識への批判などが表面的なテーマとなります。
しかし12の内の6作目からは女性が主人公だったり、霊感や予知能力、超能力といった要素が入ってきます。それは真実として描かれ、人工的に作られる宗教心とは区別されます。8作目からは徐々に人生の終着点を模索し、そして12作目にあたる最新作「この世の全部を敵に回して」では、知人の残した手記という形をとりながら、終止、“主観的な文章”で綴られており、死とは?愛とは?といった論争の終着点にまで至っている「ものすごい内容だ」と私は思っております。全作品を通して市場原理主義への批判、そして“死と隣り合わせになる現代社会”が描かれております。
週刊文春の記者を経て全身小説家となった白石一文の全作品のフィクションには真実があると私は思っているのです。
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