「イーグル・アイ」 [☆☆★★★]
Text by Matsuyama
またまたハリウッド映画です。政治映画です。なんて言うと「またか、そういう目でしか映画を観ることができないのか」と呆れられ、飽きられるかもしれませんが。
ハリウッド映画とは良くも悪くもそういう目で観るものなんです。いつの時代も芸術は思想表現ですから、社会主義国家では芸術がプロパガンダとして利用され、危険分子として疑いをかけられたら監視対象になります(2007年の独映画「善き人のためのソナタ」で描かれております)。特に9.11N.Y同時多発テロ以降は愛国の名の下に国民を監視するための数々の法案が可決されてゆき、国民の行動と個人情報を政府が掌握できるようになりました。正に社会主義国家です。今や自由の国ではありません。
私がこのように一人称で文章を連ねてゆくと、読み手にとっては説教臭く、または肌寒い感じがすることが自分でもよくわかります。そこでいつもの親子の登場です。彼等は時折、物語の核心に触れたり、結末を暴露することもありますので未観の方はご注意ください。
- 子
- ねぇねぇ父さん、父さんのお店の隣のビルの一階に変な会社があるね。
- 父
- コラ、マサユキ!
「変な会社」とか言うんじゃない。
これ読まれてたらどうするんだよ。
- 子
- ここのは読まないでしょ。
まったく接点がないと思うしネ。
- 父
- いや、わからないぞ。
あそこはウインドウに大きなテレビモニターを置いて。
あちこちに監視カメラを設置しているんだ。
父さんは毎日そこの前を通ると、自分の姿が妙な角度で映されていてすごく気持ち悪いんだよ。
電気屋のカメラ売り場だったらどのレンズが写しているのがハッキリわかるからいいんだけど、そこのは父さんの姿が上の方から撮られていて、モニターの分割画面のひとつに映っているんだ。
モニターを分割して周辺の違う場所も映されているから、まるで辺りが監視されているみたいなんだ。
「やめてください」って手紙に書いて郵便受けに入れに行こうかとも思ったんだけど、そこに行く姿までも写されてしまうから恐くて近寄れないんだよ。
どうも企業やビル向けの防犯カメラを遠隔操作、記録、管理する会社のようなんだけど、その宣伝としてはちょっとやり過ぎかと思ってね。
「裏の顔がある」と父さんは思っているのサ。
- 子
- ボクもそう思うよ。
「イーグル・アイ」を観たら父さんの言うことも少しわかってきた。
- 父
- オイオイ、それまではどう思っていたんだよ。
- 子
- 電波系。
- 父
- 電波系?
……電波系!
そうか「イーグル・アイ」はある意味電波系だ。
一昔前の「電波系」の意味とは違う、ホントの意味での「ネオ電波系映画」だ、イヤ「ネオ電波電線系」だ。
隣の会社もネオ電波電線系だ。
だから父さんは脱電波系で、真理系になるぞ。
わかったか、マサユキ。
- 子
- 勝手にしたら。
で、「イーグル・アイ」の世界は現実にはあり得るの?
- 父
- そうだな、「ターミネーター」よりはより現実的かもな。
電話の声の主、仮にマサコ(MASAKO)としよう。
マサコが主人公たちを自由に動かすために、地上のすべてをコントロール出来るというのはオンラインやGPS機能の発達で、ある意味可能かと思うけど、送電線を切断して対象人物を感電死させるまでは無理かと思うが、まぁそこは映画の世界だ。
実際、我々の生活は便利になっているけど、便利になればなるほど商品との間に機械が介在してくる。
カードやインターネットで個人情報がどこかわからないところで集約されているかもしれないし、CD機やパソコンのカメラで顔が登録されているのかもしれない。
パソコンの前にいるときに使っていないと思っていてもカメラが機能しているかもしれない。
常にネットに繋がった状態だから、事件や事故としてのデータ漏れではなくて、ある機関が堂々とデータを回収しているかもしれない。
わかるか、マサユキ。
我々は性善説で手元から先の目に見えないものを信用・信頼しているだけで、その先にマサコがいないという確証はないんだよ。
- 子
- わかるけど、何もかも便利になっているわけじゃないよ。
ひとつだけすごく不便な銀行がある。
週末になるとお金が下ろせなくなるんだ。
いまどきコンビニでいつでもお金が引き出せる時代なのに、あそこだけは日本最大の銀行のクセにしょっちゅうメンテナンスのために、コンビニでさえもお金が下ろせなくなるんだ。
- 父
- 日本最大というその規模以上に、サブプライム・ショックで日本最大の莫大な損失を抱えたあの銀行だな。
なんでも「お客様が快適に利用できるように……」メンテナンスしているらしいんだ。
いつでもお金が下ろせる現在以上に快適な状況ってどんなだろうねぇ。
いったいいつになったら今の快適じゃない(週末下ろせない、最大金曜夜から月曜朝まで)状態が終わるんだろうねぇ。
週末にお金を下ろしたい人って多いだろうしねぇ。
- 子
- ナニそのもったいぶった言い方。
- 父
- これ以上は父さんの想像だけで言うのは危険なんだけど、銀行名も出してないし、思っているから言っちゃうけど、ある意味一流の銀行が週末の度にいったいどんなメンテナンスをしているのか怪しいものだ。
それなら24時間稼動を一時止めて深夜にメンテすればいい、一ヶ月でも二ヶ月でも。
でも実際はなにもしていなくて、一時的に預金の引出し制限しているだけなんじゃないのか。
そのうち預金封鎖する可能性があるから、定期的にデモンストレーションしているだけじゃないのか。
すでに口座を引き上げている顧客が相当数いるんじゃないのか。
危ないんじゃないのか…ナ〜ット!(な〜んちゃって)。
- 子
- えっ、ヤバいの?
潰れるの?
- 父
- マ、マサユキ!
バカなこと言うんじゃない!
訴えられるゾ。
あんなデカイところがつ、潰れるわけないだろう(ないない)。
ただ、最近ヨーロッパではああいう莫大な損失を抱えた銀行の前には預金を全部引き出すために連日行列が出来ているっていうことがあまりこっちで報道されていないから、相変わらず日本のマスコミは怪しいなって思うんだよ。
こっちで報道するのはせいぜい外貨を買うための行列で、アレは危険だなって思うんだよ。
今ドルが安いから100万単位で買う人が多いっていうけど、すぐに海外に行って使うんならお得だ。
でも投資の意味で買うのはマヌケだと思う。
マスコミは“買い”とは言わないけど、買っている人を映すことで「買わなきゃ損かも」って思う視聴者は多いはずだ。
「カブドットコム」の加入者も3倍に増えていると報道すれば「とりあえず今下がっている株を買っとけば……」ってさらに加入者が増えるだろう。
そうやって少しでも“同盟国”を救うため(させるため)にスポンサーとして外国企業がたくさん入り込んでいるんだ(最近減ったけど)。
- 子
- (ささやき)父さん、父さん、イーグル・アイ、イーグル・アイ、マサコ。
- 父
- おっと忘れてた。
ほんの少しだが本題からずれたようだな。
で、なんだっけ?
そうだマサコ、マサコはある意味ターミネーターやHAL9000(2001年宇宙の旅)のような反乱コンピュータのように描かれていて、マサコ暴走のきっかけは一方的に中東のテロ容疑者を爆撃した大統領ということになっている。
そんな大統領は抹殺した方がよいというマサコは悪というより正義で描かれているんだ。
- 子
- マサコのモデルはデビッド・ロックフェラーじゃないの?
- 父
- 図式的にはそうなるだろうけど、これはロックフェラーを批判する映画じゃないよ。
9.11以降のアメリカの監視社会の恐怖をコンピューターや携帯電話のGPS機能を題材にして描いた、けっこう平凡なハリウッドのスリラー映画だ。
どれだけマサコが恐い存在で描かれても、それは人間が作ったものだ。
反乱するきっかけは大統領の中東に対する一方的な武力行使ということになっているから、ここでの悪者は大統領だ。
どちらかというとマサコ(ロックフェラー)はアメリカを正す存在として、人間が作ったものを悪用しているだけだから、ここで悪いのはすべて大統領(ブッシュ政権)ということだ。
アメリカ批判の全責任をブッシュに押し付けているのサ。
- 子
- じゃぁこれはロックフェラー側のプロパガンダ?
- 父
- あぁそうだ。
この製作総指揮のスピルバーグもユダヤ人だ。
それが悪いわけじゃないんだけど、スピルバーグは北アフリカのスーダン・ダルフール紛争っていう民族争いでスーダン政府を支援している中国政府を批判しているんだが、実際これはアフリカ各地での中国政府とロックフェラー石油財団の石油利権争いなんだ。
有名人(ロックフェラー系ユダヤ人の)が批判することによって中国に対して世界的な批判を浴びせ、スーダンから撤退させるためのプロパガンダなんだ。
この映画における監督(D.J.カルーソ)と製作総指揮(スピルバーグ)という関係はそのままブッシュとロックフェラーというふうに見てもおかしくはない。
それはこの映画に監督の個性がまったく見えないからだ。
どう見てもこれはスピルバーグの映画だ。
でもダメな部分は監督の責任にすればよい。
- 子
- でもけっこうおもしろかったよね。
- 父
- うん、まぁ、おもしろかった。
でもドラマとしては好きじゃない。
FBI捜査官モーガンと主人公ジェリーの人間関係の構築がまったくされてない。
善人モーガンが現実的にあり得ないことをどうやって理解して、無実のテロ容疑者であるジェリーと絆を深めていくのかをきっちり描いて欲しかった。
欲を言えばモーガンは死なずに、主人公のシングルマザー、レイチェルとジェリーとのスリー・ショットが見たかった。
主人公たちの恋の可能性なんかなくてもよかったと思うゾ。
- 子
- でも子供にしてみたらお父さんのような存在が欲しいんじゃない?
- 父
- まぁそうだが、それでも見た目で言えばジェリーよりモーガンの方がいいだろう。
- 子
- でもモーガンにはすでに家族が居そうだよ。
- 父
- そうかぁ残念だなぁ。
ところでMASAKOって……
- 子
- それは観てのお楽しみ。
- 父
- 物語の核心かもな。
Comments
投稿者 店主 : 2008年11月07日 11:18
私も「イーグルアイ」観てきました。
主人公が訳も分からず不条理な状況下で追ひ回される、といふのが、ヒッチコックの「北北西に進路をとれ」を連想させて面白かったです。
ところで我々、シスコで知り合った現地の日本語ガイドの方(女性)に、しつこい程「そんなに気軽にクレジットカードを使っちゃダメ!」と注意されたのですが(アメリカはカード社会なので、ジュース一本買ふのもカードでオッケーなんです)、その時は「ふーん」と軽く流してゐたものの、この映画を観た後では意味深です。なぜなら、その日本語ガイドの方は、今は別れた様ですが、長年FBIの方とつき合ってをられたのです。
やはり、イーグルアイは・・・・・・。
投稿者 Anonymous : 2008年11月07日 19:42
ずいぶんとリアルなお話ですね。私も阪急電車でピタパ(スイカ、イコカetc)使ってて、かざすだけで買い物もできますが、あれは合法的なスキミングですよね。
私たちの今の生活を考えると、もはやイーグル・アイからは逃げられませんね。
地球上(Earth)のどこにいても…。
Earth+Google=Eagle ?
投稿者 マツヤマ : 2008年11月07日 23:00
スミマセン、店主様への返信、名前入れるの忘れてました。
投稿者 テラリー : 2008年11月08日 00:31
ご無沙汰しております、テラリーです。
イーグルアイとゲットスマートを同じ日に観て結末部分の奇妙な符合に頭を悩ませておりました。
ハリウッドでは流行のネタなのでしょうか?
商店街?なんといっていいのかよくわかりませんがその辺の街頭にさえ監視カメラがついております。マサコが日本にも存在している可能性は高いとおもいます。
イーグルアイは映画は予告編を観てはいけないということを教えてくれた映画になりました(予告シーンが最も面白かったので)
TOKYOは観ましたが、正直僕にはよくわかりませんでした。
まだまだ修行がたりません。
投稿者 マツヤマ : 2008年11月08日 19:31
結末部分の奇妙な符合って?、ちょっとわかりませんが、予告が面白かったというのはわかります。私の場合、主人公のようなターゲットが他に何人もいるのかと思ってました。
事件があると、決まって防犯カメラの映像が出てきますが、事件があることを前提として、というよりも、事件があることで成立している世の中のような気がします。
投稿者 テラリー : 2008年11月10日 13:01
結末の符号とは、ネタばれですが、両方とも音に反応して爆発が起こる設定になっていたところです。
防犯カメラで撮影することを肯定するために事件が利用されていますし、まさに事件があることで世の中が成立してますね。
投稿者 マツヤマ : 2008年11月10日 22:15
そういえば、そんな共通点もありましたが、偶然、というかサスペンスの定番のようなネタですね。ただ、「ゲット・スマート」の方は軽い作品に見えて、ものすごく計算された背景があると思います。ロシアの核がアメリカで…というネタでは今年公開されてた「ネクスト(ニコランス・ケイジネーチャー主演の爆笑政治映画)」もバチグンのオススメです。
コメントしてください